第23話 冒険者らしくパーティーを組もう

 冒険者になったにもかかわらず、ここまでソロ活動を続けていた。

 しかし未来はこうも思ってしまう。

 せっかく冒険者になったんだから、パーティーが組みたい。

 一人でモンスターを狩りながら、未来は胸の内だけで理想を綴った。


「せっかくランクアップしたのに、これじゃあ孤独のソロプレイだよ」


 別に一人が悪いとは全然思わない。むしろ一人の方が報酬の取り分も多いし、気楽でいい。

 けれどせっかく配達地獄から解放され、こうしてモンスター狩りにやってきたにもかかわらず、いつまでもこれだと味気ない。

 ランクアップも果たしたし、もっと難しい依頼に挑戦しても良い頃合いだ。

 けれどそれを許して貰えないのは、未来が《最速の運び屋》と呼ばれてしまい、配達関係の冒険者だと思われてしまっていることが大きな要因になっていた。

 そうした横からの見えない心下無さが、未来を高難度の依頼に向かわせてくれない根本に隠れていた。


「はぁ。まあいいや、とりあえず今できることをしよう!」


 未来は双剣を勇ましく構えた。

 右手に構える剣は前に突き出し、大して左手に構える剣は後ろの突き付ける。

 あまりにもおかしな構えに誰しもが困惑するだろうが、そんなことは如何だっていい。

 未来は未来なりのやり方で、大型のモンスターに今日も一人で挑むのだった。




 冒険者ギルドに戻って来ると、いつも通りの空気が立ち込めていた。

 暑苦しい男性冒険者達の血気盛んな大きな笑い声。女性冒険者達の優雅な談笑。

 あくせく働く受付嬢に、男女混合で次の依頼をどれにしようか迷っているパーティー。

 いつもと何ら変わらない光景を目の当たりにしつつ、未来は顔馴染みの受付嬢ペリノアの下に率先して足を向けた。


「未来さん。お疲れさまでした」

「お疲れ様。依頼を達成してきたんだけど、報酬って貰えるかな?」


 未来は受付カウンターの上に討伐したモンスターの牙と魔石を置いた。

 確認したペリノアは手をパンと合わせると、笑みを浮かべてくれた。


「無事に討伐されたんですね。お疲れさまでした。やっぱり、未来さんは凄い冒険者さんです」

「ありがとうございます」


 未来は軽く頭を下げて感謝した。

 ペリノアとはこの間一悶着あった。

 しかしあの後はすぐに関係が回復した。

 それもそのはず、未来が定期的に配達の依頼を引き受けたり、一人ではなかなか討伐が難しいモンスターをソロで討伐して来るからだ。

 信頼と実績を積み重ねた結果、受付嬢とも絆が深くできた。おかげで今ではかなりフラットな会話ができている。下手な敬語も無しになって話しやすい。

 それをきっかけに、冒険者同士でも自分が目上と思った人以外にはフラットな口調で話していた。そのことで誰も毛嫌いを示すことはなかった。

 これも縁だとありがたく感じ、胸を撫で下ろしたのはつい先日のことだった。


「それではこちらが報酬の……如何かされましたか?」

「ああ、いや……パーティーって如何やって組むのかなーって思って」

「パーティーですか?」


 ふと男女混合のパーティーが目に留まった。

 未来は視線を釘付けにされてしまい、ペリノアも視線の先を共有した。

 和気藹々わきあいあいと談議に話を咲かせていた。


「なあ、これからモンスターを狩りに行こうぜ」

「それも良いけど、今日は防具を手入れしないと」

「いいじゃんかよ」

「良いも何も無いと思いますよ。武具は手入れしておかないと、いざとなった時に使えないはずです」

「そんなのは……なぁ?」

「んだな。今日は武具の手入れをしよ」

「……分かったよ」


 若い男女の冒険者パーティーは武具の手入れのため、冒険者ギルドを後にする。

 その姿を羨ましいなと思いつつ、後を見送る未来。

 ペリノアは未来に口を出した。


「パーティーですか。確かにパーティーを組むことによって、一人では困難な依頼も達成しやすくなりますよ」

「そうですよね。良いこと尽くめじゃないとしても、メリットになることは多そうですね。うーん、パーティーか。ちょっと組みたいな」


 ポツリと一言呟いた。

 ならば思い立ったが吉日。早速パーティー募集の張り紙が無いか見に行ってみた。


「えっと、パーティー募集の張り紙は……あれ?」


 冒険者ギルドには同業者やギルド側から何か伝えたいことがある場合に使われる掲示板がある。

 そこには依頼書とは別にパーティーの募集を筆頭に様々な通達がされていた。


「無い。全然無い」


 パーティー募集の張り紙が無いかと見に来たは良いものの、未来に見合うものが無かった。

 もちろんパーティー募集の張り紙は幾つかあった。

 けれど未来のランク帯には合わないものばかりだ。

 一つ下のランク帯ばかりで、額を摘まんでしまった。


「如何しよう。このままじゃパーティーが組めない。うーん……誰か居ないかな?」


 未来は腕を組んで考えた。

 しかし振り返ってみても、ここには未来とパーティーを組んでくれそうな人は居ない。

 それもそのはず、この間の一悶着を聴いていた冒険者ばかりだった。

 だから未来が一つ頭抜けた冒険者であり、高難度の依頼もソロで達成してしまう。

 釣り合わない冒険者と果たしてパーティーを組みたいと思うだろうか? いいや、私なら思わない。

 そう思ってしまったのでジッと立ち尽くし困ってしまうのだ。


「うーん。誰か居ない……ん?」


 ふと俯き加減で考えていると、目の前を誰かが通った。

 つい視線を奪われそうになるが、そこに居たのはこの冒険者ギルドでは見たことのない女性。

 頭に魔女っ子の帽子を被り、一応と言うべきか杖を持っている。

 いわゆる魔法使いポジの女性が何故か魅力的に映り、未来の脳裏でビビッと来たのだった。

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