第12話 盗賊を退治することにした

 翼を広げ、未来は空を飛んでいた。

 森の中なので誰かに見られることもなく、優雅に翼をはためかせると、魔法の鞄の中に仕舞った薬草を確認して早速エンポートへと帰る。

 その間、この前の様にドラゴンに襲われることはなかった。

 安心して空を飛んでいると、風に乗って声が聞こえてきた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 大絶叫が聞こえてきた。

 未来は目を丸くして、翼を起用に使った。

 空中で停滞すると、キョロキョロと視線を配りながら、今聞こえた声は何だったのかと考えようとした。しかし考えるまでもなかった。

 体が勝手に動き出すと、翼を広げて空を切った。




 未来は空を飛んでいた。

 翼をはためかせ、高く速く飛び、時々上昇気流を掴みながら滑空を繰り返す。

 次第にコツを掴みながら、声のした方角に向かっていた。


「多分この変で聞こえたはずなんだけど」


 一旦空中で停止する。

 キョロキョロと視線を配れば、如何やらここはエンポートから少し行った所。距離にしてみれば三十キロ付近だった。

 眼下には道が続いていて、なだらかな一本道が蛇の様に広がる。

 そんな中、ふと目を凝らしてみると、馬車が停まっていた。

 あれ、あの馬車って……と急接近してみると、エンポートを一緒に出た馬車だった。

 何でこんな所に停まっているんだろ。何かトラブった? など、車がパンクしたレベルで考えたいたが、如何やらそう呑気に構っていられない。

 小さな塊があり、それが人でかつ縛られているのを見ると、ヤバさが否応なく伝わって来る。


「ヤバっ!?」


 しかもその前には男性が複数人居た。

 地面にうつ伏せで倒れている鎧姿の騎士も居る。

 最悪の状況だ、そう持った未来は一気に急降下した。とりあえず何とかしないといけない。そんな気がして、体が震えた。


「ひっひっ、上手くいったな」

「ああ。奇襲もばっちりだ。しかも乗っていたのは使えもしない騎士が一人と、後は男と女だけだったな。あー、楽でいいわ」

「しかもこの女、まだガキだけどよ、結構良い顔してんじゃねえか。後で俺達で遊んでやるか?」

「お前がやりたいだけだろ。それよりコイツ等は貴族だ。金目のものならそりゃたくさん持ってんだろ」


 男性たちの群れは如何やら盗賊らしい。

 見事に奇襲が決まり、馬車を足止めして中に乗っていた騎士を痛めつけた。

 その上で金品をせしめとるために、乗っていた男性と少女を縄で縛り上げ、品定めするみたいに上から目線で吟味している。

 酷くいやらしく、収賄に眩んでいた。


「こんなことをして何になる」

「あん?」

「私のことは良い。せめて娘だけでも助けてくれないか! 宝石ならいくらでも提供しよう。だから頼む。せめて娘だけでも」


 男性は命乞いをしていた。

 隣で縛られている少女は震えていて、目元に涙を浮かべていた。

 その様子を見る限り、パニック障害に発展しそうで、男性は少女の父親なのか、必死に命乞いをしている。


 しかし盗賊達は命乞いを嗤って一蹴した。

 ゲラゲラと高笑いを浮かべながら、「馬鹿かよ!」と言って罵る。

 命乞いをしたところで生きて返すわけが無い。その意思がはっきりと伝わってしまい、もうダメだと覚悟した。その時だった。

 盗賊の手が少女に伸びる。


「そんなに大事な娘だったらな。もっとちゃんと囲ってないとダメだろ。それをしなかったお前に、コイツが如何なるか思い知らせてやるよ!」

「や、やめて! 触らないで! パパ!」

「や、やめてくれ!」

「止めるわけねえんだよ、名ぁ! ぐはっ!」


 盗賊の男性は強硬手段に出ようとしていた。

 卑猥な手が伸びる中、急に男性の手から少女は滑り落ちた。

 何が起きたのか、盗賊本人にもその仲間達にも一瞬伝わらない。しかし、男性は気が付くと地面にうつ伏せのまま倒れ込んでおり、骨が砕けて気絶していた。

 あまりの痛みからか、自分が倒されたことにも気が付かず、地面にめり込んでいたのだ。


「あ、あれ? ヤバっ!?」


 未来は自分が何をしたのか、ちょっと思ったやり方と違っていたのでビックリした。

 本当は翼を使って頭を叩く予定だった。気絶すればいいかなーと、軽い気持ちだった。

 しかし想いが強すぎたせいか、翼が勝手に重たくなり、重量感を増してしまったのだ。

 ましてや急降下中だった。そのせいもあり、盗賊の一人を踏み潰す形で乗ってしまい、ボキッと嫌な音が腰の辺りから聞こえてきたのだ。

 それでハッと気が付いた未来だったがもう遅い。盗賊の男性は気絶してしまい、意識を飛ばしていた。


「ご、ごめんなさーい」


 慌てて未来は避けた。

 しかし男性はピクリとも動くことはなく、脈だけが動いていた。

 とりあえず死んでいないこと、日常生活でそこまで支障が出る場所が怪我していないのことを確認した未来は、ホッと胸を撫で下ろすと、状況を確認する。

 もちろん翼が展開したままで、いつでも臨戦態勢に入れるようにしていた。


「えーっと、とりあえずこっちの味方をした方が良さそうかな?」


 この状況的に盗賊を退治した方が良さそうだ。

 未来は翼を広げ威圧すると、背後から声を掛けられた。


「き、君は!」

「私ですか? ただの通りすがりですよ」


 一度は言ってみたい、正義の味方です、みたいなやっていることは言わない。

 だけどやっていることは正義の味方。だと思いたい。

 明らかにヤバそうな盗賊相手に一切怯む様子は見せず、むしろ勝ち気になって飄々とした態度を取っていた。

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