第39話 《三現象の爆雷》

 未来とレイユの攻撃は的確にサラマンダーに命中していた。

体のあちこちに穴が空いたのだが、そこから炎を噴射している。

余計に隙が無くなった。困り顔を浮かべた未来とレイユだが、緊張感は絶やさない。

少しでも油断をしたら反撃を喰らって殺されると思った。


「レイユ、如何やって倒すの?」

「はっ、私に訊くの?」

「レイユは倒し方を知っているんでしょ? 出し惜しみしないでやろうよ。そうじゃないとジリ貧だよ?」


 未来はレイユを急かした。サラマンダーのことを知っていたから、何かあると思ったのだ。

 しかしレイユ自身も気が付いていた。けれど倒し方を知っていても、それが出来ないから困っているのだ。

 そこまで考えていなかった未来はレイユに怪訝な顔をさせてしまった。

 だけど気が付くことはなかった。


「そんなの分かっているわよ。だけどね」

「だけど?」

「……仕方ないわね。もう迷っている暇もないわ」


 レイユは何かを諦めた様子だ。

 未来にはレイユの心境などさっぱり分からない。

 とにかく活路が見えたことだけをただ喜ぶと、レイユは唇を噛んだ。


「呑気ね。今から私がしよいとしていることがどれだけ恐ろしいことか分からないの?」

「分からないよ。とりあえず、うわぁ撃ってきた!」


 サラマンダーは未来とレイユの会話を邪魔する。

 溜め込んだ炎の魔力を口から火球として放つと、丁度二人の間を抜けた。

 空の彼方へと消えていくと、遠くの方でボン! と火炎が上がり爆発した。直撃していたら確実に体は吹き飛んでいたはずだ。全身が凍り付き委縮する未来。

 けれどそんなことは露知らず、サラマンダーは目障りに思い次々と火球をぶっ放した。


「うわぁ! やっぱり飛んできた!」

「チッ。仕方ないわね、《三現象の氷トライ—アイス》!」


 レイユは飛んでくる火球に氷塊をぶつけて見事に相殺してみせた。 

 火球は容易く蒸発し、白い煙に変わった。その瞬間、サラマンダーの視界から一瞬だけ消えたので、未来はチャンスだと思って羽根を飛ばして攻撃する。少しでも足搔いてダメージを与えに行くが、サラマンダーは全身の穴から炎を噴射して羽根を溶かしてせっかくの攻撃を遮った。


「嘘でしょ!? 流石にそこまでされると手立てがないんだけど」

「それならこれは如何? 《三現象の雷トライ—サンダー》!」


 未来の攻撃がほとんど効いていないので、レイユは三現象の一つを唱えた。

 《三現象の氷トライ—アイス》の代わりに《三現象の雷トライ—サンダー》を繰り出す。

 空の何所にも雷雲は無いのだが、青白い稲光がサラマンダーを狙って降り落ちた。


 ゴロゴロ、ズドーン!


 雷がサラマンダーに直撃した。これは流石に効果が有ったようでで、サラマンダーは呻き苦しみ出す。

 上半身持ち上げ、グルングルンと頭を左右に振った。

 相当苦しんでいるようで、ダメージらしいダメージがしっかりと入った。おかげで炎の出も悪くなり、勝機が薄っすらと見えた気がする。


「レイユ、これなら行けるよ!」

「そうね……分かっていたけど」


 それを聴いた未来は、最初っからすればいいのにと思った。

 けれどレイユの表情を見るによっぽど切羽詰まった状況らしい。

 森の様子を見守りながら適した魔法を唱え続けてはいるものの、ダメージは入ってはいるがこのままだと一向にサラマンダーを倒せる感じがしないので仕方なく使った様子で本心ではない。


「レイユ、《三現象の雷トライ—サンダー》を使ったら倒せるの?」

「如何かしらね。少なくとも効きはしたわ。貴方も見ていたでしょ?」

「見てたけど……ちなみにだけどさ。私が全力で隙を作ったら、サラマンダーも倒せる?」

「隙を作るって……ここから近付けないのに如何をする気なの?」

「決まっているでしょ。こうするんだよ!」


 未来は翼を広げた。硬質化して自分の体を包み込ませて槍形状にする。

 その状態で体を捻り回転させると、サラマンダー目掛けて降下するように突っ込んだ。

 あまりに馬鹿げている。レイユはきっとそう思うはずだ。

 サラマンダーも未来が突っ込んできたので格好の獲物と思い首を上げると、全身から熱波を飛ばした。


「ブビィィィィィィ、ハッッッッッッッッッッ!」


 熱い。熱い熱い熱い熱い。全身が焼ける。

 未来は槍形状になったせいで熱が排熱できず、蒸し焼きになりそうだった。

 だけどまだ耐えられる。未来は目を瞑ったままサラマンダーに立ち向かうと、一瞬だけ注意を惹くことができた。


「あーもう! そんな真似をしないでよ。仕方ないわね……《三現象の爆雷トライ—サンダーバースト》!」


 レイユは杖を振り捌いた。

 すると魔法石の結晶に魔力が集まる。

 炎と雷の二種類の魔力が混ざり合うと、杖を回転させながら魔法を形成した。


「未来、すぐに退避! 全部まとめて吹き飛ばす」

「レイユ!? うん」


 未来はレイユの声を聴き、急いでその場を退避した。

 強烈な熱波から逃れる様に、Vの字で反対方向に逃げ延びる。

 空を切り、翼がもげるかと思った。高速で全身にGが掛かりながら移動すると、背後でとんでもない地響きと轟音、真っ白な爆発が起こった。


「な、なに!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 吹き飛ばされた。何が起こったのか分からないが、衝撃で吹き飛ばされたのだけは確かだ。

 全身が焼けそうになるのレベルじゃない、これ死ぬっ! 未来は死を覚悟した。

 空へと吹き飛ばされる中、翼で全身を丸めてガードする。視力を一瞬奪われてしまい、何が起こっているのかまるで分らないが、とにかく自分の命だけを守ることに全力で尽力した。体が無重力になってしまい、意識が少しだけ飛んで行った。

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