第19話 アクセサリーを貰った(似合わないよなー)

 未来は翼をはためかせ、超高速で王都を後にした。

 いち早く退散したおかげか、不法侵入したけどバレなかった。

 ホッと胸を撫で下ろすと、そのまま行きの四分の三の時間でエンポートまで戻る。人目が付かないように細心の注意を払うと、その足は急ぎで冒険者ギルドへと向かっていた。


「早く届けて帰ろう。それこそ銭湯にでも行って汗を流そっかな」


 この後の予定も軽く立て、冒険者ギルドの扉を潜る。

 案の定、たくさんの人でごった返していた。如何やら午後から本気出す系の冒険者が集まっているようで、未来は気配を殺し人の波を掻い潜る。

キョロキョロと視線を配り、空いている受付カウンターにペリノアが居るのを確認。

真っ直ぐ向かうと、ペリノアは驚いた顔をしていた。珍しく口をあんぐりと開け、「えっ、マジですか!?」と言いたそうにしていた。


「ペリノアさん、終わりましたよ」

「は、早いですね」

「そうですか? でも一時間くらい経ってますよね?」

「いえ、まだ一時間しか経っていないんですよ。本当なら王都は一日かけて行くような場所なんです。それくらい遠いんですよ」

「やっぱり……」


 未来の予想はバチ当てだった。そんな長い距離をサファイア達は移動しようとしていた。

 結局私で良かったんじゃね? と、未来は終わって帰って来ると、呆気なさに苛まれていたが、行きの時は面倒に思っていたものの結局は楽しかったので満足していた。

 終わり良ければ総て良し。今の自分にピッタリなことわざが嵌り、一人にやけ顔を浮かべていた。

 それが気持ち悪かったのか、それとも別の意味で気持ち悪がられたのか、ペリノアは茫然自失だった。


「あのペリノアさん?」

「は、はい!」


 流石にそんな顔をされると未来も辛いので声を掛けて止めて貰う。

 本当に茫然自失していたようで、ペリノアはハッとなった。

 グサッと自然に胸を楔が貫いたので傷付いてしまったが、そんなことはさておきにして魔法の鞄の中から預かった髪留めを提出する。


「後コレ、宝石店の職人さんに渡された物です」

「……えっ?」


 髪留めを提出すると、ペリノアは「何コレ?」と言いたそうな顔を浮かべる。

 如何してそんな顔をされた挙句声を出されるのか、未来には当然分かるはずもない。

 もしかして間違えたのかな? いや、そんなはずない。だって向こうが渡して来たんだから。未来は自問自答した結果、自分は間違ってないと信じた。

 なので何に対してそんな顔をするのか、ここはペリノア本人に尋ねてみるしかない。


「如何したんですか?」

「未来さん、なんですかコレ?」

「何って、宝石が彩られた髪留めですよ。あの職人さん、多分アクセサリー専門の人だと思うんですけど、コレを渡されて追い出されたんです。凄い職人さんなんだろうとは思ったんですけど、まさかこんな精巧な技術を持っている何て……やっぱり専門職の人ってカッコいいですよね」


 未来は自分がこの目で見て感じたことを意味もなく報告した。

 するとペリノアは意外そうな顔をする。

 何か的外れなことでも言ってしまったのかと一瞬焦りそうになる未来だが、ここは自分を貫き通した。


「いや、マジでそうでしたよ? もしかして、コレじゃないってことですか?」


 それはちょっと困るな。もう一回あの場違い空気に溶け込むのは精神的にも堪える。

 未来が戸惑っていると、ペリノアは未来の提出した髪留めを手に取ると口走った。


「未来さん、髪留めは貴方のものですよ」

「はい?」

「この髪留めが今回の報酬になります。是非、お持ち帰りください」

「……はっ!? 何言ってるんですか。髪留めが報酬って、如何してそんなことになるんです?」


 未来は大声になって抗議をしていた。パニックになっているようで、どーどーとペリノアに落ちつけられる。

 もちろん本人は当たり前に思ったことを口走っているだけ。だけどその様子が余りにも大袈裟だったのか、冒険者ギルド内中の視線と注目を集めてしまった。


「少し落ち着いてください。いいですか、今回の報酬は本当に髪留めなんです」

「髪留め……えっ? 如何して私に。しかもこれじゃあ依頼した本人には何の利益も……あっ!」


 サファイアが言っていたお礼の正体は、この髪留めだったんだ。

 未来は全てを理解すると同時に、点と点が繋がって、ありがたく貰っておくことにした。

 これ以上苦言をした表情を浮かべると、サファイア達に悪いからだ。


 それにしても何故髪留めなのだろう。金銭じゃなかったのはお礼っぽいが、宝石店でわざわざ髪留めを頼んだのは意味不明。

 もしかして私のこと、女性だと思ったのかな。男性かも知れないのに。まあ、髪が長いからそう思われても不思議じゃないんだけどさ。未来は自分で自分の容姿にツッコミを入れるが、男女どちらかとは決して口にしなかった。


「まあいいや。髪も長いし、ありがたく使わせてもらおう」


 未来は絶対に高いであろう髪留めを使わせてもらうことにした。

 後ろで長い髪をまとめると、パチンと挟んで固定する。

 髪をこうしてまとめたことはあまりなかったが、かなり良い。汗も首筋に溜まらないので自然と快適になった。


「如何ですか、ペリノアさん。似合ってますか?」

「……女の子みたいですね。カッコいいです」

「カッコいい? やった!」


 カッコいいと褒められたのでちょっと嬉しかった。

 指をパチンと鳴らすと、サファイアさんナイスです。と、未来は讃えた。

 おまけに初の指名依頼もくれたし、無事に達成できたので、未来の評判と実力も上がると思う。

 ファンタジー世界に来てこれほどまでにテンプレをなぞれているのはかなり満足できた。

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