Level 0.6 ドラゴンの信奉者との決闘
「すっかり待たせちまって…機嫌が悪くなったか? なあ――ドラゴンの信奉者さんよ?」
「ギィ―…ゲィー…!」
まあ、そう言ってみたものの…全く言葉が通じた試しがないんですけどね?
目の前の赤い鱗に白い塗料で
…いんや、笑ってる、のか?
その爬虫類と同じ大きな金色の眼からは人族と同程度の感情を読み取ることは叶わないが、その明け透けな
「おい、クラウス。流石に
「……いや、親父。ここは俺に譲ってくれ。赤コボルドは十中八九、魔法を使う。しかも、炎魔法だ――少し、親父とは相性が悪いだろう?」
「そうだぞ、グラス。ここは坊主に任せたほうがいいぜ? んにゃ、それしか選択肢がないってのが正しいかもな」
「む…」
剣を携えた親父が構えを解いて対峙する俺と赤コボルドから後退る。
まあ、親父には悪いがな? 親父は物理への防御に関しては良いんだが、魔法に関してはハッキリ言って弱いんだよなあ~。
親父の<鉄像剣士の加護>はあくまでも
加えて言えば毒や麻痺とかの状態異常にもてんで弱いことも問題だな。このサンドロック自体がモンスターの宝庫みたいなもんだし、厄介な魔法を使ってくるヤツは結構いるからなぁ。
だが、それ以外の理由で親父に引いて貰った理由もある。
流石にプウ老人は空気を読んでくれてたが――何故、この赤コボルド以外の緑コボルドは“攻撃してこない”のか?
それはこの戦闘行為の目的そのものが俺の目の前の信心深い赤コボルドによる半ば強制的なものだからだ。緑コボルドは赤コボルドの被支配者たちだからな。
そして、その支配者はどうにも俺と
まあ、親父が微妙にまたむくれてんのは…俺がサシの相手に選ばれたってところか?
なんせ、このドラゴンの信奉者は下手な人族よりもプライドが高いと聞くんでな?
つまり、この中で俺が一番
まあ、どうにも生贄に選ばれてしまった俺が戦わねばこの場は収まらんだろう。それに、そもそもコボルド族は人族憎しと俺達を滅ぼしにツェから下山してきたわけではないのは明白だしな。
恐らく、俺のようなちょっと
…が、気に掛かるのはコイツが持ってる棍に填まってるあの魔石だ。
見た事が無い色合いだな――恐らくグリーンか……なんの属性だろう? このサンドロック領で普段見掛ける魔石なんて基本的にオレンジの炎属性とスカイブルーの風属性くらいだし。俺が他に知っているのは、ホワイトの毒属性。ライトイエローの麻痺属性。ダークブルーの水属性。オリーブの地属性。ターコイズの木属性。ピンクの精神属性。ダークレッドの治癒属性…それと強化属性と衰弱属性もあるが、この二つに限っては魔石の
というか、今挙げた各属性が魔法の基礎というか、“下位属性”に該当するものだからして――この野郎が自慢気に振り回しているのに嵌っている魔石はそれ以外…即ち、その強力さに比例して適性を持ち、使える者が少ないとされる魔法属性群“上位属性”の何れかかもしれない可能性がある。
いや、あの棍から感じる魔力量だと…その可能性は決して低くないとすら思えるな。油断できんぞコリャ…。
「ンゲァアアアアアッ!!」
だが、俺が武器を構え直すままに狂信者の低い金切り声と共に一騎打ちが開始されてしまった。
棍による攻撃ではなく、それを持つ逆の手が俺に向って伸ばされた。瞬時に理解不能な言語による気合の掛け声と共にその掌に明滅する
「はっ! いくら炎魔法が自慢だからって速攻で魔法かよ? ――だが残念でしたってヤツだ…なっ!」
相手が俺に向って放った魔法に向って俺は棍棒を盾の裏手に握り込みながら、空いた手を向けて
バァン――ッ!!
放たれた魔法同士がぶつかり合い、空中で盛大に爆ぜる。
どうやら、同程度の
俺とヤツが放ったのは<
無論、俺が今さっき使ったのは最低威力で放ったもんだ。まあ、アチラさんも同じ考えだったんだろう。
…本気でやってアレなら、俺の親父でも楽に倒せるレベルだけど。
「ムギィエーーーーッ!!」
おっと、俺が魔法を使ったのに驚いたのか、それとも自慢の炎魔法をアッサリ対処されたのが悔しくて単に怒ったのか?
狂信者が左に右にへと跳んで俺と距離を取ると、今度はさっきの魔法を連発して放ってきやがった。しかも、先ほどの火球より明らかに威力が増している。
別に俺も魔法で応酬してやってもいいんだが――俺は自らの肉体に魔石を持つヤツと比べて、その魔石分を倍HPを消費することで肩代わりしてるだけだ。付き合うだけ損というものだ。
俺は当たると炸裂してしまうので、火の玉を避けながら距離を詰めていく。その光景を目にした
……ほう? この魔力量からして中範囲から広範囲の<
レベル3の同じく炎魔法だ。俺もコレは既に別の炎魔法を使うモンスターとの戦闘で実際に喰らって覚えている。…あん時は範囲が見切れなくて、躱しきれずに背中を火傷して結構酷い目にあったなあ。
が、その経験が生きる! 俺は素早くバックステップして魔法の予想攻撃範囲から離脱した――のだが、何か嫌な予感がするような…。
……その時、狂信者が嗤ったような錯覚を見た。
「坊主っ! 気ぃつけろ!!」
「いかんぞクラウスっ! 止まるなっ!? 炎魔法
後方から二人の叫び声が聞こえるが、コッチはそれに反応できねえっての…。
狂信者が
魔力の属性変換!? やっぱり魔法の杖の類か…!
