第47話 エンポートに広がる魔法使いの噂
エンポートの冒険者ギルドは今日はいつも以上に人が居て、大変賑やかだった。
低ランクの冒険者が多く、そのほとんどが駆け出し冒険者だ。
けれど中級冒険者も何人かおり、上級冒険者に関しては数えるほどしか居ない。
そんな街で、今日も未来とレイユの激ヤバパーティーは活動していた。
「レイユ、今日はどんな依頼を受ける?」
「なんでもいいわよ」
「なんでも、意思ないこと言わないでよ」
「それじゃあ配達でもいいわよ? どうせ貴方は指名が入っているでしょ?」
「それはそうだけど、絶対にやだ。だから、まずはペリノアに話しかけに行こうか」
「あっ、ちょっと。腕を引っ張らなくてもいいでしょ! もう……」
未来はレイユを引っ張って受付カウンターに向かった。
そこにはせわしくなく働く女性の姿があった。
髪を掻き分け、一段落しようとした所に未来達が現れる。タイミングが悪かった。
「あっ、未来さんレイユさん。おはようございます」
「おはようペリノア」
「今日も忙しそうね。少しは休んだらいいのに」
「そうしたいのはやまやまですが……できませんよね」
ペリノアも諦めたような目をしていた。
冒険者ギルドはブラックだ。グッと胸を締め付けられそうになるが、未来もレイユもそれ以上は何も口にしない。
この話を切り上げると、配達系の指名依頼は無いのかと尋ねる。
「配達系の指名依頼以外ってありますか?」
「配達以外ですか? 残念ながら無いですね」
「即答!」
即答は傷付くんだけど、と未来は落ち込む。
けれどレイユはポンと肩を叩いた。薄ら笑みを浮かべると、未来を励ます。
「ドンマイ」
絶対に励ましていないのは、未来にはガツンと伝わった。
ムッとした表情を浮かべると、「ふふっ」とほくそ笑まれる。
未来は少しだけムカついたが。あえて何も言わない。
お互いに気迫だけでやり合うと、周りに居た冒険者はその圧に気圧されて気持ち悪くなる。
「な、なんだよ。あの冒険者達」
「無言で戦ってるぞ。怖っ……」
「アイコンタクトと言うか、うえっ気持ち悪い」
「ペリノアさん、あんな近くで見ているのに平然としているなんて。凄っ」
周りに居た冒険者達からは嫌悪され、ペリノアは称賛される。
黙って見ていた視線が幾つもあったが、全部無くなってしまった。
見ればあまりの威圧感に吐きそうになっていた。
「まあいいや。適当に依頼を受けよう」
「そうね、そうしましょう。邪魔な他の冒険者も居なくなったわ」
「本当だね。とは言え同業者相手に邪魔は無しでしょ」
「そうね。悪かったわ」
絶対に悪かったとは思っていない。世間体を気にした文言だと一発で理解した未来は、レイユを連れて依頼の貼り出された掲示板に向かう。
その最中、不意に聴こえてきた冒険者の会話。
耳を傾けざるを得ない内容に足ピタッと止まる。
「おい、アレがこの街最強の魔法使いなんじゃね?」
「ああ。隣に居るのは《最速の運び屋》だぞ」
知らない冒険者だった。もしかしたら他の街から最近やって来たのかもしれない。
けれどそこまで噂になっているとは思わなかった。
あまり冒険者らしくないのでちっとも嬉しくない二つ名を聴き分け気になるのは、レイユの話だった。有名なのは知っていたが、二つ名っぽくない。なんだか謂れみたいだった。
「レイユ、最強の魔法使いだって」
「最恐の間違いでしょ」
「いやいや、それは私だって。特に目立った悪さ、レイユはしていないでしょ?」
「そうでもないわ。ドーンセン森林を破壊したのは私なのだからね」
まだ引き摺っているのかと思ったはそうでもなく、ただ話題に上げただけだった。
確かにドーンセン森林を破壊したのはレイユだ。けれどそこまで噂になっているとは思わない。
けれど冒険者達の話を聴き耳立てて聞いてみると、余計に酷いことになっていた。
「なんでもドーンセン森林を焦土と化したそうだぜ」
「焦土? ってことは何も無いってことかよ」
「ああそうらしい。自然を破壊して生態系を捻じ曲げたそうだぜ」
「マジかよ。そんなことできるのか?」
「できるそうだぜ。超攻撃型魔法使いってもっぱらの噂だ」
あまりにも二つ名の様な呼び名にカッコいいと未來は感じた。
その前に確認とばかりにレイユに訊ねる。
「二人共レイユのことを話しているよ? ムカつく?」
「興味ないわ。そもそもこんなことでムカつくなんてただのバカよ」
「それ言っちゃうんだ」
遠回しに未来のことをディスっていた。
頭の良い未来ならすぐに気が付くはずが、あえて何も言わないので不気味だった。
それどころか、レイユの超攻撃型魔法使いの話題を更に進展させてしまう。
「それで、超攻撃型魔法使いらしいけど」
「ふん。だから興味無いって言っているでしょ」
レイユはあまり気に入っていないらしい。
それならと思い、未来はパンと手を叩いた。
「んじゃ、ここに最強最悪の魔法使いの誕生ってことで!」
「私のこと舐めてるの?」
「ううん、信頼しているんだよ」
「そうには見えないけど、まあいいわ。私は二つなんて欲しくないから」
あまりにも欲しそうな言い分に未来は「あはは」と笑った。
恥ずかしそうに頬を赤らめて隠そうとするレイユの横顔がとっても可愛かったのだ。
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