第6話 仙人VS神崎⑩
全てのイベントが終了した後、神崎は支配人室へ招かれた。
「四天王が相手とはいえ、わずか三戦目にして賭け金の総額が百万ドルを超えるとは、さすが神崎省吾ですな」
ホクホク顔の支配人は、戦い終えたばかりの神崎に対し、遠慮なく次戦の交渉に入る。
「レーティング2位の一馬選手から、正式に対戦のオファーが来ておりますが、どうされますかな」
「受けない理由はない。だろ?」
隣にいる華村に視線を送ると、彼女も当然だと頷く。
「一馬も相当な人気プレイヤー。今日よりも賭け金が増えることは間違いないわね」
「こちらとしても願ったり叶ったりの組み合わせ。ぜひ来週末にでもメインイベントで組ませて頂きます」
交渉がまとまったところで、支配人は本日のファイトマネーを用意した。部下の一人がドル紙幣をトレーに乗せて運んでくる。
「見込みどおり、今回のファイトマネーには帯が付きましたな。量が多いので、本日はハンドペイではなくこちらのカウンターを使わせて頂きます」
一度帯を外し、紙幣を揃えると、カウンターの上部に百二十枚のベンジャミン・フランクリンが置かれた。それが勢いよく下の受け皿に落ちて行き、カウンターの表示が目まぐるしく上昇していく。すべての紙幣が落ちた時、カウンターはきっかり120枚を表示していた。
「異論、ございませんな」
「ああ」
神崎は頷きながら、差し出されたドル紙幣の束を受け取った。これまでとは桁が違う、札束の重厚感が伝わってくる。
「大金を持って歩く夜の新宿、気を付けて下され」
すぐに現役の警視庁管理官へ預けるから、心配は無用だ。もちろん、そんなことは口に出さず、神崎は「わかっている」とだけ短く答えた。
コロッセオを出たところで、神崎は自らドル紙幣を差し出した。華村も当然のようにそれを受け取る。
「逆転の神崎とはいえ、あなたの試合はいつも心臓に悪いわ」
「ギリギリの戦いではあったが、作戦どおりでもあった。豪傑とのスパーリングが生きた結果だ」
「この調子で、一馬も攻略して頂戴」
「そうはいかない」
「なんでよ」
「あのトリッキーな動きにはセオリーがない。天性の勘で思うがままにプレイしている一馬との勝負は、地力で決着がつくことになるだろう」
「どっちが上なのよ」
華村の質問に、神崎は正直に答える。
「今の俺と比べれば、一馬の方が勝っている」
それは偽りのない事実だった。
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