Level 1.32α 適性検査 その2



「わかりましたっ!」


 朝っぱらからイキナリ上司から某中学生に殺し合いさせちゃいました映画みたいな事を言われたけど、そこは体育会系のノリで応えとこう。

 まあ、俺ってば小中高通して帰宅部でしたけど何か問題でも?


「良しっ!」


「「良しじゃねえ!?(じゃないでしょ!?)」」


 だが、俺の返事に満足気な女巨人の足元に居た二人の人物は即座にシンクロナイズドツッコミを入れる。そりゃそうだろうが、実に仲が良いことだな。


「あぁ? お前らな…これから後輩になろうっていう奴の前でそんな気合いの抜けたことを言うんじゃあねえよ」


「サブマス! 今日は彼の適性検査で私達は呼ばれたんですよね?」


「全くだぜ。バーバラの姉御も相変わらずだが…コイツもコイツで、癖が強ぇなあ……」


 右の足元にはローブと簡素な杖を持ったメイジの女だった。メイジの特徴的な真っ青な肌と髪。ほぼ同色なので、額から毛髪の境目が曖昧でどうにもSFチックな見た目に感じてしまうんだが歴とした俺と同じ人族の血種。ただ絶対数が少ないので見掛ける機会もその分だけ稀有なわけだ。後、青っぽいのが普通らしいが青緑だったり紫っぽい体色の者も若干名存在するみたいだ。現に俺の生まれたリバーサイドの呪い師のガープ婆さんは紫色だからな。


 ……それと彼女がメイジたる証拠である魔石・・が胸元に埋まっている。

 メイジは生まれながらにして魔法使いだ。そして、魔石を体内に生成するものはモンスターを含めて、平たく言えばHP以外にMPを持っている。要するに自身の体力を消耗せずに魔法を行使できるわけだ。だが、それと引き換えにその魔石に宿った属性の魔法のみしか扱えないらしいな。

 彼女の胸元のややハート型にも見えなくもない魔石の色は――ダークブルーと、漆黒・・だ。つまり、双属性使いダブル

 スカイブルーは水属性だが、もう片方は恐らく……。


「…おい。意外とスケベ野郎だな」


 俺がはたと視線を戻せば、俺に声を掛けたらしい人物の姿が目に入る。メイジの女とは対の位置に立つ全身鎧姿の恐らく声からして男だろう。最重装のフルヘルム・フルメイルに、恐らく同素材の大打剣と大盾を手にしている。ガチ過ぎるだろ…。


「あらぁ~。仕方ないわよ? 私は魔法使いとしても女としてもそれなりに魅力的だもの…」


「はっ! どーだかな」


「あのな。お前らあんまりコイツを軽く・・見るんじゃねえ。こんな冴えない顔してやがるが、かなりの魔法の使い手だよぉ。それに腕っぷしも大したもんだろう。……なんせ、あの“早撃ち”を仕留めたのは――コイツだ」


「あ? 何だって!?」


 バーバラさんのネタバレにヘビーアーマー野郎が何故か過敏に反応を見せる。何だってんだ?

 それに遅れてメイジの女が「へぇ~」などと俺にやや挑発的にも感じるような視線を向けてくる。


「さって、と…改めてクラウス。もうジャッキーの奴に言われちまったがよ。お前の冒険者としての適性を調べる。まあ早い話、オレの部下でもあるこの二人とどこまでやれるか見せて貰う」


 ふむ。実技テストか…まあ、ここで筆記テストやりまーすとか言われたら俺は全力で逃げなきゃならん。ぶっちゃけ、サンドロックは自分の名前以外を書いたり読むことが難しい者が圧倒的多数だからだ。一応は教育機関も兼ねている教会なんて無いし、そもそもガッコも義務教育なんてものは無かったしね! 国語と算数とかより狩りとかが必修科目な土地だからな…。


 …正直、今後生まれる俺とリュカの子にはちゃんとした教育をしてやれるかどうか、不安だ。嗚呼っ…前世での俺の両親が俺に向けていた気持ちの一端が理解できるような気がして非常に切なくなっちまったぜ。


「んん? なんか急に元気がなくなったように見えるが、やって貰うぜ? なんせクラウス、お前さんにはどの部門からでも二等級・・・からやらせるっつー破格の扱いだからなぁ~」


「「………はあ!?」」


 またもや足元両名からバーバラさんへの言葉に対するツッコミ…いや、アレはツッコミじゃあないか? というか二等級ってなんぞ?


