Level 1.62 初めてのダンジョン、初めてのパーティ その2

「…こう、ちょっとアホな質問してもいい?」


「なんだよ」


 俺達は特に問題もなく初心者御用達ダンジョン、第三の巣ラ・ネストの第七階層に達していた。


「例えばマジックアイテムとかってどうやって手に入るんだ? 今のとこドロップアイテムにはないけど」


「はあ? そんなホイホイ貴重なモンが手に入るんなら皆して迷宮探索者してるだろうよ」


 まあ、そうだよな。


「普通はまあ……ダンジョンの宝箱とかから手に入るんじゃねーのか?」


 おお! やっぱりあるのか宝箱!?

 ……宝箱。それは漢のロマン。開けてみるまで中に何がはいってるか判らない、期待値無限大インフィニティ

 いや、待て? その言い方、ちょっと引っ掛かる。


「じゃねーのかって…」


 俺の疑問に顎をグローブを外した手でボリボリとやるリーが詰まらなさそうな顔で答える。


「ありゃ? なんでぇ、サブマスから聞いてねえのか。俺達は迷宮探索者としちゃあ銅等級だってよ」


「あ。それは聞いた」


「王都から外に出んのが許されるのは……おっと、あくまで冒険者としてだがな? 依頼を受けられる三等級からだ。つまりその初心者の一つ上の銅等級はぶっちゃけそこまで経験があるわけじゃねーの」


 え? でもリーのパーティは俺の上司であるサンダーバーバラからの打診でもあるはずなのでは? 初心者を初心者に指導させんのかよ…。


「おい、リー。それじゃあ誤解させてしまうだろう」


 やれやれと自身の肩で槍をポンポンとやるバードンが補足してくれる。


「俺達は初心者ってよりは半端者って感じだな。このダンジョンには昔、二年くらい潜って対モンスター戦や限定的な空間を仮定した戦闘訓練なんかをやったりしたことがあるんだ」


「傭兵として安定するまでは、ハンター部門の依頼でも何でもやってたもんなぁ~。それとマッピングもしてるからこの階層まで迷わずスイスイ進んでるだろ?」


「更に言うと、俺達は中級者難度の十一階層以降には潜ったことがないってな。その階層での依頼かなんかを達成すれば俺達も文句なしに中等級なんだがね。どっちかっつーと迷宮探索者部門の等級は到達域スコア制って感じだな」


 バードンの言にゴンザとナグロクも続いた。なるほどなあ。


「つぅーことで、俺達も実はこの階層までしか降りてねえんだ。で、その件の宝箱だが――…恐らく、十一階層以降でなら見つかる可能性が高い。で。今日はその十一階層、の手前の十階層を目指すぜ。お前が居れば大丈夫だろ」


「大丈夫って言われてもなあ…リー達は何で先に進まなかったんだ? その方がドロップアイテムの質も上がって金になったんじゃ?」


 だがリー達は苦笑いをする。その理由は八階層以降で追加されるモンスターの種類に問題があったらしい。何でも物理が効かない系のモンスターが出るんだと。その対処法はズバリ魔法。

 …だが、当時の魔法使いはナグロクのみ。そして、ナグロクの適性属性は麻痺と毒。純攻撃魔法としては使い道がどちらもイマイチ。それでも毒属性はそれなりに有用だと思うが、毒が効かないタイプ? 物理にも耐性がある点からスライムとかゴーストとかかもしれんね。

 で、結局。リー達はダンジョンから引き揚げ、紆余曲折あって傭兵部門に寄せることになったと。


   *


「げっ――…どうする、リー?」


「通路が瓦礫で塞がれちまってんなあ」


「コレは遠回りするしかないか?」


 俺達が八階層に降りる階段を目指してダンジョンを進んでいた道中。ここで予期せぬハプニングが。

 どうやら壁の一部が崩れ落ちて道を塞いでいるようだ。

 ナグロクが昔描いたらしき地図を四人で眺めてうんうんと唸っている。


「いや、大丈夫じゃないか?」


「お。クラウス、何か魔法で解決できるのか!」


「まあ」


「ほほお。これはお手並み拝見といこうかね」


 どうやらナグロクは俺が今から使う魔法に同じ魔法使いとして興味があるようだった。さて……丁度いい石コロ・・・が……あ。コレがいいか。手でスッポリと覆える大きさ・・・だ。確かジャッキーがあんまり大きなものじゃダメだって言ってたからな…。


 俺はその拾い上げた石コロを片手でグッパッと繰り返し握って確かめると魔力を籠め始める。


「お? 何だあの魔力の色は……上位属性か?」


「……何だ? この既視感は? こ、この身体の震えは…っ」


 何故かリーの顔色が悪くなる。それも仕方ないか。

 俺は十分に魔力を籠めた石コロを通路を塞いでいる瓦礫目掛けて放り投げる。


「あ。皆、ちょっと離れてくれる?」


「離れる?」


「あぁ…あああああああ゛!?」


「「リー!?」」


 俺の投げた石コロが明滅・・するのを見たリーのオッサンがすかさず地面へとダイブする。懸命な判断だ。


 ――チュドォオオオン…!!


