第45話 回復性能はピカイチなんだけどな
レイユの心臓が止まってから一時間が経った。
あれから全く動かない。それもそのはずで死んでいるからだ。
だけどおかしなこともあった。
未来は気が付いていたのだが、
「レイユ、そろそろ起きて欲しいな」
未来はレイユが死んでいないことに最初から気が付いていた。
だって心臓は止まっていても、脳だけは動いている。
まるでコールドスリープしている状態で、ピタリと止まっていた。
「それにしても、人の生き死まで判るなんて……この翼、ヤバいね」
レイユが何故死んでいないのか断言できるのか。それは未来の翼の効果の一つだ。
さっきから抜け落ちた羽根がピクピクしている。まるで治療中…治療中…とゲームの回復演出みたいに発光していた。
赤から黄、緑から青へと変化する。
最初気が付いた時には何かと思ったが、そう考えれば辻褄も合うのだ。
「やっと青になった。そろそろ起きるのかな?」
時刻はきっかり一時間が経とうとしている。
そろそろ起きてくれるかもと期待していると、「ううっ」とレイユが唸り始めた。
見れば指先がピクピクし始め、瞼が
これは起きるでしょ! と、未来が待ち侘びていたのだが、一時間になった瞬間、目がパチッと開いた。
「ふはぁ! はぁはぁはぁはぁ……えっ、わ、私、一体何が……」
レイユは周囲をキョロキョロ見回す。
全身から滲んだ汗がびっしょり出ていて、呼吸の乱れも酷い。
けれど頬の傷は完全に治り切っていて、レイユは困惑の余り盲目になっていた。
「な、なにが起こったのよ。確か私……うっ!」
頭を押さえて顔を顰めた。
それもそのはず興奮したせいで一気に血液が脳まで直上したのだ。
今まで固まって冷え切っていた血液を沸騰させるとこうなる。
未来はらしくないなと思ったが、突然心臓が止まったら誰だってこうなる。
「レイユ、ちょっと落ちつこ。はい、水筒」
未来は珍しく本気でパニックになっているレイユに水筒を差し出した。
たっぷり入った水の重みがレイユにスライドする。
「え、ええ。ありがとう」
受け取ったレイユは水筒の水を飲んだ。
キンキンに冷え切っているせいか、今度は冷たすぎて頭を逆に押さえる。
苦しいそうな表情を浮かべるレイユに如何したら良いか分からない未来は落ち着くのを待ってから話をした。
「レイユ、そろそろ落ち着いた?」
「落ち着いたと言えばそうね。だけど腑には落ちないわ。一体何が起こっていたのよ」
「えっとね、心臓が止まってたんだよ」
「ん? ちょっと意味が分らないのだけど」
当然来るであろう反応をされてしまった。
未来はレイユの心臓が止まってから一時間の間で起きた変化を全部話した。
レイユは面倒に思わず真摯になって聞いてくれた。
けれど内容自体は意味不明で、あらゆる法則を無視していると感じたようで、話しが終わると苦言を呈した。
「なによそれ。その翼、馬鹿げているわ」
「だよね、バカだよね。イカれてるよね」
「イカれているのは貴方もよ。スキルは本人の性格や在り方に由来するの。その万能で馬鹿げたスキルは全部未来自身なの。私の超攻撃特化魔法と同じでコントロール不可なの! 少しは自覚持ちなさい」
何故か説教を喰らってしまった。
言っている意味は分かるけど、理解しがたかった。
強いなら良いじゃん。万能なら何でもできるじゃん。それの何がダメなの? 力持つ者はそれだけの責任を問われるとか言うけど、そんなの知らないっての。先天的に得た力を後天的に諭されても説得力無いんだよなー。まあ、それを言ったらブチ切れられそうだから言わないけどね。
頭の良い未来はついつい本音爆撃を開始しようとする自分にそう言い聞かせた。
それから開き直った未来はほぼほぼ説教を右から左へと空流しにして無視することにした。
「分かった?」
「はいはい、分かったよ。とにかく強すぎる力はリスキーだから、適材適所でちゃんと使えってことでしょ? そんなの知ってるって」
「絶対解ってないわね。まあ、貴方に説教をする方が解ってないんだけど」
「レイユも私のこと分かって来たね。そうだよ、考えたらつまんないよ」
「貴方ね……」
レイユにジト目をされてしまった。
もう完全に諦めた様子でさっきまでの時間を無駄に磨り潰したことに溜息を吐こうとした。けれど喉の奥で抑え込むと、頬の傷のことを言う。
「でも、治ったのならいいわ。ありがとう」
「どういたしまして。んでさ、この技……」
「バカなことは考えないことね。一度心臓を止めるってことは、それだけリスクを孕んでいるのよ」
心臓を止めるってことは、そのまま返って来ない可能性も十分ある。
つまり死ぬわけで、無理に治そうとすると人殺しになる場合が想定された。
そうなると形は免れない。とは言え未来は翼を出していなくても自動で回復するから、生涯無期懲役で独房行き……いや、翼を使えばそれすら何とかなるのでは? とよからぬ妄想を働かせる中、レイユの肘打ちが鳩尾に飛んできて、すんなり躱した。
「くっ、外した!」
「外したじゃないって。分かってる分かってる。大事な時に使うから、心配要らないって」
「心肺しかないわね」
「大丈夫だって、ノープロだって。私、翼の使い方なら心得ているからさ」
面倒ごとに片足を突っ込むとそのまま引きずり込まれる。
そうなるとまたしてもハードなブラックライフに突入する危険性がある。
ここは慎重に行動……したいと善処しながら、未来は新しく得た素晴らしい能力にご満悦だった。
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