第11話 薬草を採りに行く

 武器を調達した未来は冒険者ギルドで依頼を引き受けた。

 今回は薬草の採取。これも定番中のど定番だった。

 前回のスライム討伐の際はあまり上手くいったとは言えなかったものの、今回の薬草採取は上手くいって欲しいと心底願っていた。


「薬草かー。全然見たことないなー」


 正直初見だった。

 なので何が薬草なのかあまり分からないのだが、買って来た薬草に関する本を読みながら集めればいい。

 魔法の鞄をポンポン叩いた。音は反響して来ないが、この中に買ったばかりの中古の本が入っている。


「さてと、歩いて二時間。やっと森に着いた」


 ここまで二時間掛かった。

 エンポートから東に向かうのは同じで、この間同様草原に辿り着く。

 しかし今回は草原には立ち寄らず、さらに先を目指す。

 奥の法には木々が生い茂っており、如何やらそこは森のようだ。


 とは言え山の様標高が上がるわけではない。

 草原とほぼ同じ傾斜で、未来はひたすら歩いてようやく辿り着けた。

 もちろん翼を出したらいいのでは? と思われるかもしれないが、それは帰りでも遅くない。

 何せ今日は、同じようにエンポートを出て行く街の人の姿もあったので、変にバレても良いことなかった。


「薬草はどれだろ。えーっと、今回の依頼だと普通の薬草で良いんだよね。えっと、薬草は八ページね」


 魔法の鞄の中から、早速植物図鑑を取り出した。

 目次を開き、薬草について書かれているページを開いてみる。

 パラパラと紙の束を捲り、中古と言うこともあってか少し手垢も付いていたが、薬草のページを見つけて読んでみる。


「えーっと、薬草はかなり広く使われている回復効果のある葉っぱです。広く自生しており、土地の魔力を与えられることにより成長し、養分として与えられた魔力の質やその他天候などの状態によって、効能は大きく変わります。薬草の中には様々な種類があり、上薬草と呼ばれるより貴重かつ回復効果に優れた薬草もあるなど、幅広い成長及び進化を遂げている人々の間では聖水に匹敵するほどの親しみがあります。なるほど、それで特徴は?」


 次のページを開いてみた。

 そこにはデッサン絵が描いてあり、コレが薬草だと物語っていた。

 しかし未来にはさっぱり伝わらない。如何見てもただの葉っぱだと、ページにグッと顔を近付けていた。しかし実際に森に生えている葉っぱと何が違うのかさっぱりだった。


「はぁ? 何が違うの。全然分からないんだけど」


 多分、多くの人達に昔から親しまれているからどんな形なのかすぐに判るんだ。

 それで一番ランクの低い依頼になっていて、初心者冒険者にも広く重宝されている。良い金策源になっているのだ。

 けれど未来にはその常識が通用しない。

 何故なら雑多として数えられている薬草を広く親しみを以って使ったことはないし、そもそもゲームの中の知識でしかない。現代人にとってはその程度のレベルなので、未来は早速躓いてしまった。


「まあいっか。とりあえずソレっぽいものを一杯詰めて帰って、後で怒られながら選別をしよう」


 もう怒られること前提で取り組むことにした。

 なのでそれだけの心持をしていて、気楽に構えている。

 目を凝らしてソレっぽい葉をむしり取る。

 正味コレが薬草かはまるで判らず、未来はひたすらに手だけを動かした。気分はアレだ。学校行事で参加した草むしりだった。


「疲れるなー」


 あれから一時間。とにかく闇雲に葉を採っていた。

 ついつい水分補給も忘れてしまう程で、森と言うこともあってか少し蒸していた。

 ここは標高もそれほど高くないせいもあり涼しい環境になる訳でもなく、逆に熱がこもってしまうのだろう。

 未来は額から流れる汗を服の袖で拭き取りつつ、ふとした気分転換のつもりで翼を広げた。


「これで仰げば涼しくなるんじゃないかな?」


 バサバサと翼をはためかせる。

 すると蒸していた湿気が上昇気流に飲まれて森の外へと追いやられ、段々と体が涼しくなる。

 汗の量も落ち着きを取り戻し、これは良い! と未来はニヤついていた。

 すると少し気を許してしまったせいか、生え揃っていた草達が強風に煽られて散り散りに吹き飛ばされる。


「ヤバっ!」


 焦った未来は翼をはためかせるのを止めた。

 しかしもう手遅れで、痩せ細っていた葉を始めとした植物達が何処かに飛んで行ってしまった。

 気が付けば未来がこの一時間で集めに集めた葉も無くなってしまった。

 苦労が水の泡になってしまい、落胆して肩を落とした。


「ショックです。はぁー、ショックだな」


 流石に心が折れる。

 落胆してしまい、落ち込みパーセントがMAXになってしまうが、ふと顔を上げてみる。

 すると気になる植物が生えていた。如何やら葉のようで、もしかしてと思いむしってみる。

 すると植物図鑑に載っていた薬草のデッサン絵と同じだった。


「もしかしてコレが薬草? ってことはさっきまで私がむしり取っていたのって薬草じゃないただの雑草?」


 本当にこの一時間は何だったのか。

 未来は嬉しいと悲しいが混ざり合ってしまい、不気味なはにかみ笑顔を浮かべていた。

 とりあえず薬草は見つかった。だけどそれに一時間も掛かるなんて。

 きっとぺリノア達も不審に思っていると、二次的なことをついつい考えてしまい、とりあえず薬草を抜いて急いで帰ることにした未来だった。

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