第7話 一馬VS神崎④

 前座の試合が全て終わり、いよいよメインイベントである一馬対神崎のゲームを迎えた。実況がマイクを握り、いつもより一オクターブ高い声で煽る。

『さあ皆さん! ついにこの時がやってまいりましたぁ! 現在レーティング2位の一馬選手VS神のごとき神崎選手による注目の一戦! この試合、賭けないわけにはいきません!』

 場内が一気に吹き上がる。

「当り前だろ! 有り金全部賭けてやるぜ!」

「俺は一馬に託すぞ。流石の神崎でも一馬のトリッキーな動きには付いて行けねえだろ」

「いや、神崎ならやってくれる。神のごときそのプレイ、四天王に炸裂させてやれ!」

 会場内の支持率も割れている。それを反映して、二人の掛け率にも差がない。しかも引き分けの倍率が通常よりも低く推移している。これは賭けの参加者も、一馬と神崎の力が拮抗していると見ている証拠。

 刻々と変化する掛け率。その電光掲示板を見つめながら、神崎とのアップを終えた豪傑が、関係者席に入った。腕と足を組みながら凛と座っている華村の隣に腰を下ろす。

「邪魔するぜ。どうせ観るなら美人の隣で観戦したいからな」

「見え透いたお世辞ならいらないわよ。それより神崎の練習に付き合ってくれて、悪いわね」

「アイツには勝って貰わないと俺も困る。それに神崎とトレーニングしていると、こっちも鍛えられるからな。一石二鳥だ」

「掛け率を見る限り、みんなどちらが勝ってもおかしくないと思っているようだけど、あなたはどう?」

 訊かれた豪傑は、少し間を置いてから正直に答えた。

「俺がもし、自分の金を賭けるとしたら、迷わず一馬の勝ちに賭ける」

 それを聞いた華村の眉がピクリと動く。

「それだけ今回の戦いは厳しいということ」

「ハッキリ言って勝ち目は薄い。だが不可能を可能にするのが神崎省吾という男。一発かましてくれそうな気もする」

「気がするだけなのね」

「一馬もまた、それだけの器を持つ男だ。全盛期の神崎ならいざ知らず、三年もの間、実戦から離れていて勝てるほど、奴は甘くはない。実際に戦って負けたことのある俺が言うんだ、説得力があるってもんだろ」

「それでも一発かましてくれる可能性はあるんでしょ」

 華村が言うと、豪傑がニヤリと笑った。

「ああ、俺もそれを願っているぜ。確率はかなり低いけどな」

 十回に一回成功するかしないか。今の神崎が一馬に勝てる唯一の戦略は、とても心許ないものだった。

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