「あの~? 二等級ってのは…?」


「そうか、お前自身は辺境伯か男爵から何も聞かされてないのか? そりゃ可哀想に。結局のとこ、お前もギルドマスターのいい玩具にされてるだけなのかもねぇ。まあ、今後の身の振り方を考えるのにも必要かぁ。だがそれも今日の結果次第だな」


 …良く判らないが、一応その場で等級の説明を受けた。

 等級ってのは各部門毎に設けられている、いわゆる冒険者にはお決まりのランク制ってヤツだった。

 全部で十三段階あって、最下級から…四・鉄・下・三・銅・中・二・銀・上・一・金・超・王となる。

 因みにバーバラさんは元超等級だという。なんか知らんが納得だ。

 最上級の王等級だが過去に二人のみ。その一人は王族の一員として迎えられている。つまり、王族と変わらない権威を約束されちゃう人間辞めました系クラスということだ。と、俺は勝手に論じた。…というか、この目の前の女巨人よりも上とかさあ? 多分だけど俺と同じチート持ちだった可能性、大いに有るな。


 で、両名に激震が奔った理由が俺が二等級で冒険者ライフをスタートさせるということだったわけだ。本来なら俺は有無を言わさず四等級から始めるのがギルドの常識であり、それなりの訓練期間とギルドからの雑用。適性が認められるまでの期間として設けられた見習い冒険者としての四等級・鉄等級・下等級を経て、冒険者としてのスタートラインとされる三等級に至る――という過程を吹っ飛ばすどころか、更に昇級に数年以上の月日を要するはずの銅等級と中等級もホホイと飛び級してしまうのだから驚いた!ありえないっ!横暴だっ! ってことらしい…。

 そもそも何で俺が二等級からなのか? それが実力相当なのかなどは俺には判らないが、酔狂で提示される案件でもないようだし……それが俺が王都で冒険者として活動する条件の一つなんだろう。


「…がっ! オレ的にゃあ、いくらギルドマスターと辺境伯からの推しがあってもだ。はいそうですか、とはいかねぇんだ。わかるよな?」


「はあ…」


 まあ、なんとなくだけど。それに左右のメイジと鎧からのプレッシャーもかなりのもんだ。納得できねえぜオーラがビンビンだし。


「別にお前を弱っちいなんてことは思ってねぇが。実力をこの目で見てみないことにはな…で、だ。先ずは純粋な戦闘技能を見る。つーことで魔法は禁止な? それと殺し合えとは言ったが言葉の綾だ。それだけ本気でやれってこったぁ。んで、首から上は武器による攻撃も禁止。急所もできるだけ狙ってくれるなよぉ」


 えぇ~? そう言われてもさぁ…。


「……俺、布の服にナイフ一本なんですけど?」


 どこのゲームの初期装備だよ。そもそもこんな装備じゃ序盤の雑魚と戦うのにすら勇気がいるだろって話だ。

 

 そんな折にギルドの方からヒーヒーと小さな悲鳴を上げながらヨタヨタと何者かが走ってきた。


「お? ナイスタイミングじゃあねえか!」


「フヒー。朝イチでやっきましたよ~…それで? このメイスと丸盾はどなたに?」


 それは俺が昨晩預けたメイスとトゲ付きのラウンドシールドだった。ピッカピカじゃねえか!? おいっ!

 まるで新品みたいだ。今迄誰かのお古しか使ってこなかったから素で嬉しいんだが?


