Level 1.31 適性検査 その1
「なるほどねぇ。その“早撃ち”ディンゴ共が居た野営地の近くに潰れた
「…はい。斧も失敬させてもらった――んですけど、今日の昼過ぎに狩ったモンスターを捌いていた時に折れたんで捨てちまった、です」
「ぎこちないねぇ~? アンタの生まれと違って王都じゃあ結構言葉遣いに厳しいところもあるんだからなぁ? 早く慣れろよ。てか、モンスターの肉を喰うってよ…相変わらず南部の人間は――いや、ブーマー近辺でも畜産業が難しいからって普通にモンスターを食べるんだったか? ウハハッ! オレ達には真似できねえよ! なあ?」
俺は今、冒険者ギルドの三階の一室で慣れない敬語(いや、前世からだけども)を使わせられながら取り調べのようなものを受けていた。
いやしかしだな、隣で超不機嫌顔でガリガリと書類にペンを走らせているピエット嬢に同意を求めている俺の上司であるバーバラ
「……ふぅむ。デニムを超えて街道からおおよそクラウスが言う距離だとすっと。恐らく残り四人の
「開拓村? その割には森の中ってよりはその一部みたいな雰囲気でしたけど。それに他に人っ子一人いなかったし…まさか、俺が倒した連中が?」
そういや、俺を冒険者ギルドへと途中まで連れてきてくれた大男のイサッカとやらもそんな事言ってたような…?
「まっさかよ! 開拓村の連中が野盗化した話なんざ聞いたこともねえよ。グレイムにゃあ元は十も開拓村が作られたってんだが、一番最初に潰れたのがそのパロってわけよぉ。あー…全く森拓きが進まないってんで、大方デニム辺りに逃げちまったんだろうが」
ふーん。なら良かった。てかあんなのが開拓民だったらガラ悪過ぎるか。
「…まあ、ただ。“ベアルの火”の件もある……あの悪名高いグレイムの連中が管理下で起こした
「……ベアルの火?」
なんだそりゃ? ちょっと中二病臭いような…。
だが、俺の問い掛けに対してバーバラさんもピエッタ嬢も渋い顔だ。やや困ったようにバリバリと頭を掻きながら床に直接胡坐をかくバーバラさんが口を開く。
「まあなんだな。これに関しちゃあ、一種の王国の
彼女は俺にこれ以上追及するなと釘を刺すと「よっこらせ」と立ち上がり、自身のショートパンツの尻ポケットから何かをまさぐり出すと俺に投げて寄越した。
……鍵?
「これで一先ず、アンタの調書は終わりだよぉ。ギルドの隣の宿とは提携しててね。三階から上はギルドの借り上げなんだ。今晩はそこで休みな。んで、明日の朝にちょいとした
テスト? 実力試験みたいなもんかな。後は俺が使える魔法とかか?
まあ、それはそれとして…今夜は久し振りに屋根のある場所で寝れる、か。
…それと、できれば早いとこダンジョンか魔法大学とやらに行ってみたいとこだな。俺がこの王都からサンドロックへと行き来できる方法があるとしたら――そのどちらかで解決策が見つかる可能性が高いと俺は思ってる。
「あ。ちょいと待ちなぁ」
俺が取り敢えず頭を下げて部屋から退出しようとしたタイミングで大女上司に止められらた。まだ、何か用事があるのか?
「――脱ぎな」
*
…………。フハッ!? さ、サブマスぅ~何故にこのタイミングでそんなことを?
「何呆けてんだい? 脱ぐんだよ、全部」
はぎゃー!? もうその発言は完全にアウトですよぉ! というかサブマス、男性に興味あったんですか? ギルド内でそういった浮いた話なんて、地獄耳の私でも聞いたことないんですけど…。
「……ああ、なるほど?」
と思ったら今度はあの山賊さん、もといクラウスさんが扉の前で突然ストリップをおっぱじめてしまったんですけどぉ~!?
