Level 0.71 肉欲の日々 その1

 **前書き**


 今後、クラウスや他のキャラクターがこの物語の舞台である大陸などの地理的な話に触れる機会が多くなるかと思います。

 カクヨムの仕様上、文中に画像を添付できかねる為、お手数ですが事前にまたは読んで頂くのに並行して、私の近況ノートに投稿させて頂きました…

 『百姓ときどき冒険者@ワールドマップ~〇〇』の設定集と文末にある世界地図のイメージ画像を見て頂ければ幸いです。<(_ _)>


 ******



 おっと、待って欲しい。

 今回の内容は健全なので安心して欲しい。

 ……いや、健全か? うん、健全。実質安全安心だ。


 ぜ、前回のあらすじぃ~(※間延びした声で)


 見た目グロなリーチ・リザードの群れと、そんなのをペットみたいなノリで連れてきやがったドラゴンを荒ぶる神として崇める馬鹿野郎赤コボルド(許可も多分貰ってない)を無事倒した俺達だった。

 因みにだが、俺は緑コボルド達を率いてきた赤コボルドにトドメを刺してないぞ。

 てか口の中で魔法の力とはいえ擬似水蒸気爆発を起こしてやったのにタフなヤツだ…レベルがそこそこ高いのかもしれないな?

 俺は未だ鑑定魔法を覚えてないが、モンスターは俺達と違ってレベルに比例してとんでもない強さになるからなあ~。困ったもんだ。

 と言っても今回コボルド達がけしかけて来た個体は殆どレベル1だった。レベル2は多分三匹くらいしかいなかったんじゃあねえかな?

 …ちゃんと餌やってない――と言いたいとこだが、恐らく元がダンジョン産のモンスターは地上じゃああんまり強くなれないんじゃあないかと俺は考えている。無論、そもそもまだダンジョンデビューしてない、いやし損なった俺が言うだけの勝手な推測でしかないが。

 まあ、締めの言葉があるとすれば――この程度のモンスターでひぃこらなんぞやってたらとっくのとうにリバーサイドは…否、サンドロックの領民は滅んでいるって話。


 おっと、話が脱線したな。

 俺は近付いて俺の無事を確かめ安堵の表情をする親父と呆れた顔のプウ老人と軽くアイコンタクトをとって頷き合うと足元で未だに大きく開いた口から湯気を昇らせていた狂信者を拾うとポイっと緑コボルドの方へおざなりに放り投げる。


「俺達の勝ちだ。ソイツは連れて帰れ。コレ・・は俺が貰うぞ」


 俺は地面から拾い上げた魔法の杖――先ず間違いなく雷属性の輝きを持つグリーンの魔石が先端部に嵌った魔法金属製の棍を拾って肩に担ぐ。

 現在は哀愁さえ感じるほど無残な姿になった恐るべきコボルドが自慢気に持っていたブツだ。予想外の戦利品であるってヤツだな。

 というか、こんな厄介極まりないアイテムさえなけりゃあこんな苦戦しなかったけどね! っとちょっとだけツンアピールしとくか。誰得かは知らんけども…。

 そのセリフと共に俺は先の戦いで避雷針代わりにして真っ黒こげになってしまった愛棍棒を空いた手で拾って地面にゴツゴツとぶつけて緑コボルド達の注目を集めたことを再度確認した後に今度は横に向って放って投げ捨てた。


 コレはいわゆる一つの対コボルドや他の原生亜人へのボディランゲージだ。

 原生亜人には残念な事に俺達が話す共通語はほぼ通じない。だが、幾ら原始的だっつってもコイツ等は肉になった化け物トカゲと比べれば遥かに理知的で人類に近い存在。自分達での独自の言語を持ち文明や宗教まで持っている。つまり、意思の疎通は不可能じゃないわけだ。そりゃ、ケース・バイ・ケースなんだけどな。

 一部の執拗に俺らに敵対する種族を除いて原生亜人は意外と戦闘に負けた際には変に潔い。勝者には勝者、敗者には敗者へのルールが意外にもハッキリしてるんだな。

 例えば俺が貰ったこのドワーフ製っぽい魔法金属の棍。俺が奪っても緑コボルド達は叫び声一つ上げやしない。コレはいわゆる“戦利品のルール”だ。勝者は負けた者から奪う。持ち物――あるいは命を。

