Level 1.63 初めてのダンジョン、初めてのパーティ その3
「ん? お前ら、“ワイバーンの顎”じゃないか? 何でお前らがこんな場所まで来てるんだ。意表を突いて傭兵から迷宮探索者へ転向かよ?」
とある場所の見張りをしていた重装備の男がリー達を見てそう口を開いた。
「うるせえな、先輩。それと…いい加減、その名前で呼ぶなよ? まだガキ臭かった俺達が若気の至りで付けちまったパーティ名なんだからよお」
「いやいや、リー。お前が勝手にゴリ押しでギルドに申請したんじゃないか!」
「未だに俺はダサいと思うがね」
「そうだそうだ。まあ、俺は別にパーティ名に思い入れは無い方だが…」
「…………」
リーの言葉にバードンが異論を唱え、それにナグロクとゴンザが続く。
へぇ~。ワイバーンの
っておい。そのワイバーンのリーさん、何で俺を睨んでるんですかね?
え? ニヤニヤしてたのが気に喰わない? いやぁ~無理でしょ。
俺達は無事、ダンジョンの十階層までに辿り着いていた。
如何せん、これまで同行しているリー達が過去にマッピングしていた七階層までのように最短ルートでの移動ではなくなったので、今日はこの十階層で一泊することになった。そんで明日に改めて十一階層を覗いてから地上へと帰還する予定ですって感じか。まあ、ある程度のマッピングはナグロクがしてるはずだから、明日のラ・ネストの街から正午か十四時発の王都行きの馬車に何とか乗れるか?
八階層以降のモンスターは確かに物理が効き辛いのが多かったが、どうにも典型的に魔法に弱いタイプらしく、レベル1の魔法を放っただけで穴が開くような連中ばっかだったよ。
わざと俺がバシバシ特殊攻撃を受けてみたが――特に
ふうむ。ま、所詮は初心者ゾーン。今のとこ目ぼしい新魔法も覚えられてないし、欲しいマジックアイテムも無い。
やはり、
「ふむ。まあいい、
「まあ、そんなところだ」
おい、違うぞ。
「そんなことより、半日利用で一人頭…二百五十ギルダだろ? ほれ。早く通してくれ」
「……五人で千二百五十ギルダ、確かに。だが、リー。お前は銀等級で俺と同じ準ギルド職員だろ。お前は免除でもいいんだぞ」
「いいんだよ…俺は迷宮探索者部門じゃ銅等級なのは知ってんだろがよ?」
「ハッ。相変わらず変なとこで真面目なヤローだぜ。…だが、そういうとこは本当に貴族連中か家名持ちの業突張り共にこそ見習って欲しいもんだがねぇ」
「全くだぜ」
リーが料金らしきギルダを支払うとその見張りは皮肉めいた事を言って「ごゆっくり」と言って俺達を通してくれる。
そこはダンジョンのセーフエリアと呼ばれる空間で、ギルドで管理された安全地帯らしい。掃除され綺麗にされている体育館ほどの広さの部屋の中に数名の冒険者然とした姿がある。彼らは談笑していたが、リー達の姿を見掛けると手を振って言葉を交わしていた。
その奥は簡易的なパーテーションで四つほどの空間に仕切られているようだった。リー以外の三人は迷うことなくその内の一カ所を陣取ると設置されていた焚火台にバードンが炎魔法で火を入れ、その上に置いた調理鍋に携帯食料やら何やらを鼻歌混じりにぶち込んでいく。阿吽の呼吸で近くの水場から汲んできた水を目分量でゴンザが注ぎ、ナグロクは自身が今日描いた八階層から
「……ああ、アシッドの奴か。俺達も探りを入れてるんだがなあ。アイツ等は姑息で慎重な方でな、恐らくこの階層より下で
「いつまでギルドはあんな悪党共を野放しにしてるつもりなんだ?」
「言うな。サブマスだってどうにかしたいに決まってるだろう…」
……リーはまだ他の冒険者と話してるようだった。
*
それから俺達はバードンが拵えた塩漬けした干し肉と干し果物。それと穀物を挽いた粉を固めただけの
……味はノーコメント。
「……クラウス。今日見た感じ、いや昨日の時点から問題無いとは思っちゃあいたがな? 俺達でも手こずる八階層以降でも楽々やれてるお前の迷宮探索者の実力は大丈夫だろ。正直言っちまって、お前だけでも端から俺達四人より数段上だろうぜ」
「何だよ、その謎の上から目線は?」
「うるせーぞ、ゴンザ。これでも俺は銀等級なんだよ!」
一応、先達であるリーのオッサンからストレートに評価を受けるとその、なんか照れるんだが?
