第16話 指名依頼を貰って嬉しい
まさかの指名依頼を貰った未来。
受けることにしたのは良いが、何をしたら良いのだろうか?
これがお礼なのだとしたら、相当簡単な依頼か相当腕を見込まれて無理難題を言いつけられるのか。ゴクリと喉を鳴らし、ペリノアに依頼の詳細を尋ねる。
「それでぶっちゃけ何したらいいんですか?」
「はい、こちらの宝石を届けて欲しいそうです」
「宝石を届ける? 何処までですか?」
「ここから七十キロほど離れた場所にある王都ノームですね。如何やらそこにある宝石店に届けて欲しいようですね」
「宝石店ですか? へぇー、そこに行く予定だったんだ」
まさかこうも早く王都に行くことになるとは思わなかった。
それにしても国の名前がアンペラで王都がノーム。まるで理科の実験でも受けているような聞き慣れた単語をもじった様子で面白かった。
表情から笑みを零していた未来だったが、ふと冷静になってみる。
ここから七十キロ? 結構遠くない。未来は真顔になる。
自動車もないこの世界で使える移動手段は限られる。多分馬車で移動しようとしていたので、相当時間も掛かるはずだ。
それを往復、しかも市長が個人的な要件で……街の人達にもの凄く信頼されているのは窺えたが、流石にそう易々と行ける距離間ではない。
そこから未来は推測した。何故自分にこの依頼があてがわれたのか。全てピダッと嵌って苦言を呈する。
「そういうことかー……あー、なるほどなー」
全部お見通しになっていた。
未来の持つスキル【翼】を使って楽ちんにしようという魂胆らしい。
確かに合理的だし、理にも適っていた。実際、陸路で届けるよりも空輸の方が何百倍も早いのだ。
「やってくれるなー、サファイアさん。まあいいんだけどさ、もうちょっと何かあると思うんだよなー」
「あの、何を言っているんですか?」
「こっちの話です。私の不満なので気にしないでください」
ペリノアは気になっていたようだが一蹴する。
この感じだと、如何やらサファイアの口からギルド職員達には未来のスキルが筒抜けになっている。
それもそうだ。わざわざ市長が最近やって来たようなポッと出の低ランク冒険者に指名依頼なんてする方がおかしい。無理にお礼を押し通すためにも、未来の持つ強スキルを説明したのも裏付けられる。
気が付けば他の受付嬢の視線もあった。未来が視線を向けると軽く目を逸らされる。
如何やら興味を抱かれている様子で、この際バラした方がいいのではと思った。
見せるしかないのかなー。未来は不本意だった。
だけどこの視線を跳ね返すにはそれが一番楽で良い。
未来は早速宝石を受け取ると、今すぐ向かうことにした。
「それじゃあペリノアさん、私行ってきますね」
「えっ、もう行かれるのですか?」
「はい。早い方が良いので。……の前に、王都ってどっちですか?」
この世界の地理を全然知らない未来は王都がどっち方面にあるのか全く分からない。
かなり恥ずかしかったがペリノアは優しく教えてくれる。
「王都はここから西に行った先にあります」
「反対方向だ」
「そうですね。馬車だと、ギリギリ一日で辿り着ける距離ですね」
「ま、マジですか」
それじゃあサファイアさん達がやっていたのって、とんでもない苦行行為?
未来は絶句も絶句、もう考えるのも嫌になる。
本当に翼があって良かった。未来は自分のスキルに感謝して、方角も判ったことからようやく向かうことにした。
「さてと、この辺りで良いかな?」
未来は街の外に出ていた。当然だ、街中で飛んだりなんてしたら注目の的になる。
後々のことも考えて安全圏から飛び立つ未来。
空へと勢い良く舞い上がり、太陽の向きで方角を確認すると、早速飛び立つ。
「それにしても王都かー。いつか行ってみたいとは思ってたけど、ぶっちゃけ早くね?」
初期スタートが王都ならまだ許せる。
だけど異世界に来てそんなに日も経っていない現状で早速王都に行くことになるとは思わなかった。
しかもこの世界の移動手段だとかなり距離もある。翼が無かったら念入りな準備をして行く羽目になっていた。
「まあ、それでも行きたかったら行くんだけどねー。さてと、七十キロとなるとちょっと飛ばせば二十分もあれば着くかな?」
未来は早く行って早く帰ることにした。
宝石何て高価なもの、そんなに長い間持ち歩きたくもない。しかもこれが他人のものとなると尚更嫌だ。
そんな人間の心理が働いたのか、自然とスピードが増していく。段々肌に触れる熱も増え、翼だけでは抑えきれなくなったのか体がやや熱い。発汗が良すぎるのか、汗も出てきた。
「うえっ、この状態で人に会うのは流石にキツいでしょ」
魔法の鞄の中からタオルを取り出した。
もともと汗掻きではないのだが、未来はコレを見て思った。
長距離移動はできればしたくないかも。
「それにして何で暑い……ああ」
振り返ろうとした未来は思い留まる。チラッと視線を後ろに向けただけで何故か分かった。そこには太陽が爛々と熱を放射していた。
太陽が傾く方角もあり、後頭部も熱くて嫌になる。かと言って高度を落とせば誰かに見つかって噂になる。それはそれで面倒なので、仕方なく汗を我慢しながらシースルーになる肌と共に王都を目の前にするのだった。
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