第4話 ドラゴンを倒したぞ!

 未来は全速力で逃げ出した。

 翼をバンバンはためかせると、ドラゴンから逃げる。


「流石に勝てない。ここは全力で逃げるぞ!」


 未来はドラゴンから逃げられるかどうか怪しいけれど、頑張って逃げようとした。

 しかし目の前から突然逃げ出した未来のことをドラゴンは睨みつける。

 完全に獲物認定されてしまったようで、真っ赤なドラゴンは高らかに吠える。


「ドラァァァァァァァァァァァァァァァン!」


 口を大きく開けると、軽く翼を上下させただけで、逃げ出したドラゴンに追いついた。

 一瞬の内だったので、未來も驚愕。


「嘘だ! くっ、やっぱり体の大きさが違うから、スピードも距離感も違って……くっ!」


 未来はドラゴンから逃げようと、もう一度心掛けた。

 だけどドラゴンは未来のことを逃がしてくれない。

 それどころか、喉の奥に熱いものを溜め込んで、未來へと吐き出す。

 火炎攻撃だ。


「待ってよ。そんなのズルいよ!」


 未来は右旋回して、攻撃を回避しようとした。

 丁度避けた瞬間、未來が先程いた所を、炎が通り過ぎていく。

 ゴォゴォと火花は散り、高温で黒焦げにしようとする。


「危なかった。はぁー、もう! 火炎何てズルい」


 未来はドラゴン相手に怒りを燃やした。

 しかしドラゴンが当然許してくれるはずもない。

 ギロッと目障りとでも言いたいのか、牙を剥き出しにして、喰らい付こうとする。


「嘘だって!」


 長い首を伸ばして未来のことを噛み食らおうとする。

 ギリギリの所で躱したは良いものの、翼の一部が齧られた。

 不安定な飛行になり、フラフラするが、すぐさま翼の食われた所が回復して、ホッと胸を撫で下ろす。


「ふぅ。でもこのままじゃ防戦一方だよ。せめてもう少しスピードがあれば……って、それなら倒せばいいんじゃないかな?」


 未来はドラゴン相手に無謀なことを思ってしまう。

 けれどできる気がした。

 何となく翼をさっきみたいに硬質化すれば、ドラゴンだって切り裂けるのでは? と、信じたくなった。


「やってみよう。やってみるしかない!」


 未来は翼に念じた。

 すると硬質化して強靭な翼に変貌させる。

 羽根一枚一枚が鋭い剣の様になり、ドラゴンも何か嫌なものを感じ取ったのか、目を見開いて身を硬くした。


「ビビってる。ビビってるってことは、この翼なら行けるってことだ!」


 未来はドラゴンに向かって突撃した。

 ドラゴンも警戒していて、未来のことを委縮させるべく、喉の奥に熱を溜め込む。

 炎攻撃を再びしてきて、未来のことを焼き尽くそうとしてきた。


 ボハッ!


「そんなの効かないよ!」


 未来は炎を躱した。しかも躱しながらドラゴンに突っ込んだ。

 硬質化して強靭な翼が、ドラゴンの片翼を切り裂く。

 鋭い剣が何本も束ねてできた翼を前にして、いくらドラゴンであろうが骨ごと断ち切られたのだ。


「ドラガァァァァァァァァァァァァァァァン!」


 大絶叫を上げて、ドラゴンが地上へと落っこちていく。

 片翼を失い、体を支えられなくなったので、ここは追撃だと思い、未来は容赦なくUターンして、もう一回突撃する。

 今度は胴体を切り裂いた。


 グサリ!


 鋭い剣が貫いたような重々しい音が鳴り響く。

 未来は自分が容赦ないことをしたと知り、少し訝しむ。

 けれど奥歯を噛んだまま、それすら飲み込むと、バラバラになって半分以上が粒子になって消失したドラゴンの胎内だった場所から、紫色をした光が太陽光に反射して見えた。


「何だ、アレ?」


 地面に落ちてバラバラになられても困る。

 そう思ってもう一度Uターンして、手を伸ばした。


「硬っ!? って、石ころ?」


 せっかく手にした紫色の物体は石ころだった。

 だけどモンスターの中から出て来るなんて、もしかしてヤバいもの?


「胆石とかそっち系じゃないよね?」


 それならちょい汚い。

 表情を歪め、げんなりした未来だったが、ふとファンタジー世界なら価値ある物じゃないかと逆に考えてみる。

 例えば魔石だ。


「もしかしてコレが魔石なのかな? それだったら……売れる!」


 これは金策になるぞと、未来は目の色を変えた。

 一文無しから卒業できる。しかも相手はドラゴンのものだ。

 きっと高値で取引してくれると信じた未来はにんまりとした笑みを浮かべると、翼をパサパサとさせながら嬉しさを表現した。


「やった! これで金に困らず宿に泊まれるぞ!」


 両腕を天高く振り上げた。

 ドラゴンには悪いけど、おかげで一つ問題が解消されたので、未來は嬉しくて仕方ないのだった。

 そう、未来は変わり者だった。誰がなんと言おうとまともな思考は持っていないのだ。

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