 仮に俺達が負けた場合は俺と親父辺りが捧げ物としてチェ山脈まで連れ去られることになってたかもしれん。

 それともう一つが“延長戦のルール”。コレも勝者側の権利で、もう一戦交える…あ~簡単に言うと、『やっぱり君達を皆殺しにしま~す』宣言に近い。さっき、俺が得物である棍棒を正面に立つコボルド達に投げつけた場合は殺し合いの延長を意味する行動になってしまっていた。

 だが、俺が横または背後の投げた場合は『もう帰ろうよ?』宣言となって試合終了・現地解散の提示を意味するってわけだ。この作法についてはガキの頃から親父やプウ老人に習っているので抜かりはない。

 それと最後に今回の元凶である赤コボルドにトドメを刺さなかった一番の理由。それは狂信者達のリベンジを避ける為だ。

 厄介極まりないことに、ドラゴンを神とする狂信者はコイツだけじゃなくて結構数が居るらしく、その多くはチェの中腹以上に居住しているという。

 言うまでも無く、経験値稼ぎのような目的で俺達にちょっかいを出しに下山してさらに手下の緑コボルド達まで巻き込んだコイツよりも数段強い個体ばかりだろう。そんな奴らに今度は複数で村までお礼参りにこられたら流石にヤバイんでな……生かして返せば恐らく高位の狂信者からの修行でこの馬鹿も暫くは下山してくることはないだろうぜ。とのプウ老人の意見でした。

 ――おいおい、生まれてまだ異世界人生十五年の俺がそんなことまで知ってるとでも?


 さて、なんだかんだ言って俺の身振り手振りが伝わった気がする緑コボルド達は、未だアヘ顔(多分)の狂信者を抱えて大人しくツェの方へ帰っていった。

 ま、アイツだって逆らえずに仕方なくこうしてやってきて――オマケに準家畜まで全滅させた相手と戦いたくないオーラ全開だったしなあ…ちょっとだけ緑コボルド達には同情するな。


「お~い。クラウスよお、コッチも頼むわ」


「へぇーいへい…」


 俺は放血して簡単にバラして皮を剥いだリーチ・リザードに触れる――とほぼ同時にその肉塊に霜が付き、凍り付く。


「お~…! 相変わらず魔法だけはすげぇなあ」


「……魔法だけ・・、は余計だろうがよぉ」


「よし! それで全部だな? 引き上げるぞっ!」


「「おうっ!!」」


「いやぁ~…思わぬ収穫だったなあ? 南の森に行くどころか、モンスターが山から下りてきたなんて聞いたときにはどうなるかと思ったがよ」


「これだけ肉が手に入りゃ、カーチャンに尻を叩かれずに済むぜ~」


 俺達もまたコボルド達を見送るまでもなく、村へと引き揚げていた。

 …予定は変わったが、結果は上々。

 皆して剥いだ皮を背中に被って背負い、両手に俺が凍らせたリーチ・リザードの肉を抱えている。

 なんてったって、二十匹以上のリーチ・リザードの肉が手に入ったんだからな!

 やったぜ! これならリュカにも腹一杯に肉を喰わせてやれる…っ!

 ………ぶっちゃけ、妊婦さんにキワモノに近いワニ?トカゲ?ナメクジ?てかモンスターの肉って如何なものか…とも思うけども、この世界の住民はとってもタフネス。というか文化的なもんなのかそれとも医療技術の拙さなのか、妊婦相手だろうと一切禁煙も禁酒も言われない世の中なんだけどね!

 まあ、どっちもサンドロックじゃあ簡単に手に入らないけど…。


 そういや説明を省いてたが…肉を冷凍させたのは俺の魔法<氷にチル>によるものだな。レベル1の氷魔法で一応は雷属性と同じ上位属性なんで結構レアだったりする。

 何故に使えるのか?

 ハハハ…まあ俺の数多い失敗談でしかないんだが、あれはそう二年前…。

 俺が一番イキっていた頃でな?

