第20話 配達の依頼ばっかりなんだが
あれから三日が経った。
未来はサファイアから間接的に受け取った髪留めを愛用し、髪を短くまとめて冒険者ギルドに向かった。
しっかり休んだので、今日はモンスターを狩りに行こう。
気分では既にモンスター討伐の依頼を受ける予定だったのだが、冒険者ギルドにやって来ると、ペリノアに大慌てで呼ばれてしまった。
「あっ、未来さん!」
何かあったのだろうか? それとも何かしてしまったのか? 未来は首を捻っていた。
それでも呼ばれたのなら行ってみても良い。
未来は「如何したんですか?」と尋ねながら受付にやって来ると、ペリノアはかなり戸惑っている様子で未来にお願いした。
「未来さん、配送依頼をお願いできますか?」
あまりにも突然のことだったので、心の準備も何もしていなかった。
配送依頼? またですか? 未来は不服そうな表情よりも先に何故と言いたそうな表情を浮かべてしまった。
「急に何ですか?」
未来はポリポリと頬を掻いた。
急に何を言い出すのかと思ってしまい、ペリノアに尋ねていた。
するとペリノアはぶっきら棒な未来に返した。
「実はこの間未来さんには王都まで届け物をして貰いましたよね」
「はい、覚えてますよ。初めての指名依頼でしたし、後コレも報酬で貰って」
振り返って髪留めを見せた。
如何やら似合っているのかペリノアは優しく微笑み、「未来さん、凄く良いですよ」と言ってくれた。「凄く良いですよ」がカッコいいのか、可愛いのか、どちらなのかはこの際置いておくとして褒められて嬉しかった。
しかしそれは一旦置いておく。如何して王都まで配達をしたことがペリノアから配達の依頼を頼まれることに繋がるのか、まだ納得ができなかった。
もちろん推測できない訳じゃない。未来はある程度の予想は立てつつも、ペリノアの口から直接言って貰うのを待つ。
「それでですね、あまりに早いなと」
「……そうですね」
未来は無表情になった。
如何やら【翼】が気になるようで、未來はうんざりする。
確かにこのスキルは超便利だけど、それに振り回される身にもなって貰いたい。
この翼は確かに聞く限りだと凄く便利で良いと思うだろうが、扱いが特別難しいので簡単に人を殺せてしまうのだ。なので【翼】を軽弾んで貰っては困ると、未来はムカッとした。
「如何したんですか? 私、何か差し支えることでもしてしまいましたか?」
「大丈夫ですよ。続けてください」
「は、はい……それでですね、アルバート伯爵からお伺いしました。何故未来さんは早いのか。それをお伺いすると、実際に目で見た方が良いとおっしゃっていて……その、疑うわけではありませんが、どのような方法で配達したのか気になり、もう一つ依頼を受けていただきたいと思った次第です」
「なるほど……ってことは私のスキルに付いて知らないってことですか?」
「スキル? もしかすると【テレポート】の様な移動系スキルでしょうか?」
「そうじゃないですけど……めんどくさいことになった」
これなら先に説明しておいて欲しかった。
全て空回りして思ったようにいかない。
未来は自分で願ったことと反対のことにばかりなるので少しうんざりした。
なので軽く、ほんの少しだけ見せて納得してもらう。
「ペリノアさん、手を出してください」
「手をですか? は、はい」
「これが私のスキルです。この白い羽根で私は空を飛ぶんですよ」
ペリノアの手に、白い羽根を一枚置いた。
硬質化されていない柔らかいもので、ペリノアは驚いている。
如何やら冒険者ギルドでもこんなスキルを使う冒険者を見たことがないらしい。
未来だけのアイデンティティのようで、その点は少し嬉しかったが、回りくどく説明する羽目になった。
「コレが未来さんのスキル……飛行系のスキルはかなり貴重ですね」
「そうなんですか?」
「はい。ですがこれで謎が解けました。あの、早速ですが至急この荷物を届けてきてほしいんです。場所はここから南に二十五キロ離れた場所にある小さな村です。お願いできませんか?」
「はっ、はい?」
スキルの正体を明かした途端、全てを納得してくれたのは助かる。おかげでスキルの説明をしなくて済んだのだ。
けれど配達の依頼を任せられるとは思わなかった。
てっきり諦めてくれると思ったのも一瞬、それを覆す勢いで荷物を押し付けてきた。
「ちょっと待ってください。私は別に便利な配達員じゃないんですけど?」
「そう言わないでくださいよ。未来さんのこと、私も当冒険者ギルドも高く評価しているんです」
「評価って……タダ働きですか?」
ムッとした表情を浮かべてしまった。
ペリノアは未来の不満を汲み取ってくれたのか、こっそり耳打ちをしてくれる。
「大丈夫ですよ。当冒険者ギルドは未来さんのことを高く評価しているんです」
「評価……はぁ。そんな実力社会みたいなことを言われると、げんなりします」
「そうですか? 未来さんはかなり優秀ですよ?」
「どうもです。まあいいや、とりあえず運んできますね」
「はい、期待していますよ」
止めて欲しい! 未来は心の中で叫び、舌打ちを打った。
しかし受け取ってしまった以上は運ばないといけない。
まるで運び屋。配送が板につかなければいいと思いつつ、未来は翼をはためかせて空へと舞い上がった。
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