第46話 王都に広がる魔法使いの噂

 王都ノームはエンポートを始めとした王国アンペラの最大都市だ。

 その規模はエンポートの倍以上。

 巨大な白亜の城を構え、その眼下には城下町が広がる。

 大抵は商業の発展によって栄えたエンポートと変わらないが、冒険者ギルドに通う冒険者も多く、何よりも次期勇者と期待される冒険者パーティーが活動の拠点としていた。

 そのため非常に賑わっており、街の看板かつ産業の一つになっていた。


「んでさ、聞いたかよ。この間、どっかの魔法使いがぶっ壊したらしいぜ」

「ああ、聞いた聞いた。有名だもんな、ドーンセン森林を焦土と化した魔法使いの話」

「だよな。あの森をぶっ壊すなんて、どんな魔力だよ。そりゃ天才か?」

「天才でもあり天災なんじゃねえの?」

「がはは! お前、上手いこと言うな。流石は俺の相棒だ」

「ふん。これくらい朝飯前よ。んで、今日は何処行くんだ?」


 冒険者ギルドで飲み合う二人の冒険者。

 年齢は四十代をとうに超えていた。

 一人はパンチパーマの掛かった髪をバンダナで留める男性。もう一人は綺麗な坊主姿のダンディな髭を生やした男性だ。お互い冒険者の歴は長く、中堅冒険者として日々を忙しなく過ごしていたが、今はワインを飲んでご満悦だ。


「そうだな。ワインも空になるし、そろそろ行くか!」

「おうよ」


 男性達は席を立とうとした。

 周りにも同業者達が支度をする中、突然扉が開かれた。

 視線を釘付けにされる圧倒的な気配。冒険者ギルドに居るほぼ全ての冒険者の視線が集まった先には、輝く聖剣を腰に携えた少年が一人と仲間の冒険者が二人、大柄で髪を三つ編みにした巨漢の男性と、聖職者らしい格好をした可愛らしい少女。三人の目立つ冒険者は扉を潜ると、男性達の下に足を運んだ。


「ねえ、君達。さっきの話は本当かい?」

「はっ……」

「な、なんのことだよ」


 二人は戸惑ってしまった。

 目の前には自分よりも随分と年下の少年。

 年齢は十代後半。それにしては見えない気配を孕んでいた。

 あまりの威圧感に男性達は喋る口も訊けない。

 むしろ少年のことを待たせて殺されるのだけは勘弁と喉を詰まらせてしまった。


「すまないね。僕達は暇じゃないんだ。訊いたことには速やかに答えて貰わないと」

「あっ、その……ドーンセン森林って知ってるよな?」

「うん。もちろん知っているけれど、行ったことはないね」

「そこがこの間消滅したんだ。しかもやったのは魔法使いらしいぜ」

「魔法使いが? どう思う」


 少年は二人の仲間にも尋ねた。

 見解するなら人数が多い方が良いと思ったのだ。

 すると巨漢の男性が答える。聖人な武闘派なのか、的確に分析した。


「うむ。恐らくは間違いないだろ。魔法使いというものを我はあまり信用しきってはいないが、そのようなことを可能にする魔法使いならば、居たとしても問題はなかろう」

「そうだよね。タルトゥはどう思う?」

「わ、私もだよ。もしもそんなことができる魔法使いなら、絶対頼もしいはず」


 怯える様子で答えたのは隣に居た聖職者の少女タルトゥ。

 少年のお馴染みでもあるタルトゥは少年と等しく話していたが、何処となく優劣のようなものを感じ取ってしまっていた。


「だよね。ラーガンもタルトゥもこう言っているんだ。その魔法使い、会ってみる価値はあるかもしれないね」

「うむ。すぐに急行するべきだろうな」

「そうだね。早く仲間を揃えないと、魔王軍が余計に活発になるかもしれないよ」


 タルトゥは不穏なことを口走った。

 何故この世界に勇者と言う存在が居るのか。

 それはかつてこの世界を支配しようと多くの血を流すきっかけとなった権化、魔王が居たからに他ならない。

 けれど魔王は初代勇者に倒された。けれど魔王復活を求める魔族達や魔王を信仰する何者かによって新たな魔王が生み出されつつある。その危機的状況を未然に防ぐために勇者は存在し、今はアーリーがその命を拝借していた。

 だからこそだろうか。焦りとそれに比例するように生み出される渇望がアーリーにはあった。


「情報ありがとう。ちなみにその魔法使いの名前と今何処に居るかは分かる?」

「そ、それは知らねえけど。確か近くにエンポートがあったはずだ!」

「ああ。そこに行けば手掛かりはあると思うけどよ……」

「そうか。本当にありがとう。……二人共、早速行こうか」

「「うん」」


 ラーガンとタルトゥは相槌を打った。

 その時に見せたアーリーの表情。

 それは屈託のない子供のようにキラキラしていたが、使命感から来る焦りがやはり邪魔をしていて、渇望が侵食して不気味に演出していた。

 王都に吹く新しい勇者の風はやけに騒がしかった。

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