第17話 王都にやって来たぞ!(不法侵入です)

 目指す王都が見えてきた。

 ここまで大体十五分。空と言うフィールドは何にも気を配る必要もなく、未来は雄大に空を飛んでいた。

 途中、太陽による陽射しの脅威と戦い、全身を汗で濡らしていた。

 シースルー状態になりながらもとにかく飛び続け、人目を全力で避けるようにしてようやく辿り着いたのだ。


「アレが王都ノーム。頭上から見たら滅茶苦茶デカくね?」


 流石は王都と言うべきか。とにかく規模感が違った。

 エンポートも大きな街なのだろうが、その比ではない。

 アレを後三つくらいくっつけた感じで、とにかく人と建物で溢れ返る活気のある街だと、空から見下ろしていても窺えた。

 今からこの街に下りたつのかと思うと少し緊張して、胸の高鳴りが速くなる。

 ドギマギとする気持ちを受け止めて、早速正面から入ろうとした未来だが、ここで足が竦んだ。


「いや、ちょい待って。ここまで歩いて来たとなれば、それはそれで変に人目を惹くのでは?」


 未来はここまで空を飛んでやって来た。

 つまりは乗り物を使っていない。となればここまで如何やって来たのかと不審に思われるかもしれない。

 頭をちゃんと使える未来はふと思い留まった。

 このまま真っ直ぐ正面から堂々と入るのは危険ではないかと、喉の奥を滲む唾液が流れる。


「ってなると何処から……あっ!」


 未来は考えた。頭を使って考えた。

 正面から入りたくないのなら、わざわざ正面から堂々と入る必要は無い。

 どうせ短時間しかこの街には滞在しないんだ。物価も高いだろうし、面倒な手続きもしたくないので、この際未来はバレないと思いそのまま入ることにした。


「最初っからこれで良かったくね?」


 未来は翼を広げ滑空する。

 音も気配も完全に殺し、ゆっくりと王都に近づく。

 もしも防御系の何かが作動すれば後でサファイア達が事情を説明してくれると賭け、人が居ないであろう建物の裏へと消える。


「ありゃ、成功した?」


しかも如何やら防御系の装置は組み込まれていないらしい。

未来は普通ではありえない方法で、一人完全に不法侵入を成功させた。


「さてと、後は時間との勝負だけど……行こう」


 ここからは時間と人目の勝負になる。

 如何してこんな危ない橋を渡る羽目になったのか、

 一応今の所は大丈夫。だけどここから下手に話し掛けられると面倒なので、未来は着陸した路地裏から顔を出し、宝石店に向かうことにする。


「んで、宝石店はどっち……あっ、丁度ここだ」


 何と運よく降りた所が目的の宝石店だった。その証拠に看板にはダイヤモンドカットのイラストがマークとして描かれている。

 如何やら店の真裏に下りたようで、ラッキーじゃん、と指を鳴らして喜んだ。

 これなら最短滞在時間で依頼をこなせる。そう思った未来はニヤついた笑みを殺した。


「すみませーん」


 未来は宝石店の中に入った。

 しかし未来は首を捻る。イメージの中にあった宝石店の姿が無いのだ。


「ここが宝石店? 始めて来たけど、意外と地味系?」


 地味系と言いたくなるのは宝石店に行ったことがないからだ。

 しかしこれが一般的な宝石店なのだろうか? 未来は腕を組んでつい考える。

 まず店内はとても狭かった。入ってすぐ、散歩ぐらい歩くとカウンターが目の前にあり、椅子がセットしてある。

 なんと一対一での商談をメインに据えているようで、もの凄く緊張感が高まる。

 それを演出するように、店内は素朴な黒っぽい板材で壁を覆ってあり、天井から吊るされた灯りもかなり仄かで、煌びやかとは無縁だった。

 ショーケースは一切なく、宝石もアンティークも何も並べられていないので、ここが本当に宝石店なのか一瞬忘れてしまいそうになった。

 無論未来も頭を抱え、あれ、もしかして間違えたのかな? と店内に入って早々焦って冷汗ダクダクだった。


「この手の店って、呼び鈴とかないのかな? えーっと、すみませーん!」


 未来は叫んだ。絶対にこの手の店でしちゃいけないのは分かっていた。だけど店内には誰も居ないので、仕方なくやってしまった。

 すると店の奥から野太くて低い男性の声が聞こえ出す。

 誰か居て良かったと安堵した未来。しかしかなり気怠そうな言葉だったので、未来は警戒した。


「なんだぁー、こんな時に。はいはい、今出てやるよ……ん?」

「どうも」

「誰だアンタ。何しにこの店に来た」

「何しにって……私未来って言います。冒険者です。アルバート伯爵より、こちらの品を預かって来ました」


 魔法の鞄の中から宝石の入った袋を取り出した。

 すると男性は怪訝そうな顔をする。表情を顰め、「ん?」と声を絞り出す。

 何故そんな顔をされるのか。未来にはさっぱり伝わらない。

 だけどあまり甲斐甲斐しくは思われていないようで、未来は立場が悪くなった。早く店を出たい。その一心で構えていると、急に男性は「サファイアからか。そう言えば、手紙が入っていたな」と何か納得した様子を見せる。もしかしてコレがこの人の素なのかな? 未来は瞬きをしていた。


「ん? いつまでそこに居るつもりだ」


 如何やら場違いなのは本当らしい。

 納得して貰えたものの、職人気質が強いようで、邪険に扱われてしまった。

 とは言えそれも仕方ない。未来は早めの退散を心掛けたかったので、一言挨拶を交わしてから店を出て行こうとする。


「あっ、それじゃあ宝石はここに置いておきますね。それじゃ、失礼します」


 踵を返して扉を目の前にする。

 ドアノブに指を掛けて店内を後にしようとした未来だが、男性に呼び止められてしまった。


「待ちな、アンタ」

「は、はい?」


 何か粗相をしてしまったのだろうか? もちろん心当たりは大ありだ。

 フランクな口調で今までどんな困難も避けて来られたが、それは相手が寛容だったから。

 この人は少し気難しそうだ。未来はちょっとだけ反省の色を見せたので、自分から先手を打って謝ろうとする。先に謝ってしまえば、後でとやかく言われないし、炒って来たら行って来たでそこが反撃の目になる。

 後天的なことも考え、極力尾を引かないように細心の注意を払った未来は、「なんですか?」尋ねた。果たしてここから如何でるか、男性の言葉の開口に注目する。


「その宝石を持って店の奥に来い」

「えっ? ああ、分かりました」

「いいか、すぐにだ。時間が惜しい」


 もの凄く気難しくて時間に厳格な職人のようだ。

 もしかすると宝石店と言うことから勝手に解釈していたが、宝石商ではなく宝石の加工職人なのではないだろうか。明らかに場違いから百パーセント場違いへとグレードアップした未来は、そそくさと宝石を持って、顎で招かれた店の奥に向かった。

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