「だが、これから
「アシッド? 八階層への階段で出くわしたあの嫌なライオン髭のこと?」
「そうだ。その糞野郎だ」
アシッドとは俺達が先程七階層の下層への階段で遭遇した冒険者だ。ライオンの鬣のような髪型と髭に獰猛な顔を付けた正に無頼漢と言った風体の冒険者だった。
だが、そのアシッドとその他の仲間二人はリー達を一方的に罵倒してきたのだ。正直言ってムカついたが、リー達が黙って無視して先を進んだので俺もそれに倣ったのだ。
「あんな野郎でも王都の中等級迷宮探索者でな。そこそこの古株だ。本来なら二等級になってもおかしかーねんだが…奴は随分前から新人殺しの疑いがあってな」
「新人殺し?」
俺は何かの比喩かと思ったが、どうやら文字通りダンジョンでの冒険者による冒険者の殺害自体を指す言葉だったようだ。
「あんな奴と同一視されるのは嫌だが、その手の奴は結構いるもんなんだ。専ら、地上のハンター部門じゃハイエナ。傭兵部門じゃ蛇なんて隠語を使うこともある」
「そういった連中は自分よりも弱い冒険者の獲物を横から掠め取ったり、最悪殺して装備を剥いでいく。ギルドへの口封じも兼ねてな」
「アシッドの野郎はそのダンジョン版さ。特にギルドから長年マークされてるが、運悪く決定的な証拠が見つからんのよ」
バードン、ゴンザ、ナグロクがそう続ける。どうにもダンジョンの特性上、死体が残らないのでそう言った犯罪行為を示す証拠を隠滅され易いとのことらしい。ギルドでは職員契約している冒険者は万年不足しているそうで、ダンジョンなどに巡回に出す余裕がないという。
なるほど、連中はモンスターのドロップアイテムじゃなくて
因みに、さっきリーが話していた冒険者もこのセーフエリアの見張りも実はリーの準同僚。正確には元冒険者。各人が銀等級以上で冒険者からギルド職員へとドロップアウトした者達なんだと。このセーフエリアの管理を交代制でやっているらしい。道理で皆して首元に揃いの銀の飾緒を付けてると思ったぜ。単に王都の流行りか仲良しかと一瞬思ったが…。
「それとだ、クラウス。――…テゴワースの事は気にするな」
「…っ!」
「確かにテゴは生まれた日も一緒でずっとやってきた仲だった…。お前もテゴみたいなヤツがあんな野盗みたいなことしてるのはおかしいと思っただろ? どうにも、ディンゴの奴がある貴族に嵌められたみたいでな。アイツはそれを放っておけなかったらしい。全く、他人にどこまでも甘い奴だった……」
そう言うとリーは皮袋に入れていたエールをグイッと呷る。
「俺達も君に思う所がないと言えば――嘘になる。だが、同時に感謝もしている」
「テゴ達はいつかお尋ね者として討ち取られるしかなかったからな。だが、クラウスに討伐されたのは幸運だっただろう…アイツにとっても」
「もしテゴ達を討ったのがアシッドみたいな連中なら見世物のように首を掲げられていたに違いねぇ。
バードン、ゴンザ、ナグロクの順にそれぞれが座ったままではあるが俺に向って頭を下げる。それを見て俺は思わず涙腺が緩みそうになるの必死に口元のスープ皿で隠した。胸から込み上げるのは安堵と後悔だった。
ああ、ようやく解った。俺は許されたかったのか…。
あの無精髭のテゴワースを手に掛けてしまったことを。
王都までの道程で何度も頭を過った。
ディンゴのように無力化して連れてくれば良かったのではないか?
もしかしたら、処刑を免れるのではないか、と?
だが、結局は王都に辿り着いたその日にサブマスのサンダーバーバラの口から『恐らくは、王国の威光とギルドからの見せしめとして――罪人として極刑になるだろう』と聞かされて、やはりそうかと宿屋のベッドに俺の身体が重く沈んだだけだった。
「おう! 明日は遂に十一階層だぞ? 湿っぽいのはコレで終わりしようぜ。ほらエールの飲み回しだっ!」
「いや、やるならクラウスとだけでやれ」
「「同じく」」
いや、俺も嫌だわ!?
何が悲しくてこのオッサンと互いに間接キスを繰り返す恐怖儀式をしなけりゃならんのよ?
結局、俺もその親愛行為を断ったことで、またもや機嫌を損ねて転げ回る銀等級の姿を見て俺達は笑い、時は過ぎていった……。
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