Level 1.61 初めてのダンジョン、初めてのパーティ その1


「お。そこの足元、意外と滑るぞ?」


「わかった」


 俺は早速ダンジョンにやって来ていた。

 と言っても一人じゃない。


「うーん。本当に新人か? 足運びやら周囲の警戒の仕方が余りにも完璧で、熟練者にしか見えんけど」


「確かに。こりゃあとんでもない新人が入ってきたもんだぜ。これなら斥候も務まりそうだし。前衛も出来て、オマケに魔法も使えるたぁ…」


「こりゃあ俺達も本格的に迷宮探索部門でやってみるか?」


「おうともよ! コイツはドエライ新人だぜ? クラウスが俺達のパーティに入れば上等級…いや、その上の一等級だって狙えるぜっ! なあ?」


「いや、俺はソロ活するから。必要な時に組んで貰うスタイルでお願いします」


 そう。俺は昨日世話?になった銀等級傭兵のリーの二等級パーティ(銀等級はリーのみで他は二等級傭兵だから、らしい)に同行して貰っている。

 というかリーさん、アンタ昨日の今日で回復力半端ないね? もしかして加護持ちか?


 俺のダンジョン行きを渋々承諾してくれたバーバラさん曰く、何でも俺の実力は申し分ないとのことだったが…流石にダンジョンのダの字も知らないペーペーを一人で行かせるのは危険だと判断された結果だった。因みに敬語はリーから気持ち悪いと言われたので止めた。


 まあ、実際は俺だけの特別処置だそうだ。

 基本冒険者はゴロツキばかりの激しい命のやり取りに身を置く職業だそうで、身の安全は本人の責任だそうだ。だが、万が一にもギルド側の要請でとりなした二等級ルーキーを死なせるのは忍びない……というのは建前で、ぶっちゃけ言うとギルドが支払った五百万ギルダ(日本円換算で約一億円よ? 一億ってなんの冗談だってばよ)分を働いて返して欲しいそうですよ? 第二の故郷サンドロックと愛するリュカの為とはいえ、正直やってらんねえよ。


 が。泣き言は言ってられない。それに、その原因を作ったプルトドレイク領の貴族共も気に入らない。サンドロックの家族や仲間を守る為に今後も俺がやる事は多いはずだ。最も、その第一としてこの五百万ギルダの返済がいつ終えることができるか、だが……まあ、それも今後考えていけば良い。でな…。


 その為にダンジョンに来てるんだ。


「なあ~連れないこと言うなよぉ~? 裏切り者のコイツ等は兎も角、独身同士仲良くやろうぜぇ」


「えっ」


「え?」


「ああーと…リー? さっき自己紹介した時に俺達はぁ教えて貰えたんだがよ? コイツも故郷に嫁さんいるってよ」


「もう直ぐ子供も生まれるんだ(照)」


「裏切者共ォ~!? 皆してリア充、いやリアかよ!」


 鍾乳洞じみた造りのダンジョンの中だってのにリーのオッサンが駄々っ子のように転げ回る。俺も含めて今回の臨時パーティの面々が呆れてそれが治まるまでその様を眺める。


「すまんな。俺達は生まれも育ちも同じ王都の貧民街スラムなんだが…結局、十を超えてから二十年もギルドで組んでて、独身なのはリーだけなんだ」


「へへっ…実はオイラも去年やっと嫁さんが見つかったもんだからよぉ~」


 そう言って俺の肩をポンとやるのは中年ノービスのバードン。軽装の槍使い。ちょっとだけ炎属性の魔法が使えるらしい。

 

 そしてニヘニヘと照れながら頭を掻くバンダナドレッドウルフ獣人のゴンザ。結構オシャレだがガチの男獣人だ。女獣人はだいぶ人族寄りだが、男獣人はがっつりアンスロ(詳しい意味は自分で調べてね。※要自己責任)だ。クロスボウ使いの射撃手。


「ゴンの裏切者がぁ~。俺達はどうせ結婚なんざできやしねぇって、独り身で寂しいから同じ共同墓地に入ろうって約束したってのによぉ~」


「気持ち悪いこと言ってんじゃあねーよ」


 そう言ってリーを小突いて立たせるシーフのナグロク。彼らは同年代のはずだが、どうもシーフの男は老けて見えるんだよなあ。彼だけは四十代に見えるオッサン面だ。逆に女シーフは若く見えるから実年齢がイマイチ判らん特徴がある。


「うん? やっぱりシーフの魔法使いは珍しいかよ?」


 ナグロクは見た目こそトッツァンボーイだが、リーのパーティの魔法使いだ。毒と麻痺属性の適性があって、それと衰弱属性が得意らしい。デバッファーかな?


