第52話 初めてのカフェでお茶にする

 冒険者ギルドの外は中の喧騒と違って澄んだ空気で満ちていた。

 全身で深呼吸をすると、「ふぅ」と胸の中に詰まっていたものが取れてくれた。

 それにしても勇者パーティー? を一蹴してしまうなんて、私も大概かな? と、未来は思った。けれど一人勝手に出てしまったのはレイユに悪かったかもと、反省してしまった。


「レイユ、大丈夫かな? まあ何とかなると思うけど」


 レイユなら大丈夫だろうと、勝手に高を括っていた。

 それにしては遅いと思いつつ、冒険者ギルドの外で待っていた。

 するとレイユが何食わぬ顔で冒険者ギルドから出て来た。

 怒ってはいない、よね? と思いながら、レイユに声を掛けた。


「レイユお疲れ様。どうだった?」

「どうだったって……私は貴方の後処理係じゃないわよ」

「ごめんって。で、どうだったの?」


 レイユの文句も完全に無視した。

 未来は自分が冒険者外に出た後どうなったのか、知りたすぎて尋ねた。

 アーリーをあのまま放置してしまったから、きっと嫌われているんだろうなと思いつつも、まあ私は悪くないけどねと白を切る。

 

「はぁ。ちょっと休みたいわ」


 レイユがぐったりしていた。面倒くさそうに肩を落としている。

 その姿を見たレイユは未来は「それじゃ……」と辺りを見回して、目ぼしい店を探す。

 するとちょっとカフェが目に留まった。テラスまであるからオシャレ感が強い。


「あのカフェで休もうよ」

「へぇー、未来にしてはまともな提案ね。いいわよ」

「よーし、それじゃあ行ってみよう」

「やけにテンションが高いわね。ウザいわ」


 未来はレイユにウザがられても変わらなかった。

 レイユを連れてこの世界初めてのカフェでお茶をすることにした。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりましたらお呼びください」


 ウエイトレスがやって来た。

 早速メニューを受け取ると、未来はげんなりした。

 文字が読めない。四割じゃなくて、六割も読めない。これ、マズくない?

 未だに文字がはっきり読めないことを恨み、受け取ったメニューを睨む。

 あまりに怖い顔をしていたせいか、レイユに「恐いわよ」と言われてしまう始末だ。


「えっと、えっと、あっコレは読める」

「もう決まったの? それじゃあ注文するわよ」

「私も決まったから大丈夫だよ」


 レイユはウエイトレスを呼んだ。お互い飲み物を注文すると、注文したメニューが届くのを待った。

 カフェは空いていたから十分もすれば来るはずだ。

 それまでに事態が如何収拾されたかレイユに改めて尋ねた。


「それでレイユ。あの後どうなったの?」

「なにも無かったわよ。それが貴方の知りたい答えでしょ?」


 レイユは面倒そうに肘を付いて話してくれた。

 だけど何も分からない。何も無かったということは何かあったわけだ。

 もしかしたら評価ダダ下がり? かと思われたのも一瞬、レイユは溜息を吐いてから話し出す。


「そうね。確かになにかはあったわ。とは言え、貴方が心配するようなことじゃなかったわよ」

「そうなんだ。それじゃあいいや」

「なっ!? やっぱり自分のことしか危惧していなかったのね」

「それが一番だよ。誰だって我が身可愛いでしょ?」

「言いたいことは解るわよ。でもね、流石に興味無さ過ぎじゃないの?」

「私はそう言う人間なの。それに私のことを揶揄やゆしないってことは、タルトゥがアーリーの怪我を全快させて、結果オーライの万々歳ってことでしょ? あー、良かった良かった」


 両手で自分の顔を包み、肘を付いてにこやかな笑顔を浮かべる。

 あまりの調子の良さにレイユはポカンとしていた。

 そんなに変だろうか? 自分で自問自答しても答えが見えてこないのでスルーすると、改めて何かを諦めたように「そうね」と口走った。


「でも一つ気掛かりはあったわよ」

「気掛かり?」


 レイユが遠い空を見上げてポツリと呟く。

 気掛かりと言うフレーズが何処かくさびのように聴こえてしまい、未来は聡明な頭脳を使って考える。とは言え情報が少なすぎて見えてこないし、見ようともしていなかった。


「アーリーは勇者みたいよ。本当のことは分からないけど」

「勇者ね。正直興味無いなー」

「私もよ。それでタルトゥって言ったかしら、あの子がね言ってたのよ。アーリーはちょっとした怪我ならすぐに治る体質らしいわ。骨だって折れても少ししたら繋がっちゃうの。でもね、貴方の攻撃を受けたら自己回復ができなくなっているみたい。だから慌てていたわ」

「ん? それってつまり、私の意図に反したら治癒が毒になるってこと? 面白いね」

「不謹慎ね。まあ最終的には治ったから良いけど」


 レイユも興味を最初から抱いていなかったらしい。

 だから話をすぐに切ると、ボーッと空を見ていた。

 とは言え気になるのは気になる。まさか自称勇者の自己回復まで使え無くしてしまうなんて、あまりに強すぎるはずだ。

 未来は自分の【翼】がどれだけ凄いのか、もうここまで来たら滅茶苦茶であって欲しいとまで思ってしまう始末だ。


「お待たせいたしました。こちら、アイスコーヒーとダージリンティーになります」


 そうこうしていると、ウエイトレスが注文した品をトレイに置いて持ってくれた。

未来はアイスコーヒーをレイユはダージリンティーを頼んでいた。

正直コレとカフェオレとストレート何とかしか読めなかったから仕方ないのだが、コーヒーは結構好きな未来にとっては問題外だった。


「ごゆっくりおくつろぎください」


 ウエイトレスは去っていく。

 素早く仕事に戻ると姿は見えなくなった。


「コーヒーを飲むのね」

「もちろん。結構好きだよ」

「意外ね。もうちょっと子供っぽいかと思っていなのに」

「あはは、無鉄砲だから?」


 レイユとの会話に少しだけ華が咲いた。

 悠長に時間を過ごし、依頼を受けたことも一時忘れる。

 まったりとした休憩を挟み、未来とレイユはくつろいでいた。 

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