第5話 魔法の鞄を手に入れました

 とりあえず地上に落ちてみた。

 あまりにも悲惨な状況が生まれていた。


「これ酷い。うえっ」


 嗚咽を漏らしてしまう始末だ。

 とんでもない異臭が綺麗な草原に立ち込め、何とも言えないドラゴンだったものの亡骸が、互いに散り散りになっている。


「こんな光景、絶対見せられない。グロ画像過ぎだって」


 自分でこの状況を生み出してしまったにもかかわらず、まるで他人事だった。

 とは言え、未来もこのままにはしておけない。

 綺麗な緑の絨毯が広がる草原に、死臭を漂わせていたら、きっと国の間で問題になる。

 そうなったら、自分が犯人だってバレてしまう。

 そう思った未来は必至に考えて考えまくった。


「でも私は翼しかないから……如何しよ?」


 腕を組みをして考えた未来。

 とは言え何も思い浮かぶことはないので、燃やすしかないかと考える。

 だけど幾らこの状態になっているとはいえ、ドラゴンはドラゴン。

 鱗とか爪とか、使えそうな素材は山ほどあったので、このまま捨ててしまうのはもったいなさ過ぎる。


「この手の素材って、武器とか防具に使われるけど、流石に持ってはいけないし、如何しよ? ……ん」


 ふと下を見てみる。ドラゴンだったものの真ん中に何か落ちている。

 茶色い鞄? もしかして誰かの……と考えるだけで、未来は嗚咽を漏らして口を押さえた。


「うえっ、ああ、ダメだ。考えないようにしよ」


 未来は首をブンブン振って、考えないようにする。

 意識をすっ飛ばすと、落ちていた茶色の鞄を拾い上げる。

 肩掛けの部分に指を引っ掻け、一気に引き寄せると、肉片がこびりついていて、正直汚い。


「ううっ、何で鞄が……」


 考えなくても分かることだ。

 きっとこのドラゴンに食べられた人。

 憐れんではいけない。だって自分には関係のない人だから。

 そうでも思わないと、苦しくて飲み込まれそうになるのが、目に見えていた。


「死人なんかに引っ張られてたまるか!」


 未来は鞄のボタンを解いた。

 中身を見てみると、未来は驚愕する。

 何と何も入っていない。何処へも続かない虚空が広がり、小宇宙を作りだしている。


「何で何も無いの? いや、何も入ってないのは良いよ。だけど、如何してこんなにそこが無いの?」


 不気味すぎてドン引きする。

 しかしふと考えた。ここがファンタジー世界なら、きっと激レアアイテムか何かで、この鞄の正体が見える。


「もしかして❘魔法のマジックバッグ?」


 腕を突っ込んでみた。

 すると腕がニュルッと底の無い鞄の中へと吸い込まれていき、何かを掴んで引き上げる。


「よいしょっと……飴?」


 鞄の中から出てきたのは小さな飴玉だった。

 瞬きをして状況が余計に分からなくなる。

 もっと凄いものかと思ったのに、出てきたのが単なる飴玉一個で、それを仕舞っていたのが、誰が持ち主かは分からない魔法の鞄。

 このギャップには正直納得がいかず、未来は困惑してしまった。


「うーん、でもこれならこのドラゴンの残骸も仕舞えるかな?」


 何だか申し訳ない気持ちになるが、これも戦利品の一つとしてありがたく使わせてもらう。

 亡くなった方には悪いけど、遺品として大事に使うのなら、きっと許してくれるはずだと、未来は信じた。


「ごめんなさい、使わせてもらいます」


 未来はドラゴンの残骸を丁重に扱いながら、魔法の鞄の中に仕舞っていく。

 とりあえず詰め込んでいくと、草原に立ち込める死臭は消えない。

 けれどスッキリしていて、とりあえず後に引かなくなる。


「良し。これで証拠隠滅完了」


 未来は満足すると、もう一度空を飛ぼうとした。

 ここに居たら、何かの間違いで通りがかった人達に、変な目を向けられるかもしれない。

 それを恐れる。異世界人とのファーストコンタクトは非常に大事だった。


「せーのっ!」


 空に飛んで逃げようとする。

 翼を展開し、はためかせた未来だったが、空へと舞い上がるのを止めるしかなくなる。

 ガラガラガラガラと、車輪が回る音が聞こえて来たからだ。


「誰か来た?」


 翼を畳んだ。挙動不審な態度を取る未来は、ピタリと背後でガラガラ音が停まったのだ。


 ガサガサガサガサ!


 草原の上を誰か歩いて来る。

 未来はゾワゾワしてしまい、背中から全身が凍った。


 誰か来るよと未来は怖くなる。

 もしかして怒られる? 死線を潜って来たのに?

 まだ怒られてもいないし、会ったこともない人からの殺気を受け止めると、声を掛けられてしまった。


「そこの君、こんな所で何をしているんだ」


 若い男性の声だった。

 未来はゆっくりと踵を返して振り返ってみる。

 そこに居たのは予想通り若い男性。しかしファンタジーらしい格好をしていた。


「鎧? しかも長い剣……ロングソードかな?」


 何故か暢気に構えてしまった。

 すると鎧を着た男性は未来を睨みつける。

 剣の柄に指を掛けると、殺気をズバリと飛ばしてきた。


「何を言っているんだい。それより、さっきこの辺りでドラゴンが飛んでいたはずだけど、君知らないかな?」

「あっ、し、知らないです」

「その口調、嘘を付いているね」

「まあ、ですよねー」


 未来は明らかに嘘を付いている仕草をしていた。

 そのことを指摘されて、殺されると未来は本気で思ってしまい、全身が硬直して動けなくなっていた。

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