ハァ…ハァ…い、いけない私としたことが。久々に興奮のし過ぎで動悸が…。ここ最近若い男の人の肌を見ていないもので、つい。最近は忙しくて
ですが、そんな激しい感情のアップダウンを繰り返していた私はジト―っとコチラを見やるサブマスからの視線に気付きました。
はっ! まさか、私を部屋から追い出してストリップ鑑賞を独り占めして楽しむつもりなんじゃ…!? み、見損ないましたよっ!
「イヤラシー奴だなぁ。何を勘違いしてやがる? クラウスのあの装備を見ろ。あんな血糊塗れで王都どころかギルド内をうろつかせられるかぁ~?」
「…あ」
そう言えば、そうでしたね。彼は血塗れ(一部半乾き)でしたっけ。
そして彼も彼です。流石、
「ほほぉ~う? なかなか良い身体してやがるじゃあねぇの(ニヤニヤ)」
サブマス…? 先程、私に言った御言葉ですが物凄いブーメランしてますけど? もうブンブンに戻ってきてますよ?
いや、確かに(ゴクリ)……おっとはしたない。百戦錬磨の私としたことが生唾を飲み込んでしまいましたが、成人したばかりの若干十五歳の身体じゃないですね。
全身を包む発達した筋肉。でもギルドにゴロゴロいる筋肉達磨みたいにゴッツ過ぎないところが実にそそる…じゃなかった見事ですね。
それにアチコチに残る無数の傷痕――多分、モンスターの噛み傷や爪痕。火傷の他に初めて目にしたようなものまでありますね。
……いや、マジで。サンドロックってどんだけぇーって感じです。一瞬で情欲の類が失せるレベルです。ドン引きです。ただ、嫌いではないですね。クラウスさんはあの殺人鬼のような目付き以外はオプション込みで満点でしょう。
さて、お幾らお支払いすれば良いんですか?
「流石はあの世界三大難所の麓に生きるだけある……怖い怖い」
「……別に。俺達にとってはこんなもん当然さ……です」
「ハハッ! キメ台詞も台無しだねぇ。まあいい、その服と装備を預けていきなぁ。得物は明日までには間に合わせる。宿屋とは屋内で繋がってるから外に出る必要もねえから。正面玄関から入って左に洒落た広いレストランがあったろ。そこを突っ切てくと宿屋だ」
あのゴロツキ共でごった返す大衆食堂兼酒場を
ですが、彼はサブマスの言葉に素直に頷くと部屋を出て行ってしまいました。
……ナイフ一本にパンイチで。大丈夫でしょうか――いや、大丈夫でしょう。まだ出会って一時間ほどですが、何故かそう確信できます。
今頃、酒場の冒険者の方もクラウスさんの裸体を震えながら見やっているこどでしょう。まるでどこぞのファッションショーのように。
そんな事を考えていた私の頭上から赤黒くペインティングされた鎧と服が降ってきたので可愛くて、可憐で、可哀想な私は潰れました。
いや、こんな所業を躊躇わない人物はたった一人。というか、普通に考えても室内には私以外にサブマスしか居ませんでした。
「おう。そいつは任せるぜ」
「あにすんだっ!? 書類仕事だけじゃねーのかっ!!」
我慢強い私でも、流石にこれにはカチンッです! ブッチィーンですっ!!
「怒るな。寝不足じゃねーのか?」
「アンタの管理責任能力の無さのせーだろぉー!」
「はあ? なに難しいこと言ってんだよぉ。ハゲるぞ? それによぉ、誰が門外漢のお前にやれせるかっつーの。ギルドに常駐してる迷宮探索者部門のメンテの奴らに急ぎでやらせとけ」
……仕方ないですね。いつも直向きに頑張ってる彼らには悪いですが、作業が間に合わなかったらサブマスが普段の勤労を労って…特別に
「で、その後でお前にやって貰うことが重要案件だ。クラウスのギルド証の準備と誓約書と契約書を作って貰う。アイツはちょっと
「特殊って言われても…。それに、クラウスさんは初のギルド参入ですよね?」
普通はギルド側から設けた条件を満たす事で初めてギルドの所属となりますからね。石工であれ商人であれ冒険者であれ。
まあ、クラウスさんの見た目でお花屋さんになりたいとかではなさそうですし、
サブマスの言っていたテストとやらがその一環なんじゃ?
