第28話 三現の魔法使いの実力
未来とレイユは成り行きではありつつも、冒険者としてパーティーを組むことになった。
その足で冒険者ギルドまでやって来たものの、レイユは浮かばれない顔をしていた。
きっと未来とパーティーを組むことになったのがよっぽど不服なのだろう。
それが分かっていたにもかかわらず、未来はレイユに話し掛けた。
「ねえレイユ、どの依頼を受ける?」
「どれでもいいわよ。それよりくっ付かないで」
「くっ付いてないけど?」
「うっ……うるさい!」
「うるさいって。なに虚空に向かって怒っているの? 私には全然分からないなー」
「ウッザ」
レイユは怪訝な表情を浮かべる。
けれど未来にはまるで伝わらない。もちろん分かっていた上でやっている。
無性に質が悪いのだ。
「はぁー。ん?」
「ペリノア? なにかあったのかな」
「行ってみれば」
「いやいや一緒に行こうよ。はい、GO!」
「ちょっと。腕引っ張らないでよ」
「……引っ張ってないけど?」
「あー、もう。ウザい」
レイユは天井を見上げて発狂しそうになっていた。
よっぽど面倒な奴に当たってしまったと、心から嘆く。
例えるなら、美容院に来たのにいつもの担当さんに当たれずに、全く知らない上に口煩い美容師さんに当たったみたいな。要はハズレを引かされたような絶望感に全身が浸かっていた。
だけど結局は諦めた様子で、レイユも溜息を零す余地も無くなり、受付嬢ペリノアの下にやって来る。
「おはよう、ペリノア」
「おはようございます、未来さん。あの、隣に居るのはレイユさんですよね?」
「はい!」
「もしかしてパーティーを?」
「組みました!」
「組まされたわ」
未来はニコニコ笑顔。対してレイユは不服そうな歪んだ顔色。
あまりの歪さにペリノアも「アレ?」と声を漏らしていた。
けれどパーティーを組んだことは本当なのでそこだけは否定しない。
そのためペリノアも遠慮なく、口を開いた。
「パーティーを組んだのでしたら丁度良いですね。お二人なら問題ないはずです」
「もしや……依頼?」
「はい。実はジャイアントトードが大量発生してしまっていて」
「トード? ってことは蛙? うげっ。大量発生はキモいな」
「確かに大量発生されると気持ち悪いわね」
お互いにキモいことは判り合えた。
互いに表情を歪めていると、ペリノアも視線を逸らしつつ、「お願いできませんか?」尋ねた。これは面倒なことになる。そう思いつつも、討伐系の依頼ならレイユの実力も見られるかもと淡い考えを抱いた。
これは受ける価値あり! 未来はニタリとした眼を浮かべると、受付カウンターを両手のひらでドン! と叩いていた。
「受けます。ねっ、レイユ!」
「ちょっと勝手に決めないでよ」
「でもジャイアントトードならレイユの実力も見れるでしょ? 私の実力も見せてあげられるし。一石二鳥。いや、報酬も出るから一石三鳥? ……いやいや人助けにもなるから四鳥あるかも……ねー」
「……分かったわよ。その依頼、受けてあげるわ」
「待ってました!」
未来は指を鳴らした。
レイユは諦めた様子で依頼をペリノアから受ける。
その際、とてつもない笑顔を浴びせられてしまった。
「それではお願いしますね」
「……分かったわよ。それじゃ行くわよ」
「はーい」
「子供じゃないんだから、そう言うのいいから」
「あっ、OK」
流石にこれ以上ハッチャケるとレイユに嫌われる。
今でさえギリギリなのにこれ以上はマズい。
脳内好感度メーターが自分の自由な気持ちと戦って結果、少しだけ折れることにしてあげた。未来の中で区切りを付けると、ジャイアントトードを討伐しに向かった。
草原にやって来た。ここに如何やらジャイアントトードが居るらしい。
しかも大量発生と聴くと、今からヌメヌメ度が増し増しになる。
果たしてどれだけの数が居るのか。恐る恐る小高い丘を上がってみると、反対側の斜面の下には大量の蛙が蠢いていた。
「「「グワッ! グワッ! グワッ! グワッ!」」」
見えてきたのがジャイアントトード。
全身が緑色で、黒い斑点があるのが特徴。しかしジャイアントと付くだけあって馬鹿デカい。多分全長四メートルは優に超えている。とにかくデカいカエルだった。
おまけに全身がイメージ通りヌルヌルしている。粘液が纏わり付いていて保湿効果バッチリらしい。
けれどそんなことは如何でもいいくらいの大合唱が響いていた。低く野太い鳴き声が反響して空気を震わす。一匹なら大したことないが、それが見れば百は遥かに超えていた。
そのため未来もレイユもドン引きした表情をする。
「レイユ、この数ヤバくない?」
「ヤバいを通り越して気持ち悪いわよ。早く処理しましょう」
動物愛護団体的なものがあれば、きっととんでもない批判を喰らいそうなセリフを堂々と吐き捨てる。しかしながらこの大量発生具合は異常極まりなく、流石の未来も口元を覆いそうになる。
あまり直視したくない。目を自然と逸らして、それでも戦わないとダメなので【翼】に呼び掛ける。一瞬で跡形もなく粉砕すればきっと気にならない。
もはや見ないことを徹底した未来だが、レイユは先手を打った。
未来は翼を出すまでもなく、杖を高らかに掲げると何やら呪文を唱える。詠唱だ。
「
「早っ!? えっ……はっ!?」
呆れるというか驚いて声がそれしか出ない。
レイユが魔法の詠唱を短縮して名前だけを唱えると、自分の真上に巨大な炎に固まり、火球が生まれた。もちろんただの火球じゃない。とんでもない大きさかつ熱量を持っていて、近くに居るだけで汗が出る。全身が干上がりそうだった。
「凄い。これが魔法……ってまさか!」
「放て!」
レイユが呼びかけると、火球は大量発生したジャイアントトード目掛けて飛んで行く。
ジャイアントトードも粘液が過敏に反応してドンドン干されるのが分かったのか逃げようとした。大きくジャンプして天高く登ろうかと思ったのだが、それが災いして火球に早々全身が飲まれてしまった。
一瞬にして体が蒸発。姿形が見えなくなり、骨の一つも残らない。
魔石すらも粉々にしてしまったようで、気が付けば集まっていたジャイアントトードの姿は跡形もなく一つ足らず残らなかった。
まさに一瞬。自分が死んだことにも気が付けないのだ。
「終わったわね。帰るわよ」
「レイユ、今のが魔法? 一瞬でケリが付いちゃったけど……」
「当たり前よ。私は並みの魔法使いと違うの」
「魔石すら残ってないけど?」
「今回は数が多すぎたのよ。回収している方が時間掛かるわ。ほら、帰る帰る」
レイユは先に帰ってしまった。
その背中には達成感のようなものは無い。まるでこれが日常とでも言いたそうにしていて寂しかった。きっと自分の実力が高すぎて孤立してしまっているんだ。
それを理解した未来だったが、やっぱり凄い。
レイユとパーティーを組んで良かったとニコニコ笑顔を浮かべたが、一つだけ不満があった。
「私の実力見せられなかった。よし、今度は私が倒そう!」
次のモンスター討伐は未来が頑張ることにした。
レイユにも自分の実力を知って欲しい未来はある種の野望を掲げた。
レイユと仲良くなる。漠然としたあまりにもしょうもないう野望だけど、とりあえずそれを叶えないと先に行けない気がしたのだった。
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