第34話 久々の配送依頼を受けたのですが
今日も冒険者ギルドは賑わっていた。
未来とレイユはここの所二日に一回は冒険者ギルドに顔を出し、依頼を受けていた。
ありがたいことにほとんどが指名依頼。
最近ではモンスター討伐の指名依頼も増え始め、ようやくブラックライフから解放され楽しくなってきた。このまま稼げばいつかはスローライフが送れるようになるかもと、未来は腹の中で期待感を滲ませている次第だ。
「ふふっ」
「気持ち悪い笑い止めてくれるかしら? 私まで同類に見られるでしょ」
相変わらずレイユは厳しいままだった。
けれどあれ以来、何やかんやありつつもいい感じのコンビになっていた。
このままもっと人数が増えたらガチでパーティーらしくなって面白いかも。
未来は夢を膨らませていると、またしてもペリノアに手招きされた。如何やら今日も指名のようだ。
「おはようございます、未来さんレイユさん」
「おはようペリノア。また依頼?」
「はい。今回は配送をお願いしたいのですが……よろしいでしょうか?」
ペリノアはオドオドした様子で尋ねた。あの時の本音爆撃が効いているらしい。
未来の顔色を窺う仕草を見せる中、本人は快く引き受けた。
「分かりました。今日は行きますよ」
「本当ですか! ありがとうございます。それでは至急こちらの荷物をこちらの住所に届けて来てほしいんです。あっ、地図で言うとここですね」
ペリノアに教えて貰ったのはここから三十キロほど離れた場所にある小さな町だった。
名前は分からないが、何やら周りには木々が生い茂っているらしい。いわゆる森だ。
地図上では緑色で覆われていて、町はポツンとしており森の半分もなかった。
「えっと、ここに届けてきたらいいんですよね」
「はい。そのはずなんですが……」
ペリノアは口を噤んだ。如何やらまだ何かあるらしい。
ふと視線を向けていた。もちろん未来にではなく隣で暇そうに話しを聴いていたレイユだ。
ここでレイユに視線を移すということは何か含みがある。とは言えレイユを必要とする事案の時点で面倒くさくなるのは確定だ。今ならまだ断れるかもしれないが、ペリノアはそれを許してはくれないだろう。実際、荷物の入った小包をいつの間にか指先に押し付けて来ていた。
前みたいに断ったらせっかく築き上げてきた関係が一に戻る。それはそれで修復が怠いので、ここは飲み込んであげることにした。
「分かりました、行ってきますよ。二十分で戻って……」
「そうなると良いのですが……」
「はっ?」
「いえ、なんでもありませんよ。気を付けて……レイユさんも!」
「私も行くの? 仕方ないわね。行ってあげるわよ」
未来とレイユはあまり気乗りしていなかった。
けれどペリノアから感じられる不穏な影に圧力を感じ、お互いに目を合わせるとコクコク首を縦に振った。ここは速やかに依頼を達成して戻ってこよう。
小包を魔法の鞄の中に突っ込むと、早速エンポートを発った。
未来とレイユは空を飛んでいた。
翼を広げて雄大に空を駆ける未来に対し、レイユは全身から電気を放出している。
ビリビリと感電しているのでは? と心配になるのだが、この間と同様で空をプカプカ浮いていた。
「レイユ、如何して飛べるの?」
「飛べるからに決まっているでしょ。分かり切ったこと訊かないで」
「そうじゃなくて飛べる理由だよ」
「魔法に決まっているわ」
「そんなの分かっているよ。どんな魔法を使ったのかって訊いてるの」
「答える必要無いでしょ? そんなことより速く飛ぶ」
「あー、まあいいや。そうだね、行こう行こう! レッツゴー!」
あまりにも会話に弾みが無く、華の一つもなかった。
歪な関係が二人の友好関係になっていたが、それでも冒険者としては真っ当で信頼し合っていた。
そんな二人がやって来たのはエンポートから西に三十キロも行ってない辺りにある小さな町コイル。近くにはそこそこの広さを持つ森があり、ボロボロになった灰色の城壁は苔蒸しているので、かなりの年季と戦争があった時代の名残的な何か。いわば過去の最前線感をヒシヒシと受け取った。
「レイユ、あの城壁って昔の戦争とかの名残かな?」
「違うわよ。アレはただ苔蒸しているだけ。この辺りは湿度が少し高めだから仕方ないわよ」
「あっ、そうなんだ」
とんだ勘違いをしていたらしい。未来は恥ずかしくて何も言えなかった。
それから変な無言が続きコイルにやって来た。
ペリノアから教えて貰った住所に早速向かってみるのだが、如何やらこの辺りにあるらしい。
「地図だとこの変何だけど……まさかアレじゃないよね?」
「いいえ、貴方の言う通り目の前の監視塔よ」
「砦じゃないんだ。期待とちょっと違うなー」
「馬鹿なこと言わないで。ほら、さっさと行くわよ」
レイユは億劫な様子で未来を先導した。
その後ろを続いていくと、指定のあった建物である監視塔に向かって歩いて行った。
あまりにも早すぎる依頼達成にもはや張り合いの一つもなかった。
これはただの業務。ただの作業ゲー。未来はそう思い込むことにして歩を進めた。
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