第29話 今度は未来の実力を見せよう
次の日。
未来とレイユは冒険者ギルドにやって来た。
昨日はレイユの活躍もあり、依頼がすんなりと解決してくれた。
けれど今日は違うって所を見せたい。未来は、私だってやるんだぞ! って所をレイユに見せつけるべく、何か討伐系の依頼が無いかと洗っていた。
「うーん、良いのが無い」
「仕方ないじゃない。適当で良いでしょ」
「適当って……金払いも良くないと、二人だとさ……ん?」
ふと視線を受付カウンターに向けると、ペリノアが手招きをしていた。
何かあったのだろうか? 未来は首を捻ったものの、呼ばれていると感じたので行ってみた。
するとペリノアはパッと表情を明るくし、そそくさと作業を始めた。
まだ何をするかも聴いていないのにだ。ペリノアは依頼書を取り出して、未来に提示した。
「おはようございます、未来さんレイユさん」
「おはよう、ペリノア。えっと、それは?」
「依頼書です。お二人にお願いしたいのですが……よろしいでしょうか?」
「よろしいって、もう用意しているでしょ?」
「はい!」
ペリノアは悪びれもしなかった。
完全に本音と真っ向勝負で、一瞬だけつっかえてしまった。
けれどペリノアから受け取った依頼書の内容は討伐系。丁度受けたかった依頼だったので、未来は目を見開いた。
「討伐系!?」
「モンスターはブラックバイソンね。へぇ、この辺にも居るのね」
「いえ、この辺りには本来生息していないモンスターの筈ですよ。ですが時々紛れ込んでしまうようです」
「ブラックバイソンって強いのかな?」
「はい。ですが未来さんとレイユさんにしてみれば余裕だと思いますよ」
「余裕って……分かりました。受けますよこの依頼」
「本当ですか、ありがとうございます!」
ペリノアは笑みを浮かべ、早速手続きを始めた。
レイユはその手早さに腕を組みながら呆然と見ていた。
未来も何も言うことはなく、今日は私が活躍するぞ! と目論むだけだった。
未来とレイユはこの間とは違う草原にやって来た。
今回の草原はかなり柴が短い。
脚を取られることもなく、短い柴を踏み付けながら草原を見回す。
見た所遮蔽物はかなり少ない。おまけにこの間同様丘になっている。
軽い坂を駆け上がると、レイユが愚痴を零した。
「全く。面倒なモンスターの依頼を受けたわね」
「そうなの?」
「ブラックバイソンの毛は分厚くて魔法攻撃が通り難いのよ」
「そうなんだ。でもレイユなら余裕でしょ?」
「どれだけ私のことを買っているかは知らないけど、当然よ。でも面倒な相手には変わりないわ」
レイユはとことん面倒そうにしていた。
その顔色を見ると、この依頼を受けない方が良かったかもしれない。
おそらく好感度は下がってしまった。だけどその分自分が頑張れば良いと思い、力こぶを軽く作るくらいには逆に燃えて来た。
「そもそも本当に居るのかしら?」
「如何してそう思うのかな」
「決まっているじゃない。ブラックバイソンは毛深いの。つまりここよりももっと北に生息しているのよ。こんな所に居る何て物珍しい……あっ!」
「居たねー。まさか普通に居るなんて思わなかったよ」
「あの受付嬢のこと信じているのか信じていないのかどっちなのよ」
「さあねー。それはその時々だよ」
「優柔不断ね」
レイユに怪訝そうな顔をされてしまう。
とは言え、未来は全く気にしなかった。
それよりも気になるのは眼下に浮かぶ黒い塊。
全長は大体三メートルくらいだろうか。横にとてもデカい。
アレが如何やらブラックバイソンらしく、立派な角と毛むくじゃらな分厚い体毛に覆われていた。見るからに強そうでカッコいい。未来は強いモンスターと戦えてウズウズしていた。けれどレイユは面倒臭そうに早速魔法をぶっ放そうとする。
「面倒ね。
「あっ、ちょい待ち」
「はっ? なによ、私が倒して……」
「今回は私がやるよ。レイユはここで見てて」
「……分かったわ。貴方の好きにやりなさいよ。私は魔力を抑えられて良かったわ」
「OK。それじゃあ、行こうか」
レイユからの了承も取れたので、未来は背中から翼を出した。
スキル【翼】を展開し、レイユに度肝を抜かせる。
真白の翼が雄々しく広がり、瞬き厳禁で大空へと舞い上がった。
「な、なに、あのスキル。綺麗な翼……」
レイユはついつい見惚れてしまった。
頬を赤らめ、興奮からか瞬きもできない。
しかしそんなことを未来は気が付くはずもなく、急上昇からの急降下で、硬質化した翼を武器にブラックバイソンに正面衝突を図った。
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一見すると自殺行為だった。
ブラックバイソンと目が合ってしまい、何事かと思ったのかブラックバイソンも本気になる。後ろ脚をバタつかせ、地面を削って加速する。
徐々にスピードを上げながら一瞬にして最大加速。二本の鋭い角を前に倒し、未来を貫こうと画策していた。
けれどそれは淡い夢に変わった。硬質化した翼を前にしてブラックバイソン如きが敵うはずが無いのだ。
「そんなの、私には効かない!」
翼を翻し、槍の様にしてブラックバイソンの額を貫く。
そのまま一本の槍と化すと、ブラックバイソンの体をまるでストローで飲み口に穴でも開けるみたいに容易に貫通させてしまった。
本当に一瞬で惨たらしい光景だった。
しかし未来は「うわぁ」としか発せず、もう慣れっこになっていた。
「翼が汚れちゃった。まあいっか、倒せたんだし」
未来は仕事を終えた達成感を胸に、レイユの下まで舞い戻る。
そこに居たレイユの表情は何処かいつもよりも朗らか。
むしろ未来のことをジッと見つめていて、いつもの“らしさ”を掻いていた。
「どしたのレイユ? 見惚れちゃって」
「はっ! そ、そんなことないわよ。それよりもう終わったの?」
「終わったよ。ほら、アレ見てよ」
「そ、そうね。ふーん、結構やるのね」
「どうも。でもちょっと汚れちゃって……槍はまだ早かったかも」
レイユにブラックバイソンの死骸を見せた。
納得してくれたは良いものの、未来は不服だった。
翼が汚れたのは仕方ないとしても、折角の
「うわぁ、早く帰ってお風呂入ろ」
「確かにちょっと臭うわね。それはそうと、魔石は手に入れたのかしら?」
「魔石?」
「ええそうよ。私は砕いちゃってけど」
「それが魔石は……じゃじゃーん! ちゃんと取って来ました」
未来は魔石を見せびらかした。
レイユはウザそうな表情を浮かべるものの、「そう。それじゃあ帰りましょう」と淡々と呟いた。先に踵を返して帰ってしまうものの、背中から出ているいわゆるオーラ的な何かはかなり良いと思う。
未来は好感触を覚えると、実力をしっかりと見せつけることができたので満足し、レイユを追いかけるように走って傍に駆け寄った。
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