「いーや。奴の等級は勝手にアイツが…ギルドマスターが決めちまったから面倒なんだよぉ。……まだ、公にできねえから皆には黙ってろよ? クラウスは迷宮探索者・ハンター・傭兵の三部門で――二等級とする…」
…………。
は? このデカ女は一体何を言ってるんでしょうか?
*
「……おはよう。その、ピエット…嬢?」
「…ん? ああ、おはようございます。クラウスさん。
正面受付には昨晩と変わらずピエッタ嬢が居た。ただ、目に薄っすらとクマができていてまるで別人のように椅子に踏ん反り返ってカウンターに足を乗せていた。やはり、王都の人はガラが悪い。
俺はバーバラさんの言う通り、ギルドの酒場を経由して宿屋の部屋で一泊した。
……転生以来、初めての本物ベッドで寝た。が、十五年のブランクで逆に寝付きが悪かったのは笑えたなあ。でもやっぱり良いなあ…金銭的な余裕ができたらリュカに買ってやりたいくらいだ。一応、領主館にはあるんだが。俺達の家に貰うのは流石に気が引けるし、何よりサンドロックじゃ他領からの輸入した家具なんて高級品だ。
…待てよ? 子供が産まれたら俗にいう赤ん坊用のベッドだって必要になるかもしれん。流石に
……いかんいかん、次第に俺の里心が強くなってきているなあ。
「……今日はパンイっ…服を着てらっしゃるんですね。着替え、買われたんです?」
「いや、何か知らんが貰えた…」
俺は敬語に慣れる為、宿屋でも兎に角敬語を使って頭を下げた。店主にも従業員にも。それが功を奏したのか、今朝になって急に従業員のオバチャンから布の服一式を貰えたんだ。
『アンタも酷い目にあって苦労してきたんだろう…まだ若いのにねぇ。コレはヘリオスに出稼ぎに行っちまったバカ息子が着てたもんだけど、良かったら着ておくれ』
…どうやら俺はここ最近解放された戦奴か剣闘士の類と思われたらしい。
心なしか、他の従業員が俺を見やる視線に謎の親しみと優しさを感じた気がして複雑だ。
だが、貰ったものは有難く有効利用させて貰おう。俺も内心、こんな異世界特有の某ジャングルの王者様式の腰巻同然で出歩くのには抵抗があった。
それに、俺が裸で歩き回ったことでサンドロックへのこれ以上の
「…………。(うつらうつら)えーと…じゃあご案内しますね。もうサブマス達が朝早くから待ってますから、……暇なんすかね? うへっ、うへへひへ…」
何がヤバイとは敢えて言わないが、カウンターから出て俺の前をフラリと歩いていく彼女の負のオーラが気に掛かる…。
「あ。お気になさらず。結局、あのカス…じゃなかったマリデラが戻ってこないんで朝の引き継ぎが終わるまで私があなたを待ってただけですから、ね?」
「あっはい」
実は冒険者ギルドって物凄いブラックなんじゃないのだろうか。いや、そもそもこの異世界には労働基準法が無いのかもしれん。後は単純に俺の上司の匙加減だろ。
*
「よぉし! 来たなクラウスっ!」
バーバラさんは朝早くから馬鹿でか……大きな声で俺を迎えてくれた。まあ、元の巨人サイズに戻ってるから声量も比例してるのやも。
俺を半ば
どうやら冒険者ギルドは上空から見るとコの字型の建物でそれに囲われるスペースが此処らしい。なるほどな。
…あと、訓練場には他にもう二人居た。左右の二人を見てから俺の顔を見てニンマリと笑う。それはそれは邪気に満ちていたぜ。
「……早速だが、これからお前達にはここで
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