《最速の運び屋》は異世界を駆ける〜万能な翼を手に入れた私、自他共に認めるヤバい奴なので、いつもやりすぎてしまう
水定ゆう
第1話 本の雪崩が降って来た!?
放課後のこと。それはまだ夕方にはなっておらず、青い空が広がっていた時刻。
少女の隣を同級生達は駆けていく。
みんな部活で忙しいようで、大変だなと他人事のように思ってしまった。
とは言え少女も暇ではない。
これから委員会が有るので、帰るわけにはいかなかった。
隣の席の友達で、同じ委員会を兼任している
「よっ、未来。これから委員会?」
「そうだよ。って言うか、杏璃もでしょ?」
「あー、それなんだけどさ」
「如何したの?」
表情を顰めていた。
眉根を寄せ困ったような様子で頭を押さえている。
何か予定でも入っているのだろうか? と、見れば左肩にテニスラケットの入ったケースを下げていた。
如何やらこれから部活らしく、委員会の活動とブッキングしてしまったようだ。
「如何しようって考えててさ」
「あー、部活大変だもんね」
「そうなんだよ。今度地区大会あるでしょ? それに出なくちゃダメでさー、ほんとこういう時どっちを優先したら良いのか分からないよね」
杏璃は困っているのか、困っていないのか、本意を見るとまるで分からなかった。
けれどどっちにも出る意思は見せていて、けれどそうなるとどちらかを疎かにする。
幸いにも委員会の活動はそこまで忙しくない。
そう考えれば、期限の決まっている部活の方を優先した方が良いと未来は思ったようだ。
「それじゃあ私が杏璃の分も代わりにやってきてあげるよ」
未来は考える間もなく、杏璃にそう提案した。
杏璃の顔が近くなる。目が大きく見開くと、信じられないといった顔をする。
もしかして私が天使にでも見えちゃった? 何て妄想は置いておく。
「マジで?」
「マジのマジ。その代わり、今度ご飯奢ってね」
「うっ……お小遣い厳しいのに」
「部活と委員会に入っているからでしょ? 私だって、委員会とバイトを掛け持ちしているんだから、これくらい飲んでよね。それじゃ、部活頑張って」
未来の要求に杏璃は飲むしかなかった。
なので渋々と言った表情を浮かべると、財布を取り出して「一枚、二枚、三枚……まあ、これだけあれば」と唸っていた。
「まあ、いっか。んじゃありがとう、未来」
杏璃は駆け出して行った。
廊下には他のクラスの教室から出てきた生徒達でごった返す。
途中ぶつかりそうになるのを遠目から保護者的に未来は見届けた。
内心では元気だなと思いつつ、口では「凄いなー」と完全に他人事でいた。
「さてと」
さて、これで私に仕事が回って来ちゃったぞ。と、未来は腰に手を当てた。
とは言えそれも悪くない。そう思えるくらいには未来は優しい性格で、足取りは軽やかに委員会の場所である、図書室へと向かった。
如何して焦ったり、怒ったりしないのかって? 未来も杏璃も図書委員を務めていたが、別段本がもの凄い好きなわけではなかった。
だからこそ、これほどまでにゆとりのある態度を取ることができたのだった。
「委員会行こ」
未来は平常運転だった。
背負っているリュックの紐をギュッと握り、何の気なしに図書室に向かう。
「えっ、今日は本の整理ですか?」
図書室にやって来た未来。
そこで司書の先生に言われたのは本の整理だった。
もちろん図書委員としては平常運転。
本の整理を始め、返却・貸し出しは当たり前。
後は本に折り目が付いていないかとか、出来ることには限りがあるけど、未来は自分ができることであれな一生懸命、下手に疲れないレベルでは頑張っていた。
だから本の整理を頼まれても、あっ、そうですかと言えるレベル。
だけど今日は図書室の整理じゃなかった。
頼まれたのはまさか学校の敷地内にある別の建物。
書庫塔と呼ばれていて、そこには古い本や珍しい本が整理整頓されていて、一ヶ月に一回程度しか使うことがない場所だった。
「その建物の整理ですか?」
「はい、お願いできますか?」
「ま、まあいいですけど……同じ図書委員の他の先輩達は?」
「それが集まりが悪くてね。今日はもう一人来るはずだったけど、もしかしてお休み?」
未来は今更言いだせなかった。
それにしても一年生の私だけが来ているなんて、きっと先輩達は書庫塔が少し離れているから面倒に思ったに違いない。
未来も同じことを思ってしまったが、今図書室には私一人しか図書委員がいなかったので、逃げられる余地などない。
それが分かっていたので、ここは自分から折れることにする。
「分かりました。それじゃあ行ってきますね」
「一人だと大変だろうから、できる所まででいいからね。後、本棚とか床はかなり古くなっているから慎重にね」
「はい、気を付けます」
未来は師匠の先生に注意を促されつつも、早く終わらせたいと思ったので、書庫塔へと向かう。
まずは一旦校舎を出て、校庭とは反対側、即ちテニスコート側に抜け、更にその奥には裏庭へと繋がる雑木林の道があり、その先、普段は獣道になってるが一応人が通れるように整備されている道を進むと、目指す書庫塔は見えてくる。
これだけでもかなり大変。しかも帰るためにはこの道を往復。
流石に一度図書室へと戻るのは嫌なので、そのまま直帰できるように用意しつつ、鉤だけ預かって書庫塔へと向かって、ようやく到着した。
「やっと着いた」
未来は結構歩いた。
ここに来るだけで大体急いでも七分は掛かってしまった。
これでも少し走った。だから悠長に構えていると、十五分は余裕で飛んで行く計算になる。
「えーっと、鍵は……あれ?」
書庫塔にやって来た未来は南京錠の扉の鍵を開けようとした。
しかしかなり古くなっていて、わざわざ鍵がなくても普通に開いた。
これ意味あるのかな? とか絶対に言っちゃいけないことを思いつつも、未来は鉤を開けて書庫塔の中へと入る。
ギィィィィィィィィィィィ!
