第24話 魔法使いに断られて

 パーティー募集の張り紙を見ていただけで、こんな偶然があるのだろうか?

 未来があまり見兼ねない冒険者なようで、心当たりが全く無かった。

 往年の魔女の様な帽子を被り、三色のクリスタルが付いた杖を持っている。

 背は未来並みに高く、何よりも目を惹く腰まで携えた銀髪をしていた。

 完全に強めな魔法使いポジションで、それ故に未来はビビッと来てしまったのだ。

 この人ならパーティーを組んだ時に面白いかもと、にやり笑みを浮かべる。


「あっ、ちょっと良いですか!」


 早速声を掛けてみた。

 すると女性はピタリと止まり、「なにか?」と怪訝そうに振り返る。

 綺麗な青い目をしていた。肌は白く、少し吊り目。眉根を寄せ、未来と向き直る。


「急にごめんなさい。ちょっと聴きたいことがあって」

「はっ? 聴きたいこと? 私にはないけど」

「冒険者だよね? パーティーとか入ってる?」

「……話聴かないのね。私には無いって言ったでしょ」

「そっちに無くても私にはあるの。それに減るような話でも無いでしょ?」


 未来は全く臆さなかった。むしろ女性に話をさせる気を与えない。

 実際、未来もヤバい奴だなと自分のことを評していた。

 しかしここペースを握られると、スルリと躱されてしまう。そんな気がしてならないのだ。

 だからこそ、ここは迷惑な奴を演じる。

 未来も何も考え無しで話してはいなかったし、冒険者かどうかくらい聴いても良いじゃないかと開き直る。


「面倒くさいわね。まあいいわ。そうよ、私も冒険者」

「私も?」

「質問をしてきた貴方も冒険者でしょ?」

「そうだよ。でも良かった、冒険者なんだね」

「何が良いのか全く見えてこないのだけど?」


 お互いに腹の中を見せない会話を続ける。

 慎重なやり取りが空気を侵食する。

 次第にお互いのぶつかり合った空気が立ち込め始め、他の冒険者達の視線が纏わり付く。


「なんだ? 《最速の運び屋》が誰かに絡んでいるぞ」

「止めとけ。本音爆撃が飛んでくるぞ」

「確かに《最速の運び屋》ずっと本音だからな。……構わねえ方が良いな」

「ああ。向こうから話しかけてきたら答えればいいだろ……行こうぜ」


 男性冒険者達は未来と女性の会話を無視する。

 それを皮切りに他の冒険者達もなぁなぁにする。

 誰も未来と女性の会話に首を突っ込もうとはせず、視線も次第に逸らし始めていた。

 

「それじゃあパーティーって組んでる?」

「組んでないわ。そもそもここに来るのも久々なのよ」

「久々? もしかして遠征してた的な!」

「如何して喜ぶのか分からないわ。遠征何て面倒なだけよ。それでもういいわよね」

「あっ、ちょっと待って! まだ本題が終わってないから」

「はぁー」


 女性は盛大に溜息を吐いた。

 面倒な奴に絡まれたと思われているのは明白。

 それでも未来は笑みを浮かべて話し掛けた。


「あはは、面倒だよね。それじゃあ一言でいうね。私とパーティー組んでよ」

「はっ?」

「私、パーティーが組みたくて募集を見てたんだけど、および出ないみたいなんだ。だから私がビビッときた人とパーティーを組みたいって思ったんだよ」

「そう。無駄なことしているのね」

「無駄かな? でもやるだけやるよ。それで如何かな? 私とパーティーを組んで……」

「あげないわよ」

「だよね。なんとなく分かってた」


 未来は案の定断られてしまい、頬を掻いた。

 女性は面倒なのですんなり話を切ると、その足で受付カウンターに向かう。

 それにしても遠征を一人でして来るなんて。とんでもない実力の持ち主だ。

 一体何者なんだろう。未来の中で疑問が蠢き出す。


「あの人、誰だろう」

「彼女はレイユさんです」


 ふと立ち尽くしていると、隣にはペリノアがいた。

 未来は驚く様子も見せず、ペリノアに尋ねる。


「ペリノア。そのレイユさんって?」 

「未来さんが話しかけた凄腕冒険者さんですよ。ソロで罅活動を続ける魔法使いさんで、王都までお呼びがかかるほどの実力者なんですよ」

「マジですか?」

「はい。レイユさんはこの街を拠点にしているんですが、いつも多忙なんです。とは言え、常に依頼を受けているわけではなく面白そうな依頼を率先して受けてくれますね。少し未来さんに似て非なる部分もありますが、レイユさんにはそれだけの信頼と実績があるんですよ」

「……マジか。相当凄いんだ、レイユさんって」

「あっ、レイユさんは未来さんとほぼ同い年ですよ」

「そうなんですか!? ……ヤバめの冒険者がこの街には二人も居るんだ。気持ち悪っ」

「自分で言わないでくださいよ」


 未来はペリノアに注意された。しかし未来は訂正しない。むしろ分かりやすいアイデンティティだと思う。

 それにしてもそんなに凄い冒険者だったとは。未来は口をあんぐりと開けて驚いてしまう。

 もう一回アタックしてみようかな? と思ったのも一瞬の迷いで、実際にはやらなかった。しつこく付き纏うと迷惑だと思われるので、未来はこれ以上深追いしないことにする。

 けれどパーティーを組みたい気持ちは変わらないので、レイユみたいな人とパーティーを組んでみたいと強く渇望した未来だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る