「いや別に? 地元サンドロックに来てた冒険者のパーティにシーフの魔法使いが二人いたから特に疑問に思わなかったけど」


「二人もか…? 俺らシーフが魔法使いを名乗ると、盗賊魔法使いだの言われて…そりゃあ顰蹙を買うもんなんだがなあ。俺も魔法大学の連中からは良く思われてねえからよ」


 血種差別ってヤツか。下らない…魔法の適性ならノービスもシーフも大差ないだろうに。

 あ、あとナグロクはフツーの恰好だ。というか典型的な盗賊スタイルでどう見ても魔法使いって恰好じゃないな。杖も持ってないし。ローブの下はほぼ裸教の人じゃなくて良かった。


 さて、明日からのソロ活の為に今日のダンジョン研修をパパっと終わらせよう。


   *


「ピギャア!」


「ふぅ…」


「…………。本当に教え甲斐の無い新人だなぁ?」


 そんな事言われてもさあ…? 寧ろ、そこは優秀だなと褒めてやるべきでは?


 俺はメイスで仕留めた蛍光色の不気味なダンジョンクリーチャーを足先で蹴る。すると、モンスターの死骸がキラキラと光の粒子に変わりダンジョンの地面や内壁に吸い込まれていくではないか。まるでゲームのようなご都合主義だこと。


「今日はもう何回も見てるが…慣れないなあ」


「ハハハっ! コレがダンジョンの恐ろしいとこだな」


「恐ろしいところ?」


 リー達が意地の悪い笑みを浮かべながら教えてくれたが、ダンジョンで死んだ生き物は即座にダンジョンへと吸収される。その際に死んだモンスターは魔石や身体の一部を残していく――コレがいわゆるドロップアイテムだ。

 だが、生き物の中には勿論、俺達・・も含まれる。つまりダンジョンで死亡するとその遺体は永遠に戻ってこないという寸法だ。そして装備品だけを残して冒険者は消え去る。…うう~ん。結構エグイ仕掛けだなあ。まあ、別段死体を持って帰ったところでこの異世界には死体を蘇らせてくれる寺院なんぞないそうだ。……恐らくは、だがな?


 ところで俺達が今日潜っているのはラ・ネスト第三の巣と呼ばれる王都最寄りの初心者ダンジョンだ。日に三度、ギルドが出す乗り合い馬車で片道四時間の場所にある。

 

 …ダンジョンって言わばモンスターが湧いて出る場所だろ。ちょっと王都から近過ぎねえか? と思ったが、実は過去に王都ハーンの外壁が出来るまではそのラ・ネスト近郊まで王都の範疇だったそうだ。現在は王都と切り離されて、ラ・ネストの街として冒険者相手の商売をメインにしている。その街には迷宮探索者部門の支部もあったよ。

 ダンジョンは全二十一階層。地上から第十階層までが初心者ゾーンで、それ以降は中級者以上と難度があがるそうな。今回の俺達は、俺の実力を様子見し、それ次第でその十階層を見て地上へと帰還する予定となっております。


 現在は第五階層。ここまで色々と教えて貰いながらノロノロで進んでいるのもあるが潜って二時間は経過してるか。このペースなら早く行き帰ってもこのダンジョンの街で一泊。悪ければダンジョン内で迷宮宿のじゅくするハメになるかもしれない。しかも、ダンジョンは基本地下ピラミッド型だ。つまり、下に降りるほど広く険しい。


 俺は背嚢に拾ったドロップアイテムを入れると、メイスを掲げる。


燃え立つ武器ファイアウエポン


「「…………」」


 俺は松明代わりにレベル2の炎魔法である<燃え立つ武器ファイアウエポン>でメイスの先端に火を灯す。


「…魔石要らずとは、これまた羨ましい加護だなぁ」


 ナグロクがそう呆れ顔と羨望が混じった顔で呟く。

 だが、そんなやり取りの途中にもはや聞きなれつつある金切り声が聞こえる。奥の通路からこれまた蛍光色の口だけの一頭身に気持ちの悪い手足と尾が生えた異形が俺に向って飛び掛かってくる。魔法の灯りで釣っちまったかなあ?


「(ドジュウゥ~)ピギィ!?」


 俺はそのまま燃えるメイスを押し付けて倒し、ドロップアイテムを回収する。


「おい、クラウス? お前は何でモンスターを倒す度に残念がる? 教会の聖職者かよ」


「…いや、倒したそばから消えちゃうだろ? それが勿体なくてさ」


「「勿体ない?」」


 何故か全員から疑問詞が出る。え。勿体なくない?


「いや、肉が獲れないだろ。…食料を現地調達できないのは痛い」


「この気持ち悪いモンスターを喰うってか!?」


「マジかコイツ!」


「…これだから南部の奴はよぉ~」


「そうか~? 魔石とか内臓に気を付ければ意外とイケるぜ? 死んだ親父が良く王都の外で狩ってきて喰わせてくれたもんだ…」


「「え…」」


 意外なことに俺にも味方が居た。新婚獣人のゴンザである。

 …ふーむ、ヘリオスの傭兵と一緒した時もそうだったが、獣人とは結構仲良くなれそうな気がする。将来サンドロックに移住を募ってみてもいいかもしれない。


 俺がサンドロックに帰ったらカトゥラス様達に打診してみよう。


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