第2話 見知らぬ草原、見上げればドラゴン

 パサァーと気持ちの良い風が吹き抜ける。

 優しい太陽の木漏れ日が、未来の体を包み込んでくれる。


 ああ、なんて気持ちいいのだろうと、私は一体幾つだよとツッコミを受けそうな感想を思い浮かべる。

 とは言えここは何処? そろそろ目を開けたいのだが、全然瞼が重い。


 目の前は未だ暗闇の中。

 本当に瞼を押し開けてもいいのか不安に思いつつも、いつまでもこうしてはいられない。

 だって首筋がチクチクしてちょっとくすぐったいからだ。


「うわぁ、起きたいなー」


 未来は口が先に動いたので頑張って視界も確保する。

 グッと瞼を押し開けると、急に光が視界を奪う。めちゃくちゃ眩しくて、顔を背けた。


「うわぁ、眩しい!」


 未来は顔を背けて苦言を呈する。

 顔を手で覆うと、光をある程度遮断した。


「な、なに?」


 未来は精一杯頑張って瞼を押し上げた。

 さっきまで飛び込んできた光の原因。

 目を開けた未来は、唖然としてしまう。


「はっ?」


 声を失ってしまうとはまさにこのこと。

 未来は何度も瞬きをしてしまい、何が起きたのか、まるで分からない。

 ただ、未来が草原で仰向け・・・・・・のまま寝転がって・・・・・・・・いる・・こと以外には何もない。


「ちょっと待ってよ。何で私、こんな所に居るの? 確か書庫塔で本の整理をして……って、腕は、痛くない?」


 未来は余計に訳が分からなくなる。

 自分は書庫塔で本の整理をしていた。

 しかし急に本棚が揺れ出して、大量の本が落ちてくる。未来は全身を本達によって圧し潰されたはずだった。

 当然、打撲くらいはしていると思った。が、未来は自分の体を見てみると、打撲痕はおろか、怪我の一つもしていない。


「奇跡じゃん。えっ、怪我してない。良かったぁ……じゃない!」


 怪我をしていないのは嬉しい。

 だけど如何して草原に居るのか。

 それだけは理解のしようがなく、もしかしてここは夢なのでは? ましてや自分が死んでいるのでは? と、未来は冷たい汗を流す。


「古典的だけど、痛い。やっぱり痛い……おまけに影もあるんだ。じゃあ夢でも幽霊でも無いんだねー……はっ!?」


 未来は自分の頬を思いっきり引っ張った。痛い。

 それから足元を見てみる。足はあって、影もはっきりできている。

 夢でもなければ死んでもいないことを確かめると、一瞬安堵した未来ではあったが、すぐにハッとなり、頭を悩ませる始末に陥った。


「なになになになに!? 如何してこうなった」


 もしかして本棚に圧し潰された瞬間、何かしら起きたのでは?

 とんでもないファンタジー現象に遭遇して、未来は瞬きを繰り返す。


「うーんと、もしかして異世界とか?」


 いわゆる異世界転生。または異世界転移。

 その類ではないかと、とんでもないお花畑な頭になってみる。

 でも馬鹿げている。そんなの小説の中だけの話で、きっとアニメの観過ぎだ。


「私疲れているのかな? もしかして白昼夢とか」


 とやっぱり夢を期待していた。

 しかしそんな期待は一瞬にして、しかも淡く打ち砕かれることになる。


「ドラァァァァァァァァァァァァァァァン!」


 バッサァーン!


 とんでもない叫び声、とんでもない風圧。

 未来は顔を覆った後、頭上を見上げてみる。


「一体何が……はっ?」


 言葉を失った。見上げた視線の先、大きくて縦にも横にも長い影が浮かぶ。

 三角形の頭、尾はもの凄く長い。

 図体はトカゲのようだけど、何故か翼のようなものが生えていた。

 その姿はまるでファンタジー映画に登場するドラゴンそのものだった。


「ドラゴン? いやぁー、凄く凝っているねー。って、嘘でしょ!?」


 言葉を失って、喉の奥を唾が勢いよく流れる。

 突然のことで喉が詰まりそうになるも、とりあえず状況を飲み込むしかない。


「えと、ドラゴンが飛んでる? 急に私の体が草原に飛ばされる? ってことは、ここは本当に異世界? じゃあ私、異世界に来ちゃったんだ」


 口に出してみると思った以上にスッとした。

 にしてもこんなことが本当にあるなんて。

 大量の本に圧し潰されたのはもちろん最悪。だけどせっかく異世界に来たのだからと、マイナスな思考を払拭し、未来は顔を上げた。


「そうだ。せっかく異世界に来たんだから、楽しまないとね!」


 現代人は窮屈な生活を強いられている。

 だからこそ、ファンタジーの自由な世界に心躍らせる。

 未来も訳分からんことは考えないことにして、ここが異世界だと分かると、楽しんでみようと思うことにした。

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