「あ。俺でーす!」


「フハー。重かったですよぉ~」


 俺の得物を返してくれた彼…彼だろう? まあ、サンドロックを出て初めて目にする種族はそれなりにいたと思うが、彼もまたその一つだろう。

 ハーフリングと呼ばれるこの異世界のメートル単位にも使われるモンスター。いや、それは昔の人間の勘違いで彼らハーフリングはラミアやケンタウルスなどの半獣半人に類する亜人族だ。約百年ほど前に正式に親性亜人(共存可能な亜人種の意)として認められたとかなんとか。単位に使われる通り、成人を迎えてもその全長は幼い子供のそれだ。とても愛らしい見た目で思わずギューっと抱きしめたくなるな…。


「ベホさん。急な用件を叶えて頂きありがとうございます…」


「…あ、あんな脅しを掛けておいてぇ~。まあ、まだ鎧の方は時間が掛かりますけどね? 付着した血が結構酷くってですねぇ~」


 すいませんでした。一応、少しは手入れしてたつもりだったんだがなあ…。


「ありがとよ! ベホ!」


「ぎゃ! さ、サブマスぅ…」


 文字通り既に俺の心のマスコットと化したベホ君が女巨人に取って喰われそうになっている。助けたいが…唯々、自分の無力さが悔まれる。


「…あ。そうだ、サブマス。ベホさんに何か御礼をしなくてはいけませんね」


「おう? ピエット。何かあるのかぁ?」


「はい…フヒヒ。いや、彼はサブマスに高い高い・・・・をして欲しそうでした、から?」


「うぉおい!?」


 邪悪に微笑むピエット嬢の言葉にとても良い笑顔を浮かべたバーバラさんは母性を爆発させたかのようにベホ君を天高く打ち上げ、その度に可哀想という感想しかないハーフリングの絶叫が響き渡った……。


 這々の体でこの訓練場…というか、ニコニコ顔の恐ろしい女巨人から生還したベホ君を見送った後、改めて仕切り直しとなった。

 預けた鎧がまだメンテ中だという事で代わりの紐で結わえただけの簡素なプレートの肩当て・胸当て・小手・脛当てを貸して貰って俺は身に着けている。


「さて、先ず先にお前の相手をするのはコイツだよぉ」


 バーバラさんに巨大なつま先で小突かれた鎧が背後を恨めしそうに見やってから前に出る。


「…俺の名はリーだ。レベルは11。王都の銀等級傭兵だが、一応はギルド職員扱いでもある」


「クラウス……です」


 バーバラさんが部下と呼ぶ相手なら一応敬語を使うか。

 というかレベルか……あんまり深く考えてなかったが、俺のレベルってどんなもんなんだろう? ギルドでは調べられる方法があるって聞いた事あるんだけどな。


「やる前からこんな事を言うのもアレなんだ、ですが…。メイスと盾が手元に戻ってきはしましたが、魔法無しじゃアンタ…じゃなかった貴方とは装備面で勝負になりませんよ? 流石に全身金剛ダイア鋼相手じゃちょっと…」


 金剛ダイア鋼はかなりの硬度を誇る武器防具どちらもイケる上位金属だ。

 その反面、物理と一部の魔法属性には圧倒的に強いが弱点となる魔法属性も存在するから俺が魔法を使えるなら対処も可能なんだが…。


「フッ。冷静な判断ができる――実戦は豊富そうだな?」


 一段階プレッシャーを霧散させた鎧男が苦笑を漏らしながら背後の頭上へと身体を反らす。


「サブマス。こう言ってるんですがね?」


「……まあ、いんじゃね。早いとこ始めちまえよ?」


 テキトーだなあ…。だが、鎧男はその言葉を聞くとズポンと角の無いバケツヘルムを脱ぐ。

 くすんだ金髪の混じった優男の顔がそこにあった。そのまま鎧がどんどんパージされていき、最終的には具足部分を残して全て脱ぎ去った。上半身はチェインメイルらしき鎧下のみのように見える。


「これで対等…ってわけでもねえがな。だが、クラウスとやら。お前は選択肢を間違えちまったようだな?」


 不敵な笑みを浮かべるリー先輩。手にしていた金剛ダイア鋼製の大盾が倒れ、反対の手で地面に突き立てていた大打剣の柄をガチャリと捻ったかと思うとシャリンと白亜の刀身を滑らせる。

 …まさか仕込み? あの片手で扱うには大き過ぎる打剣はそのか…。


「俺はよ……脱いだ・・・方が強いんだぜ?」


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