Level 0.53 コボルド撃退 その3


「ギュオォッ!」


 見た目に反して甲高い不気味な叫び声を上げながらリーチ・リザード共が地面から跳んだ。その飛び掛かった先は俺の親父だ。


 そりゃあ、親父は剣しか・・・使えないからな。


 涎なのか何なのか謎の液体を口からダラダラと垂れ流して親父に襲い掛かるのは三体。

 ――だが、当の親父は手にした愛剣を頭上高く構えたまま微動だにしない。当然だが、そんな隙だらけの親父に容赦なくリーチ・リザード共は齧り付く!


 しかし、その獰猛な牙が親父の皮膚の下から奥へと突き刺さる事はない・・

 ただ、あぐあぐとまるでじゃれついたペットが飼い主に甘噛みするかのようにも見て取れるが……如何せん、絵面が最悪だな(笑)


「……コイツらの口の中は酷く臭い。――っちぇいやぁ!!」


「ギュビバァッ!?」


 暫く好きなようにさせていた親父だが、その三体を身震いと蹴りで振りほどくとそのまま上から振り下ろした剣で三体まとめて地面へと向かって貫いた。

 相変わらずとんでもねえ力技だな。


「全く…あの剣馬鹿の戦い方はなんつーかよお、見てるコッチがヒヤヒヤすんだよなあ~いや、違うか? 呆れるだな」


「プウの爺さんよぉ…あんま言わないでやってくれよ? 意外と親父気にするんだよ…」


 どうして俺の親父ことリバーサイドの一村民であるグラスがこんなハチャメチャな戦い方ができるのか疑問に御思いだろう? アレ、思わない?

 それはそれで大いに結構だが、普通なら盛大にあのキモイ大口トカゲに噛み千切られてお陀仏なんだからな?

 俺の親父は確かに元は外領を渡り歩いていた傭兵で剣士の腕もそれなりにあるんだろうが――あんな戦いができるのは、俺の親父が加護・・持ちだからだ。

 その加護は<鉄像剣士の加護>という代物だ。

 加護の効果は、“剣を装備している間だけ自身の防御力を鋼鉄に等しいほど上昇させる”というもの。

 武器選択が剣だけとは限定的だが、その有用性は見ての通りだな。

 転生したばかりのガキの頃、木剣を持てる齢になった俺に好きなだけ無抵抗な親父に打ち込むという稽古を始めた時には、俺はとんでもなく強い戦士の息子だと思い、とても誇らしい気持ちになった。

 だが、直ぐに近くで顔を顰めるプウ老人から強過ぎる・・・・親父の加護のネタバレをされてしまう。

 話を聞かされた後、寝る時以外は家の中でも剣を手放さない親父の姿がちょっと情けなく思えてしまったいう昔の話だ。

 ま。だからと言ってこうして物理戦ではほぼ無敵を誇る親父を卑下することなどない。家族や村を守るために戦っている親父は――むしろ、誇らしい。


 さて、じゃあ俺も親父に続くかい!


「ギュビビィ!」


 俺が前方へと駆け出すと早速、リーチ・リザードが面白いように釣れる。

 所詮、コイツらは単純に近くの人族を優先して襲い掛かるだけの単細胞だしなぁ。


「おらさァっ!」


 俺はリーチ・リザードが飛び掛かるタイミングに合わせる。

 まるで、野球のバッティング練習のようにな!

 ……いや、ゴメン。実際にやったことないけど(笑)


 ボキョッ。


 俺の振るう棍棒の一撃がリーチ・リザードの無駄に長い顎をバラバラに砕く。


「ふンッ!」


 すかさず別方向から跳んできた別個体を盾で防ぎ、そのまま盾で地面へと激しく押し付けた後に棍棒でトドメを刺した。

 まあ、実は俺も戦闘前から既に覚えてる魔法で棍棒と盾を強化・・してるんだけどな? じゃなきゃこんな簡単に一撃で仕留められんよ。

 このリーチ・リザードだけじゃなく魔獣型のモンスターは結構しぶといからな、通常ならこんな単なる木の棍棒と盾だけじゃ流石に厳しいだろう。


 …親父がまあ、剣しか俺に教えられなかったってのはあるが。結局、弓をプウ老人。槍をシンベルにも習ったが――紆余曲折を経て俺が辿り着いたスタイルは何とも原始的な殴打武器と盾というスタンダード・ストロングスタイルだったわけです。

 あと、何で棍棒なんてものをチョイスしたかってーと…剣って武器自体がちょいと些末な理由があって使い辛そうだし、単に刃こぼれや刃武器は折れ易いからって理由からだな。

 一応この異世界では長物…つまり槍がベスト武器だとされているらしいから、俺と親父とプウ老人以外は基本得物は槍となっている。


 おっとと…そんなことよりも、意外と他のヤツが俺をスルーしようとしやがるなぁ~? ――どれ…。


 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 俺は手にしている的模様が描かれた盾を棍棒で叩いた。

 別に、興奮のし過ぎで俺の精神が野生に還ったわけじゃないぞ?

 

「ギュピ!?」


 ほら釣れた。視覚の無いコイツらを音で呼び寄せる為だったのさ!


