第5話 豪傑VS神崎③
『さあ、いよいよ最終ラウンドの開始です!』
実況が伝えると同時に、ゴングが鳴り響いた。双方、コーナーからリング中央へと歩み寄る。
「あの二人、何か言い合っておったの」
インターバル中の神崎と豪傑の様子が気になった仙人が呟いた。それは華村も見ていた。
「売り言葉に買い言葉かしら」
「だとしたら、神崎の口から出たのは負け惜しみじゃな。この状況では勝ち目はない」
「まだわからないじゃない」
「ホレ、見てみろ。またガードを固めて、当たらないローキックと前蹴りの繰り返しじゃ――」
画面に出ている神崎のキャラは、まるでデジャブのように同じ動きをしている。
「――神のごときと称された神崎でも、三年のブランクがあっては四天王に勝てるはずもない。なに、気にすることはない。まだ地下に来て二戦目じゃろ。今回はアンダーグラウンドの洗礼を浴びたと思って、次戦からまた頑張ればよい」
奴はこれから強くなる、仙人は神崎が負けることを前提で話をしていた。悔しいが、その通りになりそうな現実に、華村は表情を強張らせる。
『最終ラウンドも半分が過ぎましたぁ! ここから神崎選手の反撃は見られるのかぁ!』
実況の煽りも空しく、神崎はガードを固めてローキック、前蹴りを繰り返すだけ。その打ち終わりに合わせて豪傑から繰り出される攻撃をなんとか避ける。
ガードの上からでも削ってくる豪傑のフック。それでも神崎のキャラクターは打たれ強さ重視のセッティングのため、倒されることはない。だが、クリーンヒットを許せばたちまちKO負けとなる。
「一発も浴びることなく豪傑を倒す方法などない。玉砕覚悟で突っ込む以外、もう神崎には道がないぞ」
仙人の言う通り、一か八かの勝負に出るしか選択肢がない。だが、神崎はいたって冷静にキャラクターを操るだけで、焦りの色はない。
『残り30秒! 神崎選手動かない――いや、動けない! 豪傑選手のフックが神崎選手を削っていく!』
「おいおい、まさかの判定決着かよ」
「しかも豪傑の3R判定勝ちだと、十倍以上になるぜ」
「誰が賭けんだよ、そんなもんに」
観客席がザワつき始めた。予想だにしない結末が見え始めた残り二十秒。ようやく神崎が動く。
一気に間合いを詰めると、ハイキックの右まわし蹴りを豪傑の顔面目掛けて飛ばした。
『ここで神崎選手が踏み込んだぁ! これまでに見たことのないハイキックを放つ!』
見慣れない攻撃でも、豪傑は素早く反応した。いつも終盤になると焦った相手が破れかぶれの攻撃に撃ってくる。それに慣れている豪傑に焦りはない。
神崎の右ハイキックを上体反らしのスウェーで避けると、そのガラ空きになった打ち終わりのアゴを狙う。それを見た仙人が言う。
「神崎、終わったのぉ」
豪傑が勝つ、いつのものパターン。流石の神崎もこの呪縛からは逃れられないのか。
「この距離なら当たる。貰った!」
豪傑は神崎の顔面目掛けて右フックを放った。
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