第13話 この翼取れるんだ

 未来は盗賊を相手取ることにした。

 目の前にはうつ伏せのまま気絶している盗賊の男性が一人居るのだが、その後ろではビビっているのか、足が竦んでいる盗賊の仲間がいた。

 しかし突然現れた誰か分からない奴にビビっているのもしゃくなのだろう。

 ナイフをチラつかせ、未来を脅そうとする。


「けっ、なんだなんだ、急に出てきやがって。正義の味方気取りかよ、お前!」

「うーん、そんな気はないけど、刃物を人に向けるのは危ないよ?」


 未来は腰に手を当ててそう言い張る。

 すると盗賊達は拍子抜けしたのか、むしろキレ散らかしたのか、一人は奥歯を噛むと未来に襲い掛かる。

 よっぽどムカついたようで、ナイフを突きつけて突っ込んできた。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「いや。物騒だなー」


 男性はナイフを突きつける。地面を蹴り上げ、未来を刺そうとした。

 しかし未来も刺されたくはない。痛いのは嫌だし、無駄に痕の残る怪我はしたくない。

 そこでスライムを無慈悲に倒した時同様、翼を前に畳んでガードした。

 男性の突き付けていたナイフはスライム同様翼でガードされ、簡単に受け止められてしまった。


「な、なにぃ!?」

「私死にたくないんだよね。だから、吹き飛ばすから。頭だけはちゃんと守ってね」


 未来は警告してあげた。

 すると盗賊の男性は訳分からなそうにしていたが、急に翼が開くと後ろに向かって勢いよく弾き飛ばされた。

 手からはすっぽりとナイフが抜け落ち、背中を丸めた状態で勢いよく吹き飛ぶ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男性の大絶叫が上がった。耳をつんざくようで、未来は人差し指で耳を塞ぐ。

 盗賊の仲間達は自分達の間をもの凄いスピードで弾き飛ばされていった仲間を目で追うことも出来ないまま、大絶叫だけが聴覚を伝って脳を焼いた。

 冷汗が滲み出るのとほぼ同時に、遠くの方でズドン! と鈍い音が地面を伝って聞こえてくる。


「ふぅ。とりあえず倒したみたいだけど、死んでないよね?」


 正直やり過ぎた気はした。

 だけど未来にはまだ翼の力加減が上手くできないので、全部自己責任でお願いしたい。

 実際警告はしておいた。それを守れた如何かは本人自体で、未来は知りたいとも思わなかった。


「つ、強いな」

「そうですね。この翼、めちゃくちゃ強いんです。そのせいでせっかく剣を買ったのに使う機会が無くて、トホホな気分なんですけどね。あはは、はぁー」


 未来はついつい自分語りをしてしまった。

 その隙を好機と見たのか、残っていた盗賊達は何人か束になって未来へと襲い掛かる。

 一人は正面、二人は背後から攻める。翼を展開できるのは片方だけなので、正面を守らせて背後から切ろうという算段らしい。 


「如何だ、防げないだろ!」

「「死ねい!」」


 盗賊達は勝利を確信している様子だ。

 翼に頼り切っていて、剣もまともに使えないと高を括られている。

 心外だな、と未来は思った。なので背後の相手には翼で返り討ちにしてあげて、正面から来る男性には双剣で相手をすることにした。


 カキーン!


 男性の振りかざしたナイフは、未来の片手剣二刀流によってさも簡単に防がれる。

 これこそが双剣の強み。扱いは難しいけれど、剣二本分の防御力は伊達ではない。


「な、なんだ!?」

「あのさ、私が剣を使ったことないからって、使いこなせないとか思って貰ったら困るんだけど。舐めないで貰えるかな?」


 そのまま勢い任せにナイフを弾き飛ばした。

 草原の草むらの中にナイフが沈む。

 男性は切られると思い委縮するが、当然切る気などない未来は躊躇して剣の切っ先を突きつける程度に留めた。


「動かない」

「ひいぃ! お、お前ら、俺を助けろ!」


 腰を抜かした男性は、背後から襲う男性二人に叫んだ。

 しかし未来は翼を使って男性二人を弾き飛ばした。

 頭を羽の先端でゴツンとすると、気絶して口から涎をダラダラと流してしまった。


「あ、あれ? 死んでないよね?」

「な、なんだよ。お前、本当になんなんだよ!」

「だから誰でもないって。ただの通りすがりだよ」


 男性はたった一人取り残され、手足が震えていた。

 如何やら未来のことが恐ろしい様子で、完全にビビっている。

 もはや戦意喪失しているらしく、返り討ちに遭わそうという気概は感じられない。


「えっと、貴方の仲間は全員倒しちゃったけど、もう降参する?」

「こ、降参?」

「今なら盗んだ物をちゃんと返して、警察に自首して悔い改めるなら許してあげるよ、私は? 如何する?」


 完全に上から目線の未来に盗賊の男性は震える唇で答える。


「こ、降参する。も、もうこんなことしねぇから!」


 首を縦にブンブン振っていた。

 相当未来を怖がっているようだけど、未来には争う気何て無い。

 悪いのは盗賊達なのだから、早く自首して欲しかったのだ。

 それが上手く行ったようで安心した未来だったけど、つい目を離したすきに腰を抜かしていた男性は立ち上がり、踵を返すと仲間を置いて逃亡を企てた。


「ひぃぃ! 俺だけでも、せめて俺だけでも逃げ延びてやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 腹から叫びながら、男性は逃げ出した。

 見え見えの背中を見つめて未来は困惑する。


「えっ、仲間を置いて逃げるの!」


 未来は近くで倒れている盗賊達を見て、酷い仲間だと思った。

 何だか許せない。未来はふと正義感に目覚めてしまい、何とか懲らしめたいと思った。

 だけど翼を使うと後ろで縛られている人達の安全が保障できなくなる。

 如何したものかと悩むと、不意に翼をチラ見した。


「せめてこの翼の一部が取れたら……あれ?」


 未来は言葉に乗せてそう念じていた。

 すると翼の羽の先端がポロリと抜け、硬質化していた。

 宙に浮かべると浮きあがり、もしかしてと思った。


「あっ、この翼って取れるんだ」


 しかも翼は重力に反比例して空中に留まっている。

 フワフワと浮いているのでもしかしたら飛ばせるのかな? そう思った未来はついつい試したくなる。

 羽根のお尻の部分を指先でトントンした。すると直線的に羽根が飛んで行き、逃げる盗賊の右太腿に直撃する。

 絶対に痛いと確信し、未来は翼を使って少女に現場を見せないように隠した。


「うわぁ!? 急に私の前に翼が……」

「見ない方が良いよ」


 未来は驚く少女に語り掛ける。

 すると盗賊の男は大絶叫を上げながら草原に生えた草達に足を絡め取られてしまい、うつぶせの状態で鼻の頭から盛大に転んだ。如何やらこれで逃げられずに済んだらしく、未来はやり過ぎた気はしつつも、誰も殺さずに済んでホッと胸を撫で下ろしていた。

 しかし未来はこれで良かったとは言えない。

 自分でも少し後悔しているので、表情は浮かばれていなかった。

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