Level 1.5 爆発属性と無属性
「う、嘘だろぉ……」
当人にとっては掛け布団程度の瓦礫からガラガラと這い出たサンダーバーバラが呆然とそう呟いている。あちゃ~…。
「オレの
俺の目の前で王都の女巨人こと俺の上司で尚且つ王都冒険者ギルド本部のサブマス(ナンバー2だけど実質最高責任者なのか?)であるバーバラさんが膝を突いて嘆き悲しむ。
ああ、どうしてこんなことに……。
「…くらぁあっ!! クラウスぅう~~!?」
ああ、そうか。俺がやったんだった…。
「どうもすみませんでした」
俺は取り敢えず事前に察して全力で身体強化してなかったら、余りの動揺振りから俺を握り潰していたかもしれない進撃の女巨人上司に対して素直に謝罪する。
「すみませんでしたで済むかぁ!? …いや、良く考えたらコイツぁ悪くねぇか? そうだっ! ジャッキーお前が逃げるからだぁ!!」
「うひぃぃ!?」
俺達の側でコソコソと瓦礫から這い出して逃亡しようとしていた、俺の適性検査(魔法)担当である女メイジのジャッキーが敢え無く捕獲され俺と同じ目線にまで持ち上げられる。…逆さまで。そりゃそんな情けない悲鳴もでるってもんだろう。
「何で逃げやがったぁんだコノヤロー! お前がクラウスの魔法をちゃんと空に向って反射すればよぉ、
「ちょっとしたぁ!? サブマスそれ本気で言ってんですかぁ!? 信じられない…今の見てたでしょう? アレは
「…爆発ぅ?」
もはやローブが全て顔の方向へと捲れて痴態を晒しているのもお構いなしに俺の隣で暴れるジャッキーの叫びでやっとバーバラさんが少し冷静になってくれたみたいだ。
俺達は地上へと解放される。
ほっ……マジで握り潰されるかと思ったぞ。そんなエグ過ぎるバッドエンドは嫌だ。
「爆発属性ってことはぁ、オメェの
「はいっ? そりゃあ私の適性属性は水属性と爆発属性ですよ! …でもですね、彼がポンと使って見せたのは――多分、レベル3の爆発魔法<
「じゃあマジであの使い手が少ねぇ爆発魔法をクラウスが使って見せたってぇのかぁ…? おい。どうなんだ――」
…………。
「…ぐぅ」
「「…………」」
俺は既に瞳を閉じていた。恐らく鼻先から風船めいたものも出ていたのかもしれんね。
「あに寝てんだぁコラァ!?」
「ぶげっ」
俺は上司にしばかれて地面を転がる。
おいおい……これこそ文字通りのパワハラだよ。
「あ。すみません…その消耗し過ぎてちょっと眠気が…」
「どーいう神経してるのよ君…?」
そんなこと言われてもなぁ~。
確かに俺が使ったレベル3の爆発魔法<
だがこの魔法は消耗が激しい。俺が魔石消費無しの代償として体力を倍支払う為だ。おかげで感覚的に現体力の三分の二近くを持ってかれちまった…。無理すれば二発使えるかもしれんが、間違いなく俺は気絶し、更に悪ければ危篤状態になるだろう。最悪なのは極端に魔力を失ったことで肉体に重篤な障害が残ることか?
「…色々と突っ込みたいとこだけど、そこまで消耗するのは無理もないわよ。爆発属性は歴とした上位属性だし。てか、君、魔法レベル幾つよ? 個人的にはそう簡単に信じたくないけど明らかに私よりも上よね」
「魔法レベル? すみません、俺は自分のレベルは知らないん…です、けど?」
「あ、呆れた……」
俺の答えにジャッキーがフラフラと後退る。
「うおー…すげえな。あの堅牢を誇るギルドの壁にポッカリ穴が開いてやがるぜ?」
これまた無事な様子のリー(俺の戦闘技能担当)が瓦礫の上に登ってそう言う。
…目を逸らしてはいたが、確かに俺の魔法が正面のジャッキーの居た位置から奥にずれてしまったせいだろう。ギルドの外壁に穴とその壁の破片が飛散している。そもそも訓練場自体もろに爆風によって滅茶苦茶になってしまっていた。
「ギルマス。ギルドの壁って敵対勢力からの攻撃に備えて壁の内に
「チクショー…高いんだぜぇアリャ。言っとくがな、修繕費の半分はオメーに
「えぇ~……ナンデ…?」
幾らになるんだよ、ソレ?