「うはは! 相変わらずグラスの息子はなんつぅーか…戦い方が粗野・・だよなあ?」


「ああ。まるで北方の蛮族ウインターの連中みたいだよな」


 …………。

 リバーサイドの未来を担う若者に対して、もうちょっと他に言い方はないんか…?

 流石の俺も王国と未だに交戦もめてる状態の連中と一緒にされるのは傷つくんですけど?


「“注意を引いてくれてありがとう”くらい素直に言えよな! この偏屈オヤジ共めっ!!」


「ギュビャアアア!」


 俺はその鬱憤を寄って来たリーチ・リザード共にぶつけた。

 へん。こんなのが相手じゃ俺の攻撃魔法は使うまでもねえかな?

 追加で五匹が俺の手によって上半身ミンチになった。

 

「おい! 坊主っ!!」


「んお? どうよ爺さん、一気に七匹仕留めたぜぇ~?」


「はあ~。…後から村の女達にどよされてもしらんぞ?」


「あ゛」


 ――やらかした。

 リーチ・リザードは…立派な今日の獲物だった…!

 つまり、俺がやらかしたコレらは村で待つ女達が処理することになる。


「わああああっ!?」


「助けてクラウスぅ~!?」


 俺がショックで半ば戦闘中だというのに現実逃避を始めた矢先、後方から情けない悲鳴が上がる。

 振り返れば俺と親父の間を抜けていったリーチ・リザード相手に槍を振り回すガストンとセバスチャンの姿が…はぁ~…あいつらこんなんで過酷なサンドロックで生きていけんのかね?

 

 ここはちょっと厳しくいこう、悪友仲間の為だ。


「落ち着けっ! ――●ェット・●トリーム・アタックだっ!」


 俺の声にハッと我に返ったトンチンカン三兄弟。

 暇な時にアホのように練習した縦一列・・・に並ぶ攻撃陣形に移行した。

 先ず一番大柄のガストンが後方の二人を背に隠して仕掛け、その後にセバスチャンが追撃及び先行したガストンと後方のダンカンを支援する。

 そして一番後方で戦況を把握し援護・トドメ役となる完璧な布陣だ!


 ……あっ。


「忘れてた。そいつ、そもそもが無いからあんま意味ないかも?」


「「おぉいっ!?」」


 しまった。俺が余計なツッコミを入れたせいでガストンとセバスチャンが盛大にコケてしまった。芸人かな?


「こうなりゃ自棄だぜ!」


「うりゃー!」


 二人の虚を突く行動に思わず跳び上がった気の毒なリーチ・リザード目掛けて何とか体勢を立て直したガストンとセバスチャンがほぼ同時に左右から槍を突き出した。

 お。結構いい感じなんじゃないか!?


「ギュシュアアアアアっ!!」


「うひぃ」


 ダメか…腰が引け引けだったもんなあ。

 突き入れた槍が浅い。

 まあ、実戦にまだまだ不慣れな二人ならこんなもんだろうし、そもそも俺のように強化魔法を掛けてすらいない細い槍でそう簡単にコイツらを仕留められんしね。


「ダンカン!?」


 叫んだのガストンか。

 ダンカンの奴は――やはり二人とは比べるまでもないな、攻撃に迷いがない。


「ギッ――!?」


 ダンカンは無言無表情で槍をリーチ・リザードの口の中に突き入れた。

 その瞬間、ダンカンの身体が一瞬光ったかと思えば槍先が完全にリーチ・リザードの背から突き出て貫く。


 ――致命的な一撃クリティカルヒット

 貫かれたリーチ・リザードは、もがくことなく絶命したんだろう…。

 これがダンカンの持つ<大当たりの加護>の為せるものだ。

 その能力がギャンブルのようなものなのかどうかは俺も詳しくは知らないが、非情に頼もしいと思いつつも――ダンカンさえその気になれば、俺の親父を倒す・・ことも可能かもしれない恐ろしい能力だと俺は考えていたりもする。


「お~? やったぁ」


「おおっ!? すげえ!? すげえぞダンカンッ!」


 当の本人はこんな時でも平常運転だが、な。

 他にも俺と親父が打ち漏らしたリーチ・リザードは粗方プウ爺さんと村の男達で仕留められ、俄かに勝鬨の声すら上がりそう…


「ギャースッ!!」


 ゴィン――ッ!


 咄嗟に楯を頭上に出さなければ…そもそも盾を魔法で事前に強化し、かつ保持していなければ盾ごと砕かれて…その金属質な音を響かせるブツで俺の頭が勝ち割られていただろう。


「そういぁ…すっかり忘れてたぜ。お前・・がまだいたんだっけな? 一番厄介なお前が――」


 防いだそのままに力任せに相手を空中へと圧し飛ばして睨む。


 全身は赤い鱗に覆われ、爬虫類そのものの瞳孔は狂気の金色に染まっている。

 俺より一回り小さいながらもそのトカゲ人間――赤コボルドの白い塗料でペイントされた肢体は脈動する筋肉がパンパンに張っていやがる。


 自身らの荒ぶる神であるドラゴンを祀る狂信者。

 その手には黄金――ではないな。鈍いオレンジ色を放つ…魔法金属の棍、いや杖が握られていた。


 …その見事な杖には強い魔力・・が漲っていたのだ。


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