第3話 異世界で翼を手に入れたぞ!

 さてと、ここが異世界だと分かったぞ。

 とは言えこれから何をしようか。

 未来はちょっと考えてしまい、まずは街へ行ってみることにする。


「やっぱり街に行かないとダメかなー」


 とは言えここは草原だ。

 見た所モンスター? らしきものは居ない。

 さらにはまともな道もない。

 歩きたくないなと、未来は思った。


「闇雲に歩いても、何にも無かったら怖いよね」


 未来は如何したものかと悩み出す。

 せめて何か移動手段があればいいのにと、現代っ子らしく楽を模索した。


「さっきのドラゴンみたいに、空飛べたら楽なのになー。なんてね」


 未来はあり得ないことを想像した。

 でもここがファンタジーな異世界なら、何かスキル的なものがあっても良い。

 未来は「そう上手くはいかないかな」と呟いた。


「あはは、翼でもあればな」


 ドクン!


「うっ……」


 未来がそう呟くと、急に心臓の鼓動が高鳴った。

 体が熱を帯び、不思議な感覚に苛まれる。

 一体何が起きたのか。未来は自分の身に起きたことをチェックすると、とりあえず何も起きていない。


「何だったんだろ今の。ん?」


 ふと視線を地面に向けた。大きな影が見えた。

 未来の体を中心にして、左右に大きな影が伸びる。

 首を捻り、「ん?」と声を上げる。

 チラリと視線を向けると、未来はまたしても目を見開いた。


「つ、翼? つ、翼がある……はっ!? お、重くはないけど、うへっ、バランスが取り辛い……」


 急に肩甲骨辺りから翼が生えていた。

 しかもただの翼じゃない。真っ白だから天使の羽根かと思ったけど、何だか鋭い。

 ツンツン突いてみると、弾力はあって良いクッションみたいに柔らかいのに、未来が念じると、鋼鉄のように硬く鋭い剣になる。


「面白い。もしかしてコレが異世界に来た私に与えられたスキル。カッコいいじゃんか」


 クルリと回転してみる。

 一応分かったのは肩甲骨辺りから出ているのであって、肩甲骨から出ているわけではない。

 何故か空中、何処でもない所から突然翼が顕現している状態で、これぞファンタジーだ。


「最高にキュート&クール! 後は飛べれば最高なんだけど、まさか飛べない訳ないよね?」


 未来は不穏なことを思ったが、とりあえず翼をはためかせる。

 バサバサと巨大な翼で風を起こすと、フワリと体が浮いてくれた。


「うわぁ、凄い! 本当に浮いてるよ。このままあの空に向かって……飛んでけ!」


 未来は強くイメージして念じてみた。

 すると体が勢いよく青空へと舞い上がり、吹き飛ばされた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 上手く飛べない。頭がクラクラしてくる。

 そんなの当たり前で、まさかこんな目に遭うなんて想像もしていなかった。

 目を回して落下しそうになったが、不意に翼を上下に広げ、風を掴む。


「そうだ。翼をバサバサするんじゃなくて、広げて風を捕まえて……こうだ!」


 未来は落下していたが、無事に風を掴むコツを自分の手で覚えた。

 とにかく風圧と熱に耐えるべく、翼の形を調節しながら、もう一度青空へと羽ばたく。

 今度は間違えないようにしながら、上手く風をフワリと包み込むと、未来は安定して空を泳いだ。


「……と、飛べてる? 今度は飛べてるよね?」


 下を見てみると、緑の草原が遠くに見えた。

 体は重力に抗って宙を舞い、巨大な翼が雄大に空を切る。


「凄い、凄い凄い凄い凄い! 私、飛行機でもドローンでもなく、自分だけで飛んでるんだ。気持ち良いー!」


 未来は楽しそうに空を舞い続ける。

 段々慣れても来たのでクルクル回転する。


「大体飛び慣れたぞ。後はどのくらいスピードが出るかとか、どっちの方角に行ったら良いのかだけど……まあ、大体暖かい方に街があるでしょ!」


 突拍子もない言いがかり。あまりにも地理が分かっていなかった。

 だけど未来はもう止まらない。

 思い立ったが吉日とでも言いたいのか、ビュンビュン翼をはためかせ、空を掻っ切る。


「ギュィーン!」


 自分の口で効果音を付けた。セルフ効果音だ。

 普段なら恥ずかしいからこんなにハッチャケられないけど、今は誰も居ないから喋っても良かった。


「後は街まで付いて、っと。私お金持ってないや。如何しよ」


 街に行っても金が無いなら話にならない。

 世の中とは世知辛ないものだと、未来は鼻を押さえて痛感した。


「まあ、何とかなるでしょ」


 しかしここは考えないことにする。

 せっかくの異世界を謳歌するべく、楽観的になろうとした。

 その時だった。未来は違和感を覚える。


「ん?」


 急に背中に威圧感を覚える。

 まるで鋭い槍の切っ先を突きつけられた気分に陥り、未來は恐る恐る振り返った。

 するとそこに居たのは、同じく空を支配する存在。ただし人間系ではなく、モンスターだった。


「ドラァァァァァァァァァァァァァァァン!」


 ドラゴンがけたたましく吠えた。

 威嚇された未来はヤバいと思い逃げ出した。

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