「「どわああああっ!?」」


「信じられんっ! まさか爆発属性か!?」


 バードンとゴンザが飛び散る礫から逃げるようにリーの横に匍匐前進ダイブを決める。唯一、魔法使いであるナグロクだけが冷静に俺の魔法の一部始終を見ていた。


 …………。うん、丁度良い塩梅に瓦礫がふっ飛んでくれて良かった。俺もジャッキーから教えて貰って初めて使ったから、加減具合にちょっと不安があったんだよなあ。


 レベル1の爆発魔法<手投げ弾ハンド・ボム>。自分の片手で掴める大きさの無生物を魔力で爆発させる魔法。上位属性故にそれなりの破壊力になる。なので使い手の安全の為、主に攻撃対象に向って投擲して爆発させる使い方を推奨されている。

 ふーむ。十秒間魔力をチャージした感じでこの威力か…覚えた。それにあんまり多量に魔力を吹き込むと最悪バーストする可能性もあるって言ってたしな。自爆なんて嫌だし、基本はこの威力で良いかもしれない。


「いやいや、ダンジョンで爆発属性って……ダメだろう? まさかと思うがその魔法はあのぶっ飛び女メイジから教えて貰ったんじゃあないのか」


「ぶっ飛び…いや、ジャッキーさんていうメイジの人からだけど?」


「はぁ~あの、ダンジョン・クラッシャーめ。なんの嫌がらせだ」


 そう俺が<手投げ弾ハンド・ボム>を教えてって頼んだら、ジャッキーが『じゃあ、その代価として…私の魔法レベルが13になったら、あなたの<爆裂波エクスプロージョン>を教えてくれる? あ、冗談よ? 冗談…よ…?』という交換条件で教えて貰ったんだ。にしても、少なくとも王都近辺では教えられないか? どうしよう…。

 てか、ダンジョン・クラッシャーって?


「お、おい? 大丈夫か、リー…」


 ゴンザが心配そうにリーを抱え起こすが、リーは蒼白の顔色でガチガチと震えている。…昨日のジャッキーの<手投げ弾アレ>が、彼に相当なトラウマを植え付けてしまったようだな。合掌。


「リーは昨日、もろにコレをジャッキーさんから喰らってしまって…」


「……リーの奴、よく五体満足でいられたな? それは兎も角、お前もあの普段インテリ振ってるが頭のどうかしてるイカレメイジ女みたいな真似は今後するなよっ!」


 割とマジオコなナグロクに釘を刺されてしまった。むう。

 何でも、あのジャッキー先生。ダンジョン・クラッシャーの異名を誇る問題児だったそうな。十年ほど前の話。まだ魔法大学の半学生冒険者だった彼女はこのラ・ネストや他方のダンジョンで爆発魔法を惜しげもなく使用して活躍・・した結果、年に数度もダンジョンの一部の階層崩落を引き起こしていた。幸いにも直接的な負傷者・死者は確認されていないが……運悪く崩落に巻き込まれた冒険者パーティはダンジョンに一ヵ月以上閉じ込められていた事例もあり、そんな伝説を創った彼女はギルドから正式にダンジョンへの出入りを禁じられたという。


「十階層まではダンジョンの自己修復機能は殆ど機能していないから。さっき通路を塞いでたみたいに色々と脆くなってるんだ。気を付けろよ…?」


「…すいませんでした」


 確かにダンジョンで生き埋めとか笑えないので今後は気を付けたいと思います。

 が、俺の魔法によって拓かれた活路によって俺達は何なく八階層へと続く階段のある玄室へと辿り着いた。

 これ以降は俺だけじゃなくリー達も未到達領域だが…リー達の顔は不安よりもむしろワクワクとした表情が目立つ。おいおい、皆して三十超えてるんだろ?

 あ。俺も精神年齢的にはとっくにそーでした。男って生き物は、単純だ。


 が、その階段の下から数人の話し声が聞こえる。

 …他の冒険者か?


「…ん? 誰かと思えば…あの“世話焼き”の片割れじゃあねえか。なんで傭兵専従のお前らがダンジョンになんぞ潜ってやがる?」


「チッ。……運がねえなあ。一番遭いたくねぇのと出くわしちまった」


 どうにも下の階層から姿を現した冒険者らしきパーティと邂逅したリー達の視線は――目に見えて険しくなっていた。


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