第41話 褒められた結果じゃないわ
未来とレイユはサラマンダーを討伐すると、監視塔の中に居た人達に報告しに向かった。
しかし全員張り詰めた糸が切れてしまい、眠るように倒れていた。
仕方ないので未来達は冒険者ギルドに一度戻ることにした。
エンポートなら救助専門の冒険者や医療機関も整っているので、下手な真似をしないで済むと思ったのだ。
「せめて回復魔法が使えたら、もう少し応用が効いたかもね」
「そうね。でも、回復魔法が使えたからと言って、それが正しいとはならないわ」
「だよね。ちゃんとした医療機関を使った方が良いよ。だってアレ……」
「ただの過労よ」
監視塔に射た職員達はまともな食事も睡眠もできていなかった。
過労と栄養失調が重なったせいであんなことになってしまったのだ。
未来とレイユは冒険者ギルで報告することをある程度まとめると、早速ギルドに向かった。
「えっと、ペリノアは……」
「居たわよ。ほら、あそこ」
冒険者ギルドにやって来た未来とレイユは切羽詰まっていた。
早速依頼を頼んだペリノアの姿を見つけると、足早に報告に向かう。
するとペリノアと目が合った。にこやかな笑みを浮かべて出迎えてくれるが、それどころではないので二人はムッとしていた。
「未来さんレイユさん。指名依頼ご苦労様でした。報告をしに……」
「ペリノア、それ所じゃないんだよ。すぐにでもコイルに医療機関を派遣して」
「は、はい?」
「いいから早く。コイルには大きな医療機関が無かったんだ。すぐにでも手配して、急いで!」
未来は余計なことは言わなかった。
とにかく言葉の圧だけを頼りに詰め寄ると、レイユの顔もチラッと見る。
どちらも真剣な様子だ。なにがあったのかは長年の経験と勘である程度補うと、「分かりました」と言ってギルドの奥へと消えてしまった。
「これで一安心だね」
「そうね。放置してきた私達もまさかコイルに医療機関が整っていないとは思わなかったわ」
「確かに。小さな診療所は有っても、まさか頼めないとはね」
「アレだけの人数を安静にするための点滴もベッドも足りていないわよ」
「そうだけど……放置して来て良かったのかな?」
「大丈夫よ。一応持って来た薬草は煎じて飲ませたでしょ。アレを飲んでおけば少しの間は保つわ」
などとレイユは答えた。
人命救助にはあまり適していない二人だったが、それでもできることは限りなくやりつくしたのだ。
後のことは医療機関に任せるしかない。二人は自分達に足りていないものを感じてはいたが、それを受け入れるしかないのだ。
「はぁはぁ……すぐに手配して貰えることになりましたよ」
「そうですか。良かったぁ」
「そうね。見殺しにしなくて良かったわ」
二人の物騒な会話を聴いていたペリノアは首を捻った。
話が最初から終わりまで、あまり見えてこない。
何があったのか気になるようで、ペリノアは尋ねた。
「あの、一体何があったんですか?」
「だよね、訊かれるよね」
「当たり前よ。そのためにここまで話をまとめて来たんだから」
「だったね。それじゃあレイユ、後はよろしく」
「私が言うの? はぁ、分かったわよ」
レイユに任せて未来は少し避けた。
自分が口を挟むとまた厄介なことになると思ったのだ。
ここは必要なことしか言わないレイユに交代する。
話はちょっと長くなるのだが、事の顛末を聴かないとダメだと思い、当事者である未来も話を聴き終わるまではその場を動くことはできなかった。
「そんなことが……」
「ええ。だからドーンセン森林はもう無いわ」
レイユは事の顛末を全てペリノアに話し切った。
ペリノアはにわかには信じられないようだが、レイユが下手な嘘を付くわけもないので信じる。とは言え信じたからと言って、ドーンセン森林が無いことは変らない。
その事実を突きつけられると、話を聴いていた未来は心が痛くなった。
「けれど幸いなことに、他の生物への被害は出ていないわよ。それだけはせめてもの救いね」
「救い、名のでしょうか?」
「救いと捉えるしかないでしょ。とにかく、私達はできる限りのことはしたわ。貴女達冒険者ギルドが私達に責任転嫁したのなら好きにすればいいけれど、私はこのことを王都の冒険者ギルド本部に直談判して直訴するけれどね」
「それは止めてください! レイユさんの言葉がどれほど真実味があるか自分でも分かっておっしゃっているんですよね?」
「もちろんよ。直訴するということは、それだけの覚悟が私にもあるということ。そもそもの話、今回の依頼を遠回しに受けさせたのは貴女達ギルド側。もちろん私がどんな魔法使いか理解した上で、尾鰭を付けてプッシュしたんでしょうね。でも残念、私は期待には応えないの。その結果がこれ、自分達にも責任があることしっかりと肝に銘じておきなさい」
「は、はい……」
レイユは完全に冒険者ギルド側を敵に回し兼ねない状況の中、自分の意見を突き通して黙らせてしまった。
圧倒的な信頼と実力が合ってのことだ。未来は自分と似たようなことを、一切顔色も世間体も気にせずやり切ってしまう姿に感動した。
ついつい見惚れてしまうとはまさにこのことで、ポカンとしてしまう。
するとレイユはギロッと視線を向け、「なに?」と聴きながら恥ずかしいのか頬を赤らめる。
「ごめん。だけどレイユ、カッコいいよ」
「ふん。如何でもいいわ」
「そうだね。終わったことをくよくよするのはらしくないよね。もう私もスッキリしたから、気負いしないで良いよ」
「気負いなんて最初からしていないわ」
嘘が下手だった。顔色を見れば未来には一発で判る。
それが未来の持って生まれた才能で、その目からは逃げられないが、本人が言うのならこれ以上は深追いしない。
「あの、それでは報酬を……」
「それはいいわ」
「えっ?」
ペリノアは驚いていた。
依頼を無事ではないが達成した。まかりなりにも報酬を受け取る権利はあるのだが、流石に居た堪れないので受け取るのも忍びない。
そこでレイユと相談した結果、今回はあえて受け取らないことにした。
「ドーンセン森林を焼失させてしまったのは私達よ」
「私達?」
「黙っていなさい。だから少しでも森林の復興に使って欲しいのよ」
「良いんですか?」
「もちろんよ。けれど肝には銘じて。私達は普通の冒険者じゃないのよ」
レイユはペリノアに言いつけた。
クルンと振り返り踵を返すと、その表情をギルド職員には見せない。
けれど未来にはしっかりと映り込んでいた。レイユが後悔の念で涙を浮かべそうになっていた。自分の力の強さに忌々しく思っているのか、何だか悲しくなってしまった。
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