というか何故に俺が? 確かに俺がやったがアンタの指示……イカン、頭がボーっとして反論できん…。
「んで、もう半分はぁ――ジャッキーな?」
「え!? 嘘でしょ!?」
「ぎゃははっ! ざまあみやがれ」
太い指を指されたジャッキーが飛び上がるのを見て手を叩くリーのオッサン。
完全なワンマン経営だな。ここでは彼女が法律なのか。いや流石にバーバラさんも八つ当たりも含めた冗談なんだろうが…。冗談だよな?
「わっ、笑ってんじゃねーわよ! このヘボ中年傭兵っ!!」
「(ちゅどーん)うぎゃあ~!?」
キレたらしいジャッキーが地面の石片を拾って投げつけると、リーに当たる直前で明滅し出して――爆発してヘボ中年傭兵を瓦礫の山から吹っ飛ばした!
おお! 見た事のない魔法だ! 同じ爆発属性か? アッチの方が使い勝手がよさそうだなあ。…俺に教えてくれねえかなぁ~。
「やっぱオメーも使えるじゃん」
「あのですね、サブマス。私が使ったのは所詮、レベル1の爆発魔法。魔法レベル3以上なら大抵の爆発属性持ちが使えますよ? ただ、彼が使ったのはレベル3……上位属性の3レベルは魔法レベルが13以上で使える代物です。全くの別物ですよ? そして、私の魔法レベルは12。悔しいですが、メイジに生まれた私でもまだ扱いきれませんから…」
流石はジャッキー先生。魔法大学とやらで臨時講師をやってるだけあって俺にもちゃんと教えてくれたよ。
先ず、俺が知るレベルとは実は戦士レベルと魔法レベルの二つがある。その合計がレベルであるらしい。
そして、俺は関係なく使用できる為に考えたこともなかったが、本来はその魔法レベルによって使える魔法のレベルが決まるらしいのだ。
下位属性…つまり炎属性とか水属性とかだが、レベル1の魔法は魔法レベル1(まあ、そうだろうがな)。レベル2の魔法は魔法レベル2。レベル3の魔法は魔法レベル5。レベル4の魔法は魔法レベル11。レベル5の魔法は魔法レベル17が必要となる。各対応レベルは一つ飛ばしの素数か?
対して上位属性…氷属性とか雷属性とか今回の爆発魔法だな。コッチはレベル1の魔法は魔法レベル3。レベル2の魔法は魔法レベル7。レベル3の魔法は魔法レベル13。レベル4の魔法は魔法レベル19。レベル5の魔法に至ってはなんと魔法レベル29が必要となるという。
いや、上位属性は無理だろ? と、思ったら基本レベル4の魔法自体を単独で使える魔法使い自体が稀有なんだそうな。上位属性なら尚更、数人の魔法使いが協力して魔法を発動したりもするそうだ。
ん? だがそれだと…?
「すみません。でもジャッキーさんはさっき普通にレベル5の水魔法使ってたんじゃあ?」
「ああ、それ? それもメイジが魔法に長けるって言われてる理由でね。メイジは下位属性を二段階下のレベルでも使えるのよね」
え、狡ぅ…。ってことは下位属性なら初っ端からレベル3の魔法から使えて、レベル4の魔法は魔法レベル2。レベル5の魔法は魔法レベル5? チートやんけ。
そう魔法チート持ちの俺が言うと、とんでもない首狩り級ブーメランなので黙っとこう。そうしよう。
「因みに私がさっき逃げた理由だけど…君の魔法、<
「はは~ん、なるほどなぁ」
「解って頂けて幸いです、サブマス。私が彼の魔法を受けて立っていたら、今頃は木っ端微塵になって…この場はえらい地獄になってたでしょうね」
「けどよぉ。ギルドの壁が壊れることはなかったわけだろぉ?」
「……鬼です?」
で。結局、恐る恐る騒ぎに駆け付けた人々がギルドに開けてしまった穴から瓦礫が散乱する訓練場を覗き込んで来たタイミングで、バーバラさんが『大したことじゃねぇよ』と場を治めようとするも見事失敗。そりゃそうだろうとも。
が、俺がやらかしたと正直に言うのがバツが悪かったのか、件の爆発は何とジャッキーさんがやったと言ってのけたのだ。それには流石にジャッキーも憤慨したが――集まって来た面々、特に冒険者関連の大半が何故か概ね納得したことに本人は相当なショックを受けて『私ってそんな風に思われてたのね…フフ…フ』と膝を突いて項垂れていた。心配だなあ(すっとぼけ)。
だが、結局はそれは誰の指示?という問い掛けに対して『そりゃあオレだが?』のキメ顔回答に場は紛糾の嵐。『結局はいつも通りオメーが全部悪いんじゃねーか!?』という周囲の声に今度は女巨人が逆ギレする最悪の事態に…。
まるでキングコングの如く暴れ回った彼女が正気を取り戻すのに半日近く掛かってしまった。
大丈夫なのか? この冒険者ギルドは、その色々と…。
因みに、修繕費の持ち出しはギルドの持ち出しになったので助かった、か…?