 村の皆の目を盗んでチェの麓近くまで単独で出掛けた時だった――道中、急に凍えるような風が吹いて俺が慌てて周囲を探ると…いつの間にか近くにが立っていたんだ。

 それがどえらい別嬪さんでさ? しかも……滅茶苦茶巨乳だった。

 まあ敢えて言うまでもないけど人間じゃあなかったけど。だって、透けて向こう側にツェが見えちまったからなあ。

 ただ、何とも言えない包容力に思わず包み込まれて――そこで俺は意識を失っちまった。

 

 気付いたら、リバーサイドの西村、呪い師の婆さんの小屋の中だった。

 俺が目を覚ましたら直ぐ目の前に涙をボロボロ零すリュカが居て――その後は顔が腫れるまで数十発しばかれました。


 俺がエンカウントしてしまったのは氷の貴婦人とも呼ばれる上級アンデッドのレイス・クィーンの変異種だったらしい。

 とんでもないほど強いモンスターでツェに長年居付いている正真正銘の化け物なんだと聞かされたよ。

 偶にフラっと村近くに出現しては気に入った若い男を氷漬けてにして攫うとんでもない地雷女だった。

 だが、何故に俺は助かったのか?

 ………リュカのお陰だった。

 俺がコッソリと村を抜けるのを見ていて、心配してシンベルと他の従者と一緒に追いかけてきてくれたんだそうだ。

 で、俺がアッサリとフローズンされてる様を見て慌てて炎魔法を数人で使って怒れる氷の貴婦人をツェと追い払い、俺は呪い師の婆さんのもとで絶賛解凍中だったわけだ。

 そりゃあん時は村全体から説教されたよね。

 だが、ほぼ断続的に泣き喚くリュカからビンタされる俺への説教はだいぶ軽減されたようだった。

 で、その翌々日辺りから俺はほぼリュカから公式ストーキングされるようになってしまったという心温まるストーリーでした。まる。


 俺はそんな事をふと思い出しながらふとニヤケてしまい、隣をノロノロと歩いてやがったトンチンカン三兄弟から引かれてしまった。


「クラウス。その…魔法の杖なんだろ、ソレ? どうすんだ?」


「んんー? 一応はレベル1の雷魔法が使えるんだけどな~。どうすっかな~」


 正直、この棍の魔法を身体で覚えてしまった今となってはそこまで手元に置いておきたいわけじゃないな…。


「いや、小僧。そりゃ恐らく、ドワーフ辺りと取り引きした青コボルドから無理くりぶんどったヤツだろ…魔法金属製といい、デザインといい…」


「爺さんもそう思うか? まあ、どうせそこそこの値打ちはあるかと思うから男爵様に献上するよ。俺達の為にこさえちまった借金返済の足しにでもなればいいけど」


「ちげぇねえ」


「「…………」」


 俺はクルクルと手にした棍を回す。

 それを何やら思惑有り気な視線で見やる三人組+α共。


「も、もしかしたら…僕も雷魔法……使えたりして……な、なあ。ちょっとだけ触らせてくれないか」


「…別にいいけど? ホラよ」


 セバスの奴、意外と魔法に憧れがあるタイプなのか?

 棍を渡されて嬉しがるセバスの周りに他の村の男も「俺も俺も」と群がってきた。


 俺はそっとソイツらから距離を取った。


「…言っとくが、その魔法――発動すると、ランダムな対象一つに雷が降ってくるからなー。恐らくセバスの周りに居る奴が対象だぞー?」


 その俺の一言で群がっていた奴の脚がピタリと停まり、示し合わせたかのように四方に散っていく。面白れぇ。


「あ。因みに魔法の発動に失敗すると自分の頭の上に降ってくんぞー?」


「うひゃ!?」


「おわっ!? 危ねえだろがセバスっ! 壊れてさっきの雷をぶっ放したらどーすんだよ!!」


 悲鳴を上げたセバスの奴が地面に魔法金属の棍を放り投げたのを皮切りに村に向って逃げ出す男達を見て俺とプウ老人は笑い声を上げていた。


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