第25話 もう一回誘ってみる

 未来は冒険者ギルドにやって来た。

 今日も依頼を達成し終え、報告のために戻って来たのだ。

 討伐系の依頼はハラハラして楽しかった。巨大毒蛇ポイズンオロチ。

 口から猛毒の毒液を吐き出すのだ。それを全部避けるなんて真似、未来にできるはずもなくいつも通り【翼】を使って弾き返した。


 おかげでポイズンオロチの最大の長所を無効化した。

 後は呆気なく、翼をはためかせて空へと舞い上がる。

 場所は洞窟だったから高度は取れなかった。

 けれど一瞬のうちに背後を取ると、そのままポイズンオロチの頭を……な話だ。


 あまりにもグロかった。

 ポイズンオロチをこのやり方で討伐するのは間違いだと気が付いたのはその時だった。

 紫色の毒素を含んだ液を体内から巻き上げて、洞窟の中が一瞬にして覆われてしまった。

 魔石と牙を速やかに回収すると、そのあまりの異臭と死を多分に含んだ情景が頭の中に流れ込んできて気持ちが悪かったため、即座に退散したのだ。


「あのまま放置で良かったのかな?」


 正直良くない気がする。

 だけど洞窟の中を掃除するなんて真似、今の装備じゃ到底できない。

 きっともう行くことはないだろうと信じ、次に行く人には悪いと思いつつも放置してしまった。まとめてギルドに報告だ。


「ん?」


 受付カウンターに向かおうとした。

 しかし視線を釘付けにされた。

 冒険者ギルド内に設置された椅子に腰を下ろし、机に肘を付いて黄昏ている。

 そこに居たのは昨日パーティーに誘ったが断わられてしまった女性。確か名前は——


「あっ、レイユ!」

「ん? あっ……はぁ」


 未来が話し掛けると、レイユは顔をこちらに向けた。

 すると目を一瞬見開いたものの、すぐに溜息を吐く。

 何かげんなりされてしまったらしいが、流石に失礼だ。


「溜息吐かないでよ」

「溜息しか出ないわよ。それでなに? 私に何か様なわけ?」


 レイユはギロッと睨んだ。未来は睨みつけられて頬を掻いた。

 何故に睨みつかれるのかと思い、訳も分からず額を摘まむ。

 しかし未来は全く臆さなかった。自分を崩すことはせず、レイユに向き直る。


「レイユはこんな所で何をしているの?」

「教える必要は無いわ」

「そうだけど、減るものじゃないでしょ?」

「……はぁ。依頼を終えて、報酬を待っているのよ」

「報酬って?」

「別に教える必要は無いでしょ。それより、貴方は何をしているのよ」


 逆に質問されてしまった。

 レイユは昨日未来がやったこととほぼ同じことをしたのだ。

 しかし未来はここで面倒くさがらない。されたらされたので普通に返せばいい。


「私も依頼を終えて来た所だよ」

「依頼?」

「うん。ポイズンオロチの討伐」

「ポイズンオロチ? へぇ、結構やるのね」

「褒められてる? ありがと。それじゃあ私は報告に行くけど、まだここに居る?」

「如何しよかしらね。明日に回して貰っても良いのだけれど……」


 完全に毛嫌いされているようだ。

 これはパーティーに再度誘うのは無理そうだと思った。

 諦めて行こうと思い足を前に出すと、レイユの方から尋ねて来たのでびっくりだ。


「今日は誘ってこないのね」

「えっ?」


 未来はレイユに振り返る。

 足を止めて、踵を返して視線を向ける。

 レイユの後頭部が視線の先に窺え、突然のことすぎて声が上手く出ない。

 なにせ嫌われていると思っていたからだ。まさか二日目にして声を掛けられるなんて……これは進展!? とかぬるいことは言わないし思わない。

 代わりに笑顔で答える。


「うん、誘わないよ」

「そう」

「……もしかして誘って欲しいの? 誘われ待ちってやつ!?」

「はっ? 馬鹿なこと言わないでよ」


 ギロッとまたしても振り返られた。

 めちゃくちゃ怒っているのだが、未来には理由はサッパリ伝わらない。

 それどころかレイユに声を掛け続ける。


「それならそうと言ってくれればいいのに」

「はっ? 今日も一人だから声を掛けてあげただけよ。勘違いしないでくれるかしら?」

「ツンデレ? 古くない」

「ツンデレ? 古い? 何が古いのか分からないのだけど」


 レイユはもの凄く気怠そうに相手をする。

 未来は如何したら円滑に行くのか考えた。だけど全然ダメだった。

 うーん、如何したら良いんだろう。何を言えば好感度が上がるのかな。この攻略キャラ難しい。

 苦言を呈しそうになるものの抑え込み、表情だけが歪んだ。


「もういい?」

「あっ、待った待った。レイユって魔法使いなんだよね?」

「そうよ」

「……魔法ってどんな感じなの?」

「どんな感じって、漠然とした質問しないでくれるかしら。もう少し質問の意図をまとめてから話してくれる?」

「……レイユって王都にまで呼ばれるくらい凄い魔法使いなんでしょ? どんな魔法が使えるのかなーって……てへっ?」

「気持ち悪いわね」


 レイユはもっと表情を歪ませた。

 気持ち悪いと本気で思われてしまったらしく、未来は困ってしまう。

 だけどレイユは教えてくれた。自分の魔法のことを少し隠しつつも、質問には答えてくれる。


「まあいいわ。私の魔法は……」

「あっ! レイユさん、報酬の準備ができましたよ」

「はい。それじゃあね」

「あっ、まだ魔法に付いて聴いてない……行っちゃった」


 レイユは受付に向かってしまった。

 如何やら魔法に付いてはお預けらしい。この世界に来てまだ一度も魔法を見ていない。

 いつか見てみたいなと思いつつ、未来も依頼の達成報告をしに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る