どうやら最上階に居るらしいギルドマスターとサブマスとが話し合った結果らしいが…バーバラさんは終始苦虫を噛み潰したような表情で俺達を睨んでいたので本意ではないらしい。いや、責任者だろアンタが。
*
「まあ朝から色々と騒ぎがあったが……終わり良ければ全て良しってなぁ」
「どの口で言ってんですか?」
人並みにサイズに縮んだバーバラさんと俺とジャッキーは現在、俺が昨夜通されたギルド三階の部屋に居る。呆れて窓から訓練場を見やるのはジャッキーだ。俺も釣られて見るとあてがわれた木板と割れた窓の下では大勢の作業員が出入りしている。これから数日間の夜通しの修繕作業の大工事だそうだ。
…今更だが、改めて自分がやり過ぎたと反省する。
「いいんだよぉ。で、コレでクラウスが二等級で始めるのに問題は無いってこった」
「……少なくとも、魔法に関しては、ですがね。まあ、私は近接戦闘には疎いですけど、あのリーを難無く倒せるならソッチの問題もないと思いますし」
どうやら苦労した甲斐あって今日の適性検査は無事に…いや、一概に万事無事ではないが通ったようだな。
「その…リーさんは?」
「…………」
俺の問い掛けに何故か黙ってそっぽを向くジャッキーさん。おい?
「あー…奴は負傷して今日はもう出てこれねぇぞ?」
「負傷!? …もしかして、俺のせいですか?」
「いんやぁ。ジャッキーの
「こわっ…」
「いやいや!? その私よりも上の魔法使って君もギルドに穴開けてるんだからね!?」
ふむ。やっぱり何かと便利そうな魔法だな。
「というか、サブマス。もう今日は彼のレベルを調べて終わりでしょう?」
「おう。そうだったよぉ」
何故か顔を赤くするジャッキーに急かされたバーバラさんがまたもやパッツパツの尻ポケットから何かを取り出す。
……レンズ? この異世界に転生してから初めて見るが多分そうだと思う。
「動くなよぉ」
「……? …っ!」
バーバラさんが面白そうにレンズ越しに俺を覗いた途端にそのレンズが僅かに光を放った。
……だが、俺はそのレンズが光ったことよりも別のことに酷く動揺していた。
「ほほぉー…面白ぇじゃあねぇの。つーかその歳でHPが三周分かよぉ。かなり多い方だぞぉ」
「どうでした? ……って! なんですかコレ!? 壊れてんじゃないですかこのマジックアイテム?」
「馬鹿言うんじゃねえよぉ。さっき迷宮探索者部門の
「ちょっとクラウス君も見てよ!」
俺も呼ばれてレンズの鏡面を覗きこんだ。そこには――
戦士レベル:7.5 魔法レベル:3.7
HP:〇〇〇 MP:
レンズの外周に赤い輪のようなラインが三本あるが、内一本は暗くなっていて、もう一本は半分ほどが暗い。もしかしてコレがHPの表示だろうか?
…なるほど。コレが相手のステータスを調べるマジックアイテムか。
――いや、魔法だったのか…。
「魔法レベルが低すぎるわ。仮にもレベル3の爆発魔法を単身で使えるんなら魔法レベルは13なきゃ話にならないのに…! あ!それと魔石もよ。何処に隠し持ってたのかしら…しかも、レベル3の上位魔石なんて危ない代物を」
「あ~…。ま! いっか…(チラリ)あのなぁジャッキー。あんまりまだ言いふらすんじゃねぇぞ? 俺も話に聞いてただけだが、クラウスは魔石無しで魔法を使える加護を持ってるらしいぞ? しかも上位属性は他に氷と雷も使えらぁ。氷属性は昨日の
「……は?」
俺をチラリと見やるバーバラさんからのネタバレにジャッキーが固まる。チート持ちでどうもすみません。
「何にせよコレでギルド証にレベルが書ける。合わせてレベル10だな。まあ、レベル10にしちゃあ当人が強過ぎるかもだが…冒険者にとって強さはプラスにしかならねぇだろぉ」
あ。小数点は含まれないのね。
「ところでジャッキーさんに質問があるんですが」
「……何?」
なんかえらい警戒されとるな。でも一応聞いておきたいんだよなあ。
「その……無属性魔法ってなんでしょうか、なーんて…?」
「あぁ? 無属性だあ?」
あ、やっぱり知らない感じか?
