第48話 勇者と名乗る十四歳の少年
未来とレイユは今日受ける依頼を決め、受付カウンターでペリノアに手続きをして貰うことにした。
いつものことなのですぐに終わる予定だった。
ペリノア自身も要点を確認する程度で、特に気にする必要もない。依頼を受理しようとするものの、その瞬間ギルド会館の扉が開いた。まあいつものことで外から吹く風が入ってきて、ちょっぴり冷たかったけれど、今日はそれだけではない様子だ。
「うっ!」
ペリノアの隣に居た受付嬢が肩を擦っていた。
寒いのかな? 全然寒くないけど。未来は全く分からない。
しかしペリノアの隣に居た受付嬢カーシュは、引き攣った表情を浮かべていた。
何かに恐怖しているような、正しく絶妙な顔色だった。
「どうしたの、カーシュ」
「ぺ、ペリノア。この気配、ヤバくない?」
「気配ですか? 確かにありますね。ですがそこまで気にすることもないと思いますよ」
ペリノアは同僚のカーシュにそう答えた。
しかし未来とレイユは顔を見合わせる。気配なんて全く感じないのだ。
いや、気配が無いわけじゃない。二人が気にするほどもない
「誰か来たのかな?」
「そうね。ダンジョンでも無いのに気配を飛ばすなんて、どれだけピリピリしているのよ。全く心に余裕がない証拠ね」
「だね。そんなピリピリ状態でギルドにやって来たら、みんなビックリしちゃうよ」
そう言う未来は全くビックリしていなかった。
むしろそんな強烈な気配があるのか逆に気になる。
一向に気が付かないのでレイユと一緒にギルド内を見回してみると、みんな肩をブルブル震わせていた。どんな恐怖の対象が居るんだよ。とか暢気に構える未来だが、ふと今まで会ったことの無い三人組が居たことに気が付く。
「あれ? あんな人達居たっけ」
「さあね。興味ないわ」
「いつものことだね。でもさ、なんかあの人達にみんなビビってない?」
「そうみたいね。どれだけ気配を強くしているのよ。殺気になっているわよ」
レイユは呆れてしまっている。流石はエンポートが誇る攻撃最強の魔法使いだ。
囃し立ててみようとした未来だが、切れられても面倒なので何も言わない。
ただニコニコと気色悪い笑顔を向けていた。レイユはげんなりし唇を捻じ曲げる。
「なに? キモいわよ」
「レイユ、それは酷くない?」
「その笑い方は気持ち悪い以外ありえないわ。もう少し楽しそうに笑いなさい」
「はーい」
「ウッザ」
レイユは眉根を寄せ、額に皺をたくさん作った。
それからは諦めてしまったのか全く話に乗ってくれない。
ガン無視でもなく、「はいはい」と適当に相槌をして流されてしまうと、ペリノアが依頼の受理を完了してくれていた。
「未来さん、レイユさん、依頼の受理が完了しましたよ」
「ありがとうございます。それじゃあ行ってきますね」
「はい、気を付けてくださいね」
ペリノアに心配されながら見送られ、ギルドを後にしようとした。
その時だった。初めて見る三人組の冒険者の一人、金髪の少年に声を掛けられた。
如何やら人を捜しているらしく、手当たり次第に情報を集めているようだ。
「ねえ君達。少し良いかな?」
「ん、なに?」
「実は僕達は人を捜しているんだけど、なにか知らないかな?」
「人? 特徴はあるの」
「もちろんあるよ。とは言え僕達はあくまでも目立ったバックボーンしか知らないんだ。なんでも、このエンポートにはドーンセン森林を焦土と化した凄腕の超攻撃型魔法使いが活動しているそうなんだ」
「「超攻撃型魔法使い?」」
未来とレイユは顔を見合わせた。
まさか噂を確かめるためにわざわざこの街までやって来たなんて。
どれだけ暇な冒険者達なのかと呆れてしまった。そんなことをしている暇が有ったら、もっと面白い観光地にでも言って金を落とすべきだと未来は思った。
しかし、まさかレイユにわざわざ合いに来るなんて、きっとそれだけでは済まない。
先読みをした未来は、金髪の少年に質問をする。
「そう言えば名前は?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はアーリー。それで後ろに居るのは僕の心強い仲間達だよ」
「ラーガンだ。武闘家をしている」
「タルトゥです。ごめんなさい、ごめんなさい、依頼を受けたところだったんですよね」
「そうだよ。だからえーっと」
「話を手短に済ませたいのなら、できるだけ早く話して貰えるかな? 僕達も暇じゃないんだ。すぐにでも優秀な仲間を揃えて、勇者パーティーを結成し魔王軍に備えないと行けないからね」
意味不明なことをアーリーは言った。
コイツなに言ってんだ、と本気で頭大丈夫なのか不安になった。
しかし屈託のない笑みを浮かべて言って来るので、マジかと思いながらも未来は確認ついでに一応尋ねる。
「ちょっと待って。勇者パーティー? 魔王軍? なに言ってんの」
未来は動揺しながら尋ねる。頭を打ったのなら病院に連れて行くけどと、お節介なことを抱きつつだった。
けれどそんな心配は要らないらしい。どうにも自分がその勇者パーティーの筆頭候補とでも言いたそうに、にんまりとした笑みを浮かべている。
「ん? そうか、僕のことを知らないのも当然だよね。それじゃあ改めて初めまして、僕はアーリー。この世界に蘇るであろう魔王軍に先陣を切って対抗するべく馳せ参じ、偉大なる勇者の剣を抜きし未来の英雄候補。それが僕、勇者の名を襲名せし最強の冒険者アーリーだよ。以後、お見知りおきを」
なにかと思えば、本気でバカなことを言い出した。
未来は呆れてしまい頭を抱える。まさかこんなイタいことを言う冒険者が本当にいるとは思わなかった。
確かに装飾豪華な剣を腰に携えてはいるが、そこまで強い感じがしてこない。
言ってしまえば、ハロウィンで張り切って勇者風のコスプレをした中学生みたいだった。
「勇者ねー。ちな、歳幾つ?」
「今年で十四になるよ」
ガチで中二病全開じゃん。未来は呆れて言葉をついには失う。
まさかここまで堂々とした中二病が異世界にも居るとは思わなかった。
本気で世も末かと思った矢先、後ろに控えていたレイユが口走る。
「勇者ね。せいぜい頑張りなさい」
「うん。この世界を救うために頑張るよ。それで君達は?」
「君達って、私の方が年上なんだけど?」
「そんなの関係無いよ。僕が訊いているんだ。答えてくれないと、勇者の名の下に粛清するよ?」
あっ、これヤバい奴だ。未来は本気で自分のことを勇者と言い張るどころか、それを盾にして傲慢の限りを尽くそうとしているアーリーを本気で憐れんだ。
それが嫌だったのか、アーリーはムッとした表情を笑顔の中に浮かべる。
けれど未来とレイユには全くと言っていいほど効かず、むしろ憐みの目が辛辣になっていた。年下相手に本気でなじる二人に、周囲の視線も冷ややかで呼吸が止まっているようだった。
「名前ね、私は未来。それでこっちが」
「レイユよ。それじゃあせいぜい頑張ってね。ほら、行くわよ」
レイユは即時退散とばかりに、服の袖を引っ張った。
面倒ごとになる前に退散は同感だと思い、未来も歩き出そうとする中、空気が一変した。
誰かが口添えしたのだ。これは面倒なことになりそうだと、この瞬間に直感が唸った。
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