第6話 商人の息子と知り合いになりました

 ガラガラガラガラ——


 馬車の車輪が回り出す。

 馬が引くのは荷車。しっかりと屋根が付いていて、中に乗り込めるようになっていた。

 未来は別に縛られたり尋問されるわけでもなく荷車に乗せられ、対して目の前には先程殺気を飛ばした鎧を着た男性が座っている。しかしながら、今は殺気がなく、とても柔和な表情で構えていた。

 と言うのも、これには事情があった。


「本当に申し訳ない。僕としたことが、殺気を飛ばしてしまって」

「い、いえ。でも怖かったです」

「本当に申し訳ないと思っているよ。それにしても、君がドラゴンを倒したと言った時は、つい驚いてしまったね」

「まあそうなりますよね」


 未来は鎧を着た男性に事の顛末てんまつを話した。

 ドラゴンに遭遇したこと、スキルを使ってドラゴンを倒したこと、倒した後の残骸を魔法の鞄の中に仕舞っていることなどなど、意味の分からない羅列だったかもしれないが、鎧を着た男性は、未来の話に信憑性を持ったようで、コクコクと頷き、最後には「なるほどね」と言って納得してくれた。


「自己紹介がまだだってね。僕はブレイク。この先にあるエンポートと言う街に暮らしているんだけど、ドラゴンが近隣で出たという話を聞いて慌ててやって来たんだ。その時、ドラゴン相手に出られるのが僕くらいしかいなくてね」

「そうだったんだ」

「それでドラゴンを追ってやって来ると、突然姿を消してしまい、最後に消えた地点に向かうと君が立っていたわけだ。最初は疑った。だけどその鞄を見て納得したよ」

「この鞄ですか? もしかして、お知り合いが!?」


 最悪の末路を考えてしまった。

 何だか申し訳ない気分になり返却しようとするが、手を前に出されて止められる。


「それは君の勝ち取った戦利品だ。君が貰ってくれていい」

「そんな……」

「それに君の考えているようなことはまだ起きていないよ。それはね、僕の持っていたものなんだ。うっかり食べられてしまってね。君の様な人の手に渡ってくれて良かったと思っているよ」


 何故だか胸がスッとした。

 如何やら想像の内にあった最悪の事態にはなっていないようで安堵する。

 するとブレイクは未来に尋ねた。


「それで君は?」

「私は未来です」

「未来か。この馬車はエンポートと言う、この辺りでは王都を凌げば最大規模の街があるんだけど、そこに向かっているんだ。それで、未来はドラゴンを倒した。と言うことは素材を持っているんじゃないかな?」

「素材ですか?」

「うん。魔石と言う、石の結晶を知らないかな?」


 それを受けて、未来はふと思い出す。

 ありがたく使わせてもらうことにした鞄の中から、紫色をした石ころを取り出す。


「もしかしてコレですか?」

「うん、それだよ! かなり質の良い魔石だね。如何かな、未來。この魔石を僕に打ってくれないかな? もちろん、値は弾ませて貰うよ」


 未来はハッとなった。

 まさかそんなことを言われるとは思わなかったのだ。


「えっと、売るってことですか?」

「そうだね。その魔石を僕に売ってくれないかな? もちろん、他のドラゴンの残骸も全て買い取らせてもらうよ」

「あの、何でそんなことを?」

「僕はね、エンポートにある冒険者ギルドで働いている職員なんだ」

「職員さんが来たんですか!?」


 冒険者ギルドがあるのは、何となくファンタジーらしい。

 それにしても、職員がわざわざ出て来るのはあまりにも斜め上を行っていた。

 未来は頭を押さえつつ、とりあえず飲み込み納得すると、再び話に戻る。


「もちろんただの職員じゃないよ。僕の専門は素材の鑑定。買い取られた後の素材を鑑定し、適宜用途に使い分けることだね。これもそれも、僕が商人の息子だからなんだけど」


 突然の自分語りに困惑した。

 言葉を失って黙って聞いている未来に、再度ブレイズは尋ねる。


「如何かな? ドラゴンの素材はかなり貴重だからね。売ってはもらえないだろうか?」


 ブレイズに頭を下げられてしまった。

 未来は困惑したものの、自分が持っていても仕方ないものだと悟る。

 それもそのはず、ドラゴンの素材ならかなり高値になりそうなうえ、持ってても意味なかった。


「分かりました。売ります」


 未来はサッパリと言い切った。

 するとブレイズはホッと胸を撫で下ろしながら安堵すると、「それでは買い取らせてもらいますね」と言いながら、この場でやり取りをする。

 如何やってあの量の残骸を渡したら良いのか一瞬考えたが、もう一つ鞄が出て来ると、その中へとドラゴンの残骸を放り投げていき、奇妙な光景を前につばを飲み込んで黙ってしまった。


 こんなやり方、見たことない。未来はそう思いつつ、ジッとした冷や汗が流れた。

 とは言えドラゴンの素材もあらかた移し終わったようで、ブレイズは未来に伝える。


「とりあえず品質のチェックは後でやりますが、まずはこちらを」


 そう言って袋を渡してきた。

 受取った未来はずっしりとしていて重たいのに気が付く。

 一体何が入っているのか? 袋の中身を開けると、大量のメダルが入っていた。


「メダル?」


 ゲームセンターの置いてあるメダルゲームのメダルのようなものが大量に入っている。

 しかも色はまばらで、金や銀と様々。更には大きさの異なるものもあり、一瞬首を捻った未来だったけど、すぐにこれが何か察しが付く。


「お金!?」

「はい、今回倒されたドラゴンはファイアドラゴンと言い、各地を飛び回り暴れていた非常に凶暴な種類です。実際、この辺りでは人食いはなかったけど、他の土地では人食いもあったらしいからね」

「マジ?」


 冷汗を蟀谷が伝う。

 笑っていられない内容に頭を悩ませるも、買い取って貰った以上はお金を貰っても悪くはない。

 思いもよらない後味の悪さを覚えつつも、とりあえず資金は大量に手に入ったので、未来は喜んでいいのかな? と、薄ら笑みを浮かべていた。

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