だが首を傾げるバーバラさんとは対照的にジャッキーは初めて見せる顔をして俺を睨んでいる。
「クラウス」
「は、はい?」
…急に呼び捨てとか怖いなこの人。というか物凄い勢いで肩を掴まれてしまった。
「それ、何所で? 誰に聞いたの?」
あ、なんか地雷踏んだっぽーい。ヤバイ。聞かなきゃよかった…と嘆いても最早、覆水盆に返らずとはこの事か。
結局俺は地元のメイジ(ガープ婆のことだが正体はぼかした)に聞いたことにした。でも、別に嘘じゃないぞ? 俺が
「はぁ~。まさか
「暗黙のルール?」
なんだろう。無属性魔法自体がタブー扱いなのか?
「良く聞いてね。私達が自身の生命の源たる原初の力から引き出す魔力と魔石を使って世界そのものに干渉する技術――コレを大分類として魔法と呼んでいるわけね。他にも同じ魔力を使う技術に呪術や錬金術。そしてエルフの精霊術とか色々あるけどそれはこの際置いておくわね?」
「はい」
「その魔法だけど、その属性は大原則として、下位の炎・水・地・木・風・毒・麻痺・精神・治癒・強化・衰弱。それと上位の爆発・氷・雷・死・付与・召喚。それにプラスしてより限られた血統の者しか扱えないとされる属性の光・闇・竜。それと魂を司る星属性があったんだけど、かの十傑の“巫女”様が使ったそうだけど…その使い手も過去の大戦で絶えてるし。まあ、光属性なんかは有名でしょ? 同じく十傑のリーダーで勇者“光芒”のヨバ様がその光属性の業で女帝を倒したんですもの」
「……はい」
さっきから俺もハイハイと答えてるが、レアな血統属性なんて初耳だぞ。
実は十傑の昔話もあんまり知らない。ただ、土地柄的に“鬼面”のブーマーだけは皆知ってるけどな。
「ここ三百年で確認されてるのはコレだけなの。で。問題はこの属性には該当しないものの総称が――その無属性ってわけ。正直、この存在は認められているようで認められない」
「それってどういう…?」
「……色々な理由があるんだけど、そこは王国の
危険視? なんでだ? 例えばその研究結果次第でダンジョン産のマジックアイテムが量産なんかできたら大いに役立ちそうなもんだが…。
「だって、長年研究されてきた結果。私達
ジャッキーは険呑な表情を崩さないまま、視線を逸らす事無く指を壁に向って指す。そこには大型のモンスターの骨格標本が壁に飾られていた。
「
俺は笑みを浮かべたままそっと挙げようとした手を降ろす。
『いやぁー実は俺、無属性もイケるんですよねー。アハハ!』なんて言ってしまうところだった。危なかった…。
だがそうなんだよ。俺は使える。その無属性魔法を…。
さっきレンズで覗かれた時に反射的に覚えてしまったのだ、そのレンズに封じられていた魔法、<
……いや正確には魔法ではない可能性があるな。殆どHPを使わないのだ。
試しにジャッキーに向って使ってみる。
戦士レベル:0.7 魔法レベル:12.5
HP:〇の半分 MP:〇〇〇と〇が四分の三
……うーん。普通に問題なく表記されてるな。
恐らく赤がHPバーで青がMPバーだろう。レンズの時と同じで輪のようなラインメーター表記で彼女の周りに現れている。
MPがあるのは彼女がメイジだからだろう。メイジは自分の魔石を持ってるからな。
「どうかした?」
「いや、なんでも…」
どうやら無属性に関しては公言しない方が良いな。
だが、これで確信した。俺は期待の籠った目でそのマジックアイテムらしきレンズを見る。
「サブマス。ジャッキーさん、本日はどうもお騒がせしてしまい…すまな…いや、申し訳ありませんでした……」
俺は改めて二人に向って頭を下げる。そして、「最後に一言よろしいですか」と
一呼吸置いて構える。心なしか、彼女らの目も真剣味を帯びている。
「……その明日から早速、ダンジョンに行きたいんですが?」
「「いや、そっち(かよっ)!?」」
何故か俺の言葉にズッコケているが何か問題があったのだろうか?
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