重々しい上に錆び付いた扉を開けた。
すると中は案の定で、二階のカーテンの隙間から光漏れ出す程度。
他は真っ暗闇で、あまり気持ちの良い場所ではないという印象が強い。
床も軋んでいて、歩くとギシギシ抜けそうな音が聴こえる。ちょっと不気味だが、建物の中に入ると、変な空気感に未来は触れる。
「あれ? なんだろ、悪くないかも」
意外な感想が飛び出して本人が一番びっくりした。
壁や床は湿ってはいたが、カビは生えていない。
もっと深く言えば何の木材か分からないけど、とってもいい香りがして心が洗われる。
もしかしてこの建物と相性がいい? 何て意味の分からないことを想像し、未来は早速作業に移る。終わっても終わらなくても帰れるからいつもより気楽だった。
「えーっと、この辺かな?」
未来は書庫塔で作業をしていた。
何年も前から積み上げられているとしか思えない本の塔を、一つ一つ箒で埃を落としたり、剥がれたラベルを直したりしながら、二階、三階へ上り、棚の中に本を仕舞っていく。
円形の塔なので、本棚も見事に円形。
なので仕舞うのがとっても大変だ。
「えーっと、この本は、ここ。そしてこれが、あっちかな」
しかも前からの担当の人がサボって積み上げていた本達は、名前も年代もバラバラ。
そのせいで右から左へと行ったり来たりしないといけない。
とっても大変な作業だったけど、未来は楽しんでやっていた。
一つ一つ、本が片付けられていくのを見るのはやっぱり人間の心理として気分が良い。
「うわぁ、何この中段」
本棚の中には円形と言う塔の性質上、意味の分からない棚があった。
一体何のサイズの本を埋めるのか。
正直、この書庫塔の中には無かった。なので不必要な棚が生まれていて、未来は変に思った。
「まあいっか。えーっと次の本は……あれ?」
未来は立ち止まった。
あれ、この隙間何? と、未来は中段の本棚に変な扉があることに気が付く。
もしかして開くのか? 未来は指を引っ掻けた。
「あっ、普通に開いちゃった」
何と何の力も入れずに、普通に開いてしまった。
中には何が入っているのか。如何せ本だろうけど、この際覗いてみる。
未来は顔を近付けると、中には赤い本が入っていた。とっても古そうだけど、防虫効果でも付いているのか、虫食いもないし、カビも生えていない。
「何だろこの本。うわぁ、変な魔法陣が描いてある。もしかして先輩達の中二病的なアレ?」
な産物の可能性もあった。
申し訳ないので見ないことにして、そのまま仕舞っておいてあげようとする。
これは見なかったことにしようと、心の中で唱えると、急に本棚がガタガタと揺れ出した。
「な、なに!?」
未来は困惑する。
すると本棚から大量の本が雪崩のように落ちてきた。
「えっ、ちょっと待って。えっと、おりゃぁ!」
仕舞おうとしていた本を使って雪崩を受け止めようとした。
しかし何十冊も突然落ちてきたので、当然のことながら受け止められるわけもなかった。
「痛い、痛い、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
視界が急に真っ暗になる。
本達に押し倒され、仰向けのまま本に生き埋めにされる。
全身痛い。きっと打撲している。骨は折れていないと信じたいし、呼吸もできていた。
だけど上手く体が動かせそうにないし、頭を強く打ってしまったのか、滲むような臭いはしないが、少し動けない。
「如何しよう……ああ、ちょっと休めば体が動くはずなのに、ああ、意識が、途切れ、て……」
未来は意識を失ってしまった。
真っ暗な闇が視界を覆いつくす。
体がピクリとも動かなくなると、両手で持っている中二病全開の本が急に光出す。
しかし未来は意識を失っているので気が付かない。
そのまま未来の意識は、光る本のことに気が付くはずもなく、コクコクと時間の波を彷徨って、微睡の中にいる気分だった。
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