「ギャギャギャッ!!」
叫びとも嘲笑ともつかない声と共に突き上げられた魔法金属の棍が文字通りに光る。
ズドンォオァオン…ッ!!
空中から突如現れた一筋の凄まじい破壊の光が俺目掛けて振り下ろされた。
「クライスぅっ!?」
親父が叫ぶが、俺は既に地面に
「ギャァーゴォォオオオッ!」
「お、おのれ…! よくも俺の息子をっ」
「……おっと待てよ、剣馬鹿」
プウが敵討ちだとばかりに前に出ようとした親父を止めた。いや、止めてくれてよかった。
流石に頑丈な俺の親父でも、炎魔法ばかりか…
「――ギャア?」
「…くぅぅぅうううう~っ! 効いたぜぇ…コレが雷魔法かよ。恐れ入ったわ…」
俺は痺れと雷で灼けてしまった右手を庇いながら立ち上がった。
いや…割とガチで危なかった。
まさか、あのグリーンの魔石…上位属性の雷属性だったのか。
アイツが使った魔法はレベル1の雷魔法の<
…え? 何で初めて見た雷魔法にそんな詳しいのかって?
そりゃ、
「ギャギャ…!?」
おうおう、流石に喰らった相手が生きてるとは思わなかったか。
ここは俺も仕返しとばかりに雷魔法を使いたいが――無理だな。
さっきの魔法…直撃じゃなかったけど、身体の調子具合から考えてHPの五割近くを持ってかれちまった。直撃してたら…一撃で
あの一瞬――俺は咄嗟に手にあった棍棒を高く放り投げた…つもりだったが、地面に転がる俺の黒焦げになったその棍棒が避雷針代わりになってくれたお陰で直撃は避けれたが感電は流石に免れなかったな。たかがレベル1の魔法だが高位属性は伊達じゃあないってことかね…。
まあいいや、この際…新しく手に入れた雷魔法は後で色々と試そう。
「さて、リベンジさせて貰おっかなぁ~?」
「おい坊主! 無理はするなよっ!」
プウはそう言うが、件の狂信者は自慢気に手にした棍の魔法も凌がれて自尊心がズタズタだろう。今度こそ俺の息の根を止めてその傷を拭おうと襲い掛かってきた。
まあ、コッチは結構な具合にボロボロだし、得物も使えそうにないんだから勝てると思うか…。
俺を仕留めようと突進する狂信者に向って手にしていた盾を外してフリスビーの要領で投げつけてやった。
俺の思わぬ悪足掻きに激昂して棍で盾を叩き落とした――ことで隙が生まれちまったなあ?
俺は目を大きく見開く狂信者の顔の前に盾を投げて
「――御返しだぞ?
「ンギャァ!?」
俺の手からドライヤーの何十倍の勢いで風が吹き出し、空気の塊が怯んだコボルド面を正面から叩く。
レベル1の風魔法<
俺が放ったこの魔法を奴が咄嗟に防ごうとして前に出した雷魔法の棍が風圧に負けて後方へと吹き飛んだ。ホラ、使える。
「イィィィ~…イギュアアアアアアッ!!」
棍を失ってワナワナと震えた狂信者が遂に怒りの頂点を迎えたいう雰囲気で、もはや構うかという勢いで俺に肉薄すると俺に向って大きく、いや裂けるほどに口を開いた。
既にその口内には眩しいほどの白熱したオレンジ色の光が溢れそうになっていた。
「ブレスだっ!?」
俺の後方に位置する村の男達が一斉に叫んでどよめく。
<属性ブレス>は各属性魔法のレベル5に該当するといわれるモンスターの正真正銘の切り札だからな。その威力と範囲は相当なもので、俺の後方に控える者も攻撃範囲内に入るだろう。間近で喰らう俺は勿論、タダでは済まない。
「
…コイツも自棄になったんだろうなあ。俺が炎以外にも他属性の魔法を魔石無しで使える危険性を冷静に考えられたら、こんな大技は使わないはずだ。
いや、レベル5相当が使えるってんだから――自分のプライドを優先しちまったってとこかね?
「
俺は勝利を確信し切っていた狂信者の口の中に一発魔法を放ったあと叫び声を上げつつ頭を抱えて地面に伏せる。
その直後、鈍い光と共に凄まじい爆発音と水蒸気が場を覆った。
俺が立ち上がって、辺りを見回すと歯や鱗など色々なものが吹き飛んで白眼を剥いて倒れている赤コボルドの姿があった。
俺が使ったのは基礎五属性魔法の一つ…別名、生活魔法とも言われる一定量の真水を魔力から生成する<
「炎属性は――水属性に
当然返事はなかった。
魔法において、水属性は炎属性を打ち消す。ただ、炎属性のレベルが水属性を上回っていた場合……急激に蒸発した水の魔力が逃げ場を求めて暴走する、いわば水蒸気爆発と似た現象を引き起こすことがある。
俺は単にそれをコイツの口の中でやったってだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます