Level 0.1 リュカの正体
悲報、俺の伝説始まりませんでした。
え? 理由?
俺が
言わせんなよ…。
そのなんだ…こんな辺境じゃ娯楽なんて殆どない訳でして。
過酷な環境で日夜労働に励むサンドロック男爵領民の細やかな楽しみの一つが――ぶっちゃけ男女のソレコレだったりする。
あ。ちょっと待て!
別にこの異世界の倫理観が乱れに乱れれてるわけじゃないぞ?
…いや、俺が転生する前の世界と照らし合わせると結構問題になりそうなのは確かだが。
我が王国法だと男女の営みを禁じているのは修行中の聖職者と近親者同士が対象くらいで、それ以外は特に問題ないとされている……ことが最大の問題だわな?
種族間の問題もあるが…一応は十五で成人となあなあに統一されてはいるらしい。
が、俺に言わせれば法の整備が穴開きチーズ過ぎる異世界において、大体…歳が十を超えてればまあいんじゃね?的な信じられん暗黙な了解があったりもする。
まあ、産めよ増やせってヤツで子供が出来ることは慶事でしかないんだろう。
モンスターやら戦やらで総じて人口は減り易い傾向にあるのがこの世界だ。
ちょいと話が脱線したが、リュカは前世を通して俺を男にしてくれた存在だと明言しておこう。
俺が“将来は冒険者になってやらあ!”とリュカを交えた村の若衆(ぶっちゃけ悪童仲間)達に二年前ほどから吹聴した辺りからか…?
リュカが皆の目を盗んで俺を川の側の雑木林へと引っ張って連れ込んだり、夜にこっそり村から離れた猟師小屋(何故かタイミング良くその猟師が居ないんだが?)に誘われるようになったのは…。
転生以前から長年DTを拗らせた俺は必死に防戦一方だったが――遂に半年前。
リュカに押し倒されて一線を越えてしまったわけですよ、はい…(照)
で、この世界には避妊対策とか……いや、魔法があるから何とかなるかもしれんけども。
この村とその近辺界隈では特に無いわけであるからして…リュカの妊娠は当然の結果とも言える。
普通は村総出で喜ぶ…はずだったが、俺の立場が頂けなかった。
そりゃ、誰もが子供を宿した彼女を村に残して王都へ逃げる間男にしか見えない訳ですよ。
俺も他人事なら大いにここぞとばかりに罵詈雑言を浴びせてやるだろうな。
俺の王都へ向けての出立は無論キャンセル。
村の中央まで引きずり倒されて若衆を除いた村の住民達からボコボコに袋叩きにされた。
流石の集団暴力には参ったが…俺も軽率だったと思い敢えて抵抗しなかった。
特に俺の親父連中は過剰に俺を殴る蹴るわだったが…理由があった。
半日後。
村に珍しく二頭立ての馬車が来た。
屋根が無いタイプで戦時にはいわゆる古代エジプトやローマの戦車のようにも使われた馬車らしい。
馬も馬車もサンドロックじゃとんでもない貴重品だ。
つまり、この馬車は我らが領主、サンドロック男爵の所持品である。
村には徴税や政策関連で月に数度、サンドロック領主の使いが徒歩で訪れるくらいだしな。
そんな馬車には何とも微妙な顔で俺を見やる鎧姿。
サンドロック領の古株従者のオジサン、いや十二分にジジイな人物こと…従者筆頭のサンドロック従士長シンベル。
…と、馬車の後部座席には目を赤くしたリュカの姿もあった。
「この度は…私の馬鹿息子が…とんだことを。御館様に何と詫びれば良いのやら…」
「ああ、もう気にするなグラス。儂も御館様と一緒に今さっきリュカ様から改めて話を聞いたところなのだ。にしてもリュカ様もリュカ様であるがな…まさかこんなことになろうとは――儂らも思わなんだが…はぁ~」
シンベルは俺の顔を見て大きな溜め息を吐きやがった。
「リバーサイドのクラウス。お主には御館様から御屋敷まで出頭するように命じられておる。まあ、そう案ずるな…そうお主が責めを負う事もなかろうよ。それにしても、流石はグラディウスの息子だな? 女難の相は父親譲りと見える。クククッ…」
「はあ…――え? 何で俺の親父が?」
「ちょちょっ…シンベル殿っ! 妻に話が聞こえてしまいまするっ!?」
ガハハと笑う老丈夫と俺の親父に担がれるようにして馬車へと目をパチクリさせる俺は放り込まれ、領主が待つ在所まで連行されることになった。
*
「グスッ…ごめんね、クラウス」
「…何で言わなかった」
「だって…本当のこと言ったらもう村の皆と…クラウスと一緒に居られないと思って…」
「…………」
俺は身を縮こませるリュカの手をそっと取る。
……御者台の鎧ジジイがチラチラとコッチを見てニヤついてるから既にバレてるのがちょっとムカつくが。
「…冒険者は――ちょっと保留だ。だから、暫くは何処にも行かないでお前の傍にいるよ」
「……うん」
リュカがポロポロと涙を零して俺の肩にしがみ付く。
…………。
おい、シンベルの爺様よ。
ちゃんと運転して? 前見て運転?しろよ、テメー。
俺は…転生者だ。
実に自分の欲に忠実なテンプレの。
それもチートスキルを与えられた激甘条件の舐めプ可能の怪物になれたやも。
だが、それでも…流石に身重になった恋人を置いて行ける程の大それた人物に俺はなれそうもない。
俺の子を宿した彼女の本当の名は――リュカナータ・サンドロック。
サンドロック男爵領現当主であるカトゥラス・ハスタ・サンドロックの三女であり、移民の母を持つ庶子だった。
こうして、俺は確実に運命の岐路から予期せぬ先へと歩を進めることになった。
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