第27話 パーティーを組むことになりました

「えーっと、未来さんとレイユさんはお知り合いだったんですか?」

「はい」

「いいえ」

「なっ!?」


 リネアに質問されたことでようやく沈黙から解放された。

 ここまで実に十分間。未来はキョロキョロしていたが、レイユはだんまりを決め込んでいた。

 その空気に割って入ってくれたのはリネアだったのだ。

 おかげでこうして口を開くことができたものの、まさかの初見さん扱いに未来は驚愕する。流石にどちらか一方が異なることを発現していたら辻褄が合わなくなってしまうので、ここは“はい”に全力で誘導する。


「会ったことあるよ! 昨日も今日も冒険者ギルドで」

「いいえ、知らないわね」

「嘘だぁ。レイユ、まつ毛だけ動いてるよ?」

「えっ、そんなはず!?」

「はい、引っかかった。嘘下手じゃないでしょ? 急すぎて思いつかなくて自分の癖にもボロが出たね。私が適当に作った癖に引っかかるなんて」

「……貴方、ウザいわね」

「それは如何も。でもウザ絡みが必要なことだって時にはあるんだよ? こんな風にね」


未来は本音爆撃を始めた。レイユはウザそうな顔をする。

 しかし「はぁ」と溜息を一つ吐くので、観念したらしい。

リネアに改めて回答した。その様子を隣で笑みを浮かべつつ、勝ったと確信した未来の表情がチラついた。


「リネアさん嘘を付きました。未来とは……同じ冒険者なだけです」

「そうだったんですか! それではお二人はお友達……」

「「……ん?」」

「あ、あれ? お二人はお友達ではないのですか?」


 リネアは表情を歪めてしまった。

 対して未来とレイユは首を傾げてしまう。


「えっと、お友達では?」

「無いわ。絶対に無い」


 レイユははっきりと呟いた。

 グサリと胸に突き刺さる一言は、完全に未来のことを嫌っている証拠だった。


「そうなんですか?」

「私に訊かれても……でも私は友達になりたいと思ってますよ」

「一方的にパーティーを組みたいだけでしょ?」

「そうだけど……でもパーティーを組めるくらい私もランク高めだよ?」

「それはルーキーからしてみればの話よ。その程度で満足する気?」

「うわぁ、チクチク来るなー。でもこんな所で満足はしないよ」

「ふん。向上心はあるのね。私には無いものだわ」


 レイユは自分自身と対比した。

 壁がより高く建造された気がする。

 けれどその間を取り持つように橋を賭けてくれた人が居た。当然リネアだ。


「レイユさん、そんなこと言わないでくださいよ。レイユさんの魔法には度々お世話になっているんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。レイユさんにはとても強い魔法があるんです。しかも三属性扱える魔法使いはもはや天才の域を超えた才能の持ち主と言われているそうですよ!」

「ま、マジで?」

「さぁ、信じるに値するか否かは貴方が決めればいいのよ」


 レイユの口ぶりが強がっている世にも聴こえたが、もの凄くカッコよく響いた。

 価値観を決めるのは自分自身何て、未来も納得して尊重した。

 しかしだからこそ、三属性使えるという魔法が見てみたい。

 やっぱりファンタジー世界に来たのなら、まともな魔法が見てみたかった。


「ねえレイユ、魔法見せてよって言ったら?」

「はっ?」

「魔法だよ。リネアさんには見せたんでしょ?」

「はい、見せていただきましたよ。とても綺麗で洗練されていました」


 余計に気になってしまった。

 未来はレイユに再度お願いした所、表情が一変した。

 態度が気に入らなかったのか、未来に怒鳴り付ける。


「はぁ? 見せるわけないでしょ」

「見せてくれないの?」

「当たり前よ。私のことを魔法でしか判断しない貴方なんかに……」

「そっか。じゃあいいよ」

「へっ?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。

 未来はそんなレイユを放置して思ったことをスパッと言った。


「魔法はやっぱり憧れるから見たいけど、“見たい”とは言っても“見せろ”とは言わないからね。流石に本音爆撃の私でも、“絶対に”とか“そうだ”みたいな決めつけはしないから」


 一応未来の中でも線引きはできていた。

 モラルが生っていないようなことは……極力言わないようにしている。

 言いたいことを言うのは変らないが、強制のようなことは絶対にしない。

 自分自身がそれを嫌っているからの範疇であり、未来なりのいわゆる優しさだった。

 けれどレイユはポカンとした表情を浮かべる。なんで断ったらそんな顔をされるのか分からなかった。もしかして過小評価されてた的な? と、未来は焦る。


「もしかして意外だった?」

「ええ、勝手なイメージだけどね。ごめんなさい」

「謝られるなんて新鮮」

「私だって自分が間違っている時が付いた時はちゃんと謝るわよ。ああ、もう! 貴方と居ると私のペースが乱れるわ」

「あはは、ごめんごめん。でも私、そう言う性格だから。よろしくぅ!」

「ウッザ!」


 レイユは苦い表情を浮かべ、眉根を寄せていた。

 そんなやり取りを見させられていたリネアはにこやかな表情を浮かべている。

 完全に痴話喧嘩を見させられていて、ムカつくではなく習慣性羞恥でこっちまで気恥ずかしくなるレベルだった。


「お二人共本当に仲が良いですね。えっと、パーティーとおっしゃっていましたよね?」

「はい!」

「私はお二人は良い関係だと思いますよ。如何ですか、レイユさん。お試しでパーティーを組んでみたら?」

「はっ? 私が貴方と?」

「……私は大歓迎だよ」


 レイユが嫌そうな表情を浮かべて未来のことを見た。

 けれど未来はそれでも歓迎ムード。自分自身を一切崩すことなく、レイユを崩しに掛かる。

 しかもリネアは円満解決を目論んでいるのでレイユの味方にはなってくれない。

 完全に八方塞がりになってしまい逃げ道を絶たれたレイユは降参した。


「分かったわよ。パーティー、組んであげるわ!」

「えっ、マジで!?」

「ただし、私が相応しくないと思ったら即刻に限りから。それで良いわね」

「えー、そんなんじゃ友達できないよ」

「貴方には言われたくないわ!」

「私は友達居るよ。変な子が多いけど」


 未来とレイユは言い争いにならない程度の低い会話を続けた。

 その様子に朗らかな表情を浮かべ静観を続けるリネアが見守る。

 なにはともあれ無事に? パーティーを組むことができた。

 未来はようやくの“らしさ”を手にして楽しくなってきた。

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