第33話 炎の結晶石・・・なにが凄いのか分からない?

 未来とレイユは早速エンポートに戻った。

 あまりの速さにレイユをいつの間にか追い越してしまっていた。

 先に街に降り立つと、翼を畳んだ。それから二分後にレイユも降りると、真っ先に怒鳴られてしまった。


「ちょっとその翼速すぎるわよ!」

「なんで怒られるの?」

「怒るわよ。私の方が貴方よりも先に行っていたはずなのにいつの間にか抜かされるなんて。屈辱だわ」

「しょうもないなー。私には翼しかないんだから、魔法が使えるレイユの方が発展性はあるでしょ」

「そうだけど……悔しいわ」

「張り合ってくれるのは嬉しいな。でもそんなこと今はポイしてギルドに行くよ。ってここがギルドの真裏だ。ラッキー!」


 適当な広い路地裏を見つけたと思って着地したが、冒険者ギルドの真裏は幸運だった。

 未来は指をパチンと鳴らすと、レイユの手を引いて冒険者ギルドに向かう。

 「ちょっと!」とレイユが可愛く叫ぶ。手がやや温かい。緊張しているのかな? 可愛い。とか未来は思ったものの、口にしたらまた怒られると思ったので、あえて・・・空気を読み、ギュッと指を絡めたのだった。


「はい、到着」

「ちょっと手離してよ」

「あー、ごめんごめん。よっと」

「ふぅ。力強すぎるわ。折れるかと思ったじゃない」

「そんなに力入れて無いんだけどなー。まあいいや。それよりブレイクさんは……」


 キョロキョロ視線を配る。すると未来は急に左側から気配を感じた。

 誰だろうと思い首を捻ると、そこに居たのはブレイクだった。

 殺気などは分からないけれど、冒険者になったせいか気配は多少分かるようになった。

 特にブレイクの様な強い気配には鈍感な未来でも多少は敏感だった。


「やぁ未来、それからレイユ。もう帰って来たんだね」

「ブレイクさん。はい、無事に持ち帰って来ましたよ」


 未来は魔法の鞄の中から小さな木箱を取り出した。

 中は未だにズッシリと重たい。音も一切しない。かなり厳重で割れ物注意だった。

 ゴクリと息を飲みブレイクに手渡す。ようやく破損の危機から解放されると、ホッと胸を撫で下ろした。


「確かに受け取ったよ。ありがとう二人共」

「いえいえ」

「私は特に何もしていないわよ」


 レイユは気にしていた。何もしていないのに報酬を貰っても良いのかと悩んでしまう。

 腕を組み、ブレイクに一切目を合わせようとしない。

 失礼な態度ではあったが、ブレイクは全く気にしない。

 それよりも木箱を確認するため、何やら特殊な呪文を唱えた。聴き取れない程早口で、到底未来には理解不能、発音不可だった。英語かな? いや、違うかも。としか思えないレベルでお手上げだ。


「どれどれ……確かに間違いないね」


 ブレイクは木箱の蓋を開けた。中身を確認するため顔を近付ける。

 コクコクと一人首を縦に振って確認していた。

 如何やら破損などはしていないらしく、改めてホッとした未来だが、ここまで来ると中身が気になる。聴いても教えてくれないだろうが、一応挑戦してみた。


「ブレイクさん、木箱の中身ってなんだったんですか?」

「……気になるのかな?」

「はい、めちゃ気になります」


 未来はダメもとで尋ねた。するとブレイクは何と木箱の中身を見せてくれるらしく手招きをした。

 未来はパッと表情が明るくなる。けれどレイユはそっぽを向いていた。

 そんなレイユの腕を絡めると、無理やり引っ張って木箱の中身を見ようと誘った。


「ちょっとなに? 私は別に……」

「減るものじゃないでしょ。後学のためにも見て置いて損は……はっ?」

「コレって……凄い。本物よね?」

「うん。もちろん本物だよ」


 レイユは驚いていた。目を見開くと、額に皺を作っている。

 その表情をチラ見した未来はやはりはっ? となってしまった。

 それもそのはず、木箱の中に納められていたのは赤い水晶。まるでガラス細工で、何が凄いのか分からなかった。


「如何だい凄いだろ」

「そうね。コレは確かに凄いものだわ。許可証が必要なのも納得よ」

「あのー」

「なに?」

「コレなんですか?」


 未来は空気をぶち壊した。

 一瞬にしてレイユは怪訝そうな表情を浮かべる。今にも無知ねとか言われそうだが、未来は本当に知らなかった。その表情を読み取ったのか、ブレイクは軽く咳払いをする。

 それから耳元で説明してくれた。如何やらこの水晶はかなり貴重なレア物らしい。


「未来、コレは炎の結晶体って言うんだよ」

「炎の結晶体?」

「そうだよ。自然にできる水晶の中に純度の高い炎属性の魔力を内包した状態で保管されている貴重な代物。つまりは生きた炎と言うことだね。しかもこの色合い。分かるかな? 水晶全体に赤とオレンジのグラデーションができているだろ。これは水晶全体に炎属性の魔力が流れている証拠で、ただでさえ貴重な代物をより一層価値を高めているんだ。こんなもの、数百年に一度として採れるか如何か分からないんだ」

「へぇー」

「しかもコレは天然物。人工的に作るにしてもかなりの練度が必要になるが、天然でこのサイズかつ高純度ができることはまず向こう十年ではあり得ないだろうね」

「はぁー」


 要するに凄いものなんだ。まあそれは分かったが、熱く熱弁されても逆に引くだけだ。

 それもそのはずレイユとブレイクは知識として持っているからか話に輪が広がる。

 けれど今知ったばかりの突貫的な知識だと到底太刀打ちできないので、とにかく珍しくて綺麗な水晶としか流石に思えなかった。

 圧倒的アウェイかつ場違いを叩き付けられた未来だが、これで報酬が貰えるのなら安いもの。報酬をさっさと貰って撤収するべく、長々と続く談議を蚊帳の外で聞き流すだけだった。

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