第7話 一馬VS神崎⑤

『それでは本日のメインイベントへの投票を締め切らせて頂きます!』

 実況が叫ぶと、電光掲示板の賭け率が止まった。拮抗した数字は最後まで続き、賭けの参加者の予想が真っ二つに割れていることが窺える。

『賭け金の総額は何と、二百万ドルを超えました! これは昨年、東堂選手対神崎選手が記録した最高記録の二百二十万ドルに迫る勢いです!』

 高額の売り上げに、会場内のボルテージがさらに上がっていく。

「当り前だろ! むしろ記録を更新しない方がおかしいくらいだぜ」

「あの時は一ヶ月前から試合が予告されていたから、盛り上がりがハンパなかった。今回はたったの一週間でこの賭け金だ。やっぱり神崎への注目度は違うってことだ」

「いや、人気者の一馬だからこその注目度だっての」

 客もそれぞれ言いたいことを好き勝手に言っている。そんな興奮のるつぼに、二人の選手がいよいよ登場する。

『レディース&ジェントルメーン。それでは本日のメインイベントを開催いたします。まずは青コーナーより、神崎選手の入場です!』

 いつもの無表情でゆったりと登場する神崎。その姿はまるで王者の風格をまとっている。

「お前を見に来たぞ神崎!」

「残らず全部賭けたからな! 一発かましたれ!」

「今日も大逆転で頼む!」

 すっかり地下で受け入れられた神崎。もはや常連プレイヤー並みの人気を誇っている。

『続きまして赤コーナー、一馬選手の入場です』

「やっほー!」

 おどける様なステップで華麗に入場してくる一馬。野太い男の観客に混ざって、黄色い声援が飛ぶ。

「キャー一馬!」

「神崎になんて負けないで!」

「私が付いているから!」

 ネットの向こう側にいる資産家や裏社会の大物たち。そのマダムたちからも絶大な人気を誇る一馬はファンサービスも怠らない。

「今夜、神を倒して俺が神になっちゃうから、みんな見逃すなよ!」

 歓声が一際大きくなる。この一馬という男、自分の魅せ方を熟知している。それが賭け金の増加につながり、ひいては自分のファイトマネーにつながることも知っている。

『それでは両選手、準備をお願いします!』

 実況に促され、それぞれ筐体に向き合う一馬と神崎。

「興奮するぜ。なあ、神崎」

 一馬は遠足に行く子どものようにワクワクしている。だが、神崎はいつもどおり情動に変化はない。ただ黙々と、筐体のチェックに入る。

「なんでえ、つまんねえの」

 リアクションのない神崎とのやりとりを諦め、一馬もチェックに入る。だが、その胸の内ではほくそ笑んでいた。

(今日の神崎は余裕が無いな。ギリギリの戦いになると思っている。ますます俺の思うつぼだぜ)

 トリッキーな動きを信条としている一馬にとって、相手が硬くなれば硬くなるほど、力を発揮できる。

『両選手、会場にお越しの皆様、ご準備はよろしいでしょうか。それでは本日のメインイベント、第1ラウンドのゴングです!』

 カンッ、と乾いた鐘の音が鳴り響く。会場内に一馬、神崎、それぞれを応援する歓声が一気に入り乱れた。

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