第6話 仙人VS神崎①
まだ眠りの中にいる神崎に構わず、カーテンが開かれた。
飛び込んできた陽の光に反応した神崎が、ベッドの中で薄目を開ける。案の定、華村の姿がそこにあった。昨日と同じスーツ姿でキメている。
「――アンタ、いつ寝ているんだ」
目をしばたたかせながら神崎が訊くと、華村は澄ました顔で答える。
「私はあまり寝なくても平気なのよ」
「ショートスリーパーか。エジソンもナポレオンもそうだった。優秀な人材は活動時間も長いものだな。いや、活動時間が長いから優秀になれるのか」
「そんな安っぽい哲学的なことを言うなんて、神崎省吾らしくないわね。まだ寝ぼけているのかしら」
「たった今、強引に起こされたばかりなんだが」
「これでも見れば、目が覚めるんじゃない?」
そう言いながら、華村が輪ゴムで留められた札束を二つ投げた。万券が二つ折りで五十枚と四十枚。合わせて九十万円ある。
「たった二試合に勝利しただけで、合計百四十万円も稼ぐなんて、今まででは考えられない世界でしょ」
「四天王のような優れた腕を持っていながら、表舞台に出て来ないのも頷ける」
「あなたもドップリと浸かってしまい、抜け出せなくならないように気を付けて頂戴」
札束が飛び交う狂喜乱舞の世界。好きなゲームでその存在を認められ、大金を稼げるとなれば、ミイラ取りがミイラになる危険性は充分に考えられる。目的はあくまで闇組織を解明するための潜入捜査。それを裏切れば、警察組織から一生マークされる運命にある。
「いつまでも続けられるとは思っていない。足を洗う時が来ることは分かっている」
「だったら良いわ。そう言えばあなた、豪傑をスパーリングパートナーとして雇ったようね。随分と勝手な真似をしてくれたわ」
「奴は上位プレイヤーの癖を知っている。ブランクのある今の俺にとって、貴重な存在だ。何か問題か」
「私たちが地下にいる真の目的や素性が漏れたら、どうするつもりよ」
「俺がそんな間抜けに見えるか。そもそも豪傑との会話はゲームに関することだけ。悩みや相談を持ち掛けるような友達ごっこをするつもりは毛頭ない」
華村は腕を組んだ。相変わらず無表情な神崎を見つめながら束の間考え、小さく頷く。
「――あなたが三年のブランクを取り戻すために豪傑が必要だというのなら、仕方がないわね。くれぐれも気を付けて頂戴」
「わかっている。それより俺のクビに十万ドルの懸賞をかけた奴がどこのどいつなのか、判明したのか」
「今のところ、まったく掴めていないわね」
「支配人が懸賞金を預かっているんだろう。何か知っているんじゃないのか」
「タックスヘイブンとして有名なケイマン諸島にあるペーパーカンパニーが保有する、架空口座から送金されたそうなのよ。あなたのクビに十万ドルの懸賞をかけるように指示したメールも、当然のように世界中にある複数のサーバーを経由しているから追跡不可能。まあ、簡単に判明するような手段を使うほど、相手もバカではないでしょうけど」
「そこまでして素性を隠したい理由があるのか」
「あなたとは古くから因縁のある相手で、だからこそすぐにバレないよう、手を尽くしているのかもしれないわ」
そう言われた神崎の脳裏に、三年前の濡れ衣が過ぎった。神崎のコントローラーに細工を施した犯人と同一人物がまた、神崎を陥れようとしているのではないだろうか。
「引き続き私の方で調べるから、あなたはプレイに集中しなさい。四天王はまだ、三人も残っているのよ」
「ああ、心得ている」
うわの空で勝てるほど、甘くはない。懸賞金の件は華村に任せて、神崎は仙人との戦いに専念する。
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