第31話 《龍の運び屋》ってカッコ良すぎない?

 未来とレイユはエンポートの街、入り口近くに設置された小さな広場に向かった。

 如何やらそこは馬駐めと呼ばれる、馬を駐めて置く、いわゆる馬専用の駐車場らしい。

 未来が期待しているのは、竜車を駆る運び屋だ。

 もしかして馬を駆る運び屋なのかな? それならちょっとガッカリだ。

 あー、竜車が良いなー。と期待感盛り盛りな未来が馬駐目にやって来ると、今独特の獣の臭いが広がっていた。


「うおっ!」


 鼻を摘まみそうになった。

 だけど他にも人が居るので悪いと思い表情を顰める程度に留める。

 けれど隣を歩く未来にはバレてしまった。


「なに? 馬に乗ったことないの」

「ないよ! そもそもこんな資金距離で大量の馬に囲まれた経験なんて……うわぁ!」


 すると近くで休んでいた馬に舐められた。

 隣を歩いていた未来も悪いが、唾液と口臭が混ざり合ってついつい頭を抱えてしまう。

 もの凄く失礼だ。だけど未来が本音爆撃人間だということはきっと広く知られている。

 そのおかげか、誰も文句を言うことはなく、そもそも見向きすらされなかった。

 無視されているのかと思ったがそうではなく、みんな忙しいのだろう。


「舐められた」

「動物に懐かれるのね。それがモンスターを惨たらしく殺すなんて……憐れね」

「憐れまないでよ。それより《龍の運び屋》って……ん?」

「アレみたいね」


 ふと視線を前方に向けると、そこには一際目立つ荷車があった。

 屋根付きな上にかなり大きい。しかも立派な造りで丈夫そうだ。

 おまけに龍のマークが側面に描かれている。

 明らかに《龍の運び屋》。これで違ったら文句の一つでも言えるはずだ。


「あのー、すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「この荷車って《龍の運び屋》さんのものですか?」

「はい、そうですけど。もしかして冒険者方々ですか?」

「「はい」」


 未来とレイユは第一印象大事に返事をした。

 そこに居た女性は一重眼をしていて、眼光が鋭い。嘘なんてついたらきっと一発でバレるだろう。それくらいのインパクトを持っていて、何よりも頭からは見たこともない角が生えていた。

 頭から角が生えるなんて、流石は異世界。未来がそう思ってしまうのも無理はなく、The人間以外の人に出会うのは初だった。


「その角、もしかして貴女竜人族?」


 レイユが恐れを知らずに尋ねた。

 未来も気になっていたのでコクコクと頷くと、女性は嫌がる素振りも見せずに答えてくれた。優しい人だ。


「はい。私は竜人の民です。最も私の場合は竜ではなく龍ですがね」

「どっちでもいいわよ」

「どっちでもよくは無いよ。竜と龍は違うでしょ!」

「貴方、うるさいのね」

「いやいや、東と西で感じが違っててもおかしくないよ」


 未来とレイユは論争にならない程度の痴話喧嘩を繰り広げた。

 けれどすぐに鎮火され、女性に向き直る。

 するとクスクスと笑っていた。やや青みが掛かった髪を搔き上げると、「すみません」と答えた。


「お二人共面白いですね。流石はブレイクさんが見込んだ冒険者ですね」

「ブレイクさんを知っているんですか?」

「もちろんですよ。今回の依頼はブレイクさんから直接頂いたものですから」


 そう答えると、なんだか底知れない圧迫感をヒシヒシと感じた。

 只者ではないオーラが内側から込み上げている。

 未来はいわゆる週刊誌のバトル漫画の強者感を体感した。きっとこんな気分だろうとおののいた。


「ってことはよっぽど信頼されているのね」

「そんなことありませんよ。ただ私が許可証を持っているだけです」

「許可証? どんな代物なんです? 私達が持って帰るのに……」

「それは大丈夫ですよ。受取る際に必要なだけですので」


 そんな厳重注意な代物を届けないといけないなんて、かなり責任重大なんだけど。未来は胸が締め付けられた。

 けれど気にしてはいけないなと一蹴し、女性に言葉を掛ける。


「それじゃあ行きましょうか。私は未来です、こっちはレイユ」

「どうも」

「未来さんとレイユさんですね。私は龍燕りゅうえんと申します。それではお二人共荷車に乗ってください」

「分かりました。あの、馬が引くんですか?」

「いいえ、この子が引いてくれますよ」


 そう言うと反対側から長い尻尾が現れた。

 クルリと頭を回すと、ドラゴンの頭だった。


「地竜ね。流石に《龍の運び屋》ね」

「この子はティラと言うんですね。今日もお願いね」

「ディラァ!」


 ティラは龍燕に撫でられて軽く吠えた。

 もはやドラゴンではなく恐竜だったけど、そんなツッコミが通用するわけもないので、未来はレイユと共に黙って竜車に乗り込んだ。

 それから程なくして御者台に龍燕は腰を下ろすと、巧みな手綱捌きと信頼でエンポートの街から出て行く。その間も快適でほとんど振動が無いのに、馬よりも何倍も力強くてパワフルだった。


「凄い。こんなに速いし快適なんだ」

「確かに竜車は速いわね。でもこれだけ揺れが無いのはきっと龍燕の実力ね」

「凄いんだ龍燕って。全然知らなかった」

「本来地竜は頭が良いものよ。だから相手のことをよく観察し、自分が認めない限りは首を縦には振らないの。これは信頼が成せる技ね」

「そうなんだ。あれ?」


 未来はレイユの言葉を聴いて少し疑問を思った。

 首を捻りレイユの顔を見ると、ついつい話し掛けてしまった。


「レイユ、その言い方だとまるで自分を投影しているみたいに聴こえるけど?」

「う、うるさい」

「自分で墓穴掘ったってこと? 珍しいね、そんなミス」

「一々首を突っ込まないでくれるかしら? 迷惑なのだけど」

「いやいや、私はそう言う性格だから。疑問を放置してるのってこう胸が詰まるでしょ?」

「はぁー、こんなこと言うんじゃなかったわ」


 レイユはそれから話しかけても喋ってくれなかった。

 私なにかしちゃったのかな? 謝ろうとは思ったけれど、何も悪気は無かったのでなにを謝るべきか分からずに謝り損ねてしまうのだった。

 その間も竜車に揺られ揺られ、ガラガラガラと車輪が回っていた。

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