第53話 勇者パーティーに感謝されました
気が付けば時刻は夜も二十時を回っていた。
未来とレイユはいつもに比べ、かなり遅い時間まで冒険者活動をしていた。
それもこれもカフェで長居しすぎてしまったせいだ。
街を出る時間が遅れた挙句、依頼も上手く行かなかった。
根気よく粘ったおかげで何とかなったけど、明らかに今日は調子を崩してしまっていたのか、ここまでで無性に疲れた。早く帰って寝たいと心底思う。
「まさかこんな時間になるなんてね」
「本当そうだね。ここまで飛んで来たけど大変だったよ」
「どうしてこんなに時間が掛かったのよ。はぁ、早くギルドに報告して帰るわよ」
「分かっているよ。おっ、見えてきた!」
夜の冒険者ギルドは昼間に比べて随分と明るかった。
中から漏れる光が外を一段と練らしている。
もの凄く目立つ建物変貌しており、きっと冒険から帰って来た冒険者達がうじゃうじゃ居るのだろう。そそくさと退散することを決め込み、ギルドの扉を開けて潜った。
すると案の定の光景が広がっていて、たくさんの冒険者達が食事を囲んでいた。
「これが夜の冒険者ギルド……すごっ」
「感心している場合じゃないでしょ。ほら、さっさと報告するわよ」
レイユに急かされて未来達は受付カウンターに向かった。
ペリノアがまだ立っていて、如何やら未来達の帰りが遅いのを心配してくれていたらしい。
顔を見せるとホッと胸を撫で下ろしていた。そんなに心配する必要は無いはずなのに、やっぱり嬉しかった。
「お帰りなさい、未来さんレイユさん。お待ちしていました」
「ペリノア、ただいま。まさかこんな時間になっちゃうなんて思わなかったよ」
「そうね。採取がこんなに時間掛かるなんて。私達みたいな戦闘専門冒険者には厳しいわ」
正直ここまで時間が掛かるのは予想外だった。
それだけははっきりと伝わってきて、いまさら採取系の依頼は受けたくなくなった。
「それじゃあ提出しますね。えーっと……」
未来は魔法の鞄の中から採取して来た花を取り出そうとした。
すると背後から誰かがやって来る足音が聞こえた。
未来は振り返ることもなくペリノアに採取した花を渡すと、肩をポンと叩かれた。
「おい、《最速の運び屋》」
「その声、確かラーガンだっけ。まだ居たんだね」
「会話をする時は話す相手の顔を見ろ」
「ちょっと待って。まだ報告が済んでないから」
未来はどんな時でも自分を中心に考えていた。
だからラーガンに声を掛けられても一切振り返ることなく、ペリノアに採取した鼻を提出し依頼を完了すると報酬を貰った。
報酬の入った袋からレイユの分を等分にした。
「はいレイユ。今回の報酬」
「ちょっと多いわね。どうして?」
「当分したらこうなったんだよ。端数は貰ってくれて構わないから」
「ふん。まあいいわ、ありがとう」
「どういたしまして」
「おい!」
未来とレイユが和やかな会話をしていると、ラーガンは痺れを切らして怒鳴った。
面倒だと思いつつ、これ以上怒鳴られて注目を集めるのはもっと面倒だ。
嫌々振り返るとラーガンが居た。まさかの腕を組んでいる。自分から話しかけて来ておいて、その態度は何だと思ったがすぐに折れると、ラーガンをジト目で睨んだ。
「なに? 私に何か用?」
「当たり前だ。用があったから声を掛けたまでだ」
「そう? それじゃあ早くしてほしいな。私達、そろそろ宿に戻らないといけないから」
今頃リネアさんが宿で待ってくれてる。急いで帰らないと料理が冷めちゃうよ。
未来とレイユは互いにお腹を空かせていて、早くリネアの料理が食べたくてウズウズしていた。だからこんなところで時間を取られるのは癪なのだ。用があるなら早くしてほしいと訴えると、ラーガンの後ろから男女が出て来る。アーリーとタルトゥだ。
「げっ!」
「人の顔を見てその反応はなにかな?」
アーリーは元の調子を取り戻していた。
タルトゥに支えられヨロヨロしている。
所々の傷が魔法でも治り切っていないのか、包帯を巻かれていた。
あまりに痛々しい姿に未来は即座に謝った。
「ごめんなさい」
「待って欲しい。どうして謝るのかな?」
「だって、こんなことになったのは私のせいでしょ? 結局勇者の剣も傲慢さも全部まとめて砕いちゃったから。これじゃあ強い勇者は名乗れないよね」
正直勇者の剣を失った時点で、如何に自称勇者だろうが何だろうが、勇者を名乗るのは些か無理が出る。
アーリーもそのことを真っ先に言われ、少し雲行きが怪しくなった。
けれどすぐに吹っ切れた顔をしてにこやかな笑みを浮かべる。
「確かに僕は勇者であることにうぬぼれて傲慢になっていたかもしれない。その心を粉々に砕いてくれたのは君だ。まさか勇者の剣共々とは思わなかったけどね」
「あはは、まさかあんな簡単に砕けるとは思わなくて」
「それだけ君の力が勇者である僕よりも優れていたということだよ。認めたくないが、僕よりもよっぽど勇者の素質は君の方があると思うよ、未来」
「勇者ね。興味ないなー。期待以上に重いものは無いでしょ。あっ、期待と気体を掛けたんだよ?」
余計な補足を入れるくらいにはマシになっていた。
とは言えまだ許されたとは思えない。チラッとアーリーの顔色を窺うと、驚くことに起ってはいなかった。むしろ逆で笑みを浮かべている。
沸々と沸き上がる闘志が込み上げていて、負ける気は無いと無の中で唱えていた。
「次は負けないと言いたそうな顔だね」
「もちろんだよ。確かに今回は僕のこと痛めつけてくれた」
「フルボッコだったね」
「それを言われると傷付くな。でもそれは僕が勇者であることを意味している。勇者は絶対に負けない。僕はいつか、君に勝ってみせるよ」
「あはは、それは面白いね。でも無理だけどさ。私、負けないから」
「奢っているね。でも君が言うと本当に聴こえる。まさしく勇者だよ」
アーリーは未だに勇者に固執していた。それだけ勇者であることを誇りに思っているらしい。
だからこそ、未来はまだアーリーのことを勇者とは呼ばない。
自称勇者であるうちはまだまだ私には敵わないからだ。
「本当の今回はありがとう。おかげで自分を見つめ直す機会を得たよ」
「おっ! その心は……」
「なんだいそれ? まあいいや。それじゃあ僕達は行くよ」
「えっ? まだ夜だよ。これから深くなるのに」
「勇者は負けた後が大事なんだよ。より強くなるために精神を統一しないと。まずは野営で心を研ぎ澄ますんだ」
かなり野生でアクティブな方法だった。
けれどわざわざ止めたりはしない。冒険者ギルドを後にするアーリー達の後ろ姿を静かに見送る未来とレイユ。いつか本物の勇者になるかもしれない。そう期待せざるを得なくなった。
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