第1話 神のごとき神崎②

ヤマトのカウンターパンチが当たったかと思われたその瞬間、神崎はそれをダッキングで避けた。学習能力が高いヤマトだけに、カウンターを合わせてくることは神崎の読み筋だった。

残り三秒。逆にヤマトの打ち終わりを狙う神崎。これまで出してこなかったアッパーをショートで繰り出すと、ヤマトの顎を捉えた。

残り一秒。ヤマトのキャラクターがついに膝をついた。二度目のダウンだ。三分が経過し、最終ラウンドが終わっても、カウントは進んでいく。8カウントでヤマトが立ち上がったところで、試合終了となった。

すぐに採点結果が発表される。マイクを持ったリングアナウンサーが出て来ると、粛々と採点を読み上げた。

『28対27、勝者青コーナー神崎!』

ギリギリの攻防を制したのは『神のごとき神崎』だった。現役時代から逆転勝ちが多かった彼は、別名『逆転の神崎』とも呼ばれ、その勝ち方は今も変わっていない。

 現役のトップゲーマーを次々と打ち破っていた謎のプレイヤー。その強敵を相手に勝利を収めたというのに、神崎は無表情だった。三年前の濡れ衣事件以来、彼の情動はその機能を失っている。

 画面を見つめていると、メールアドレスを入力する画面が現れた。賞金の十万ドルを渡すために、連絡先を教えてくれと書かれている。

 神崎は素直にメールアドレスを打ち込んだ。程なくして着信があり、今日の夜にさっそく会いたいという。特に用がなかった神崎は、構わないと返信すると、時間と場所が指定されたメールがすぐに届いた。

 それは新宿にある京王プラザホテルのロビーだった。

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