Level 1.SP* クラウスとリュカのクリスマス

**前書き**


 相も変わらず、更新が捗らずに申し訳ありません。(土下寝)

 今回はクリスマス記念で書き下ろした内容の無い?エピソードとなります。

 本来であれば次話を投稿した後にコレを持ってきたかった…w(泣)

 具体的には、クラウスがモンスター肉を十階層のセーフエリアで調理して他の冒険者達に振る舞った際にクラウスが焼いているチキン(笑)を眺めての回想となります。

 あ。基本は主人公とヒロインがイチャつく話なので…ラブコメ死ね死ね団所属の方は、口に塩なぞを含みながらご覧下さい。

 <(_ _)>


 ******


 クラウスは王都ハーン最寄りのダンジョンの十階層のセーフエリアにて巨大な鳥のモモ肉を丁寧にローストしていた。

 その照り照りに輝く幸せしか呼ばない焦げ色と、抗い難い旨味しか感じなさそうな薫りに周囲の冒険者は既に魅了されていた。

 あれほどにモンスターの肉を喰らう事に忌避感を露わにしていた若き冒険者達もすっかり涎を垂らして大人しくクラウスの手慣れた一挙一動を見守っている。その様を見て、当のクラウスも気を良くしていた。


 だが、クラウスはこの異世界特有の果実の汁と調味料とで前世の記憶を頼りに味を再現した秘伝の煮詰めたタレを塗る手を止める。

 自身が調理しているものを見てふと脳裏にとあるものが過ったのだ。

 一般的な意見から言えば、目の前のチキン(広い意味では)とそれを結びつける人は少数派かもしれない。もしくは、食い気でロマンに欠けるとダメ出しを受けるやもしれない。

 だが、クラウスの前世の家庭では余り普段から食卓にチキンが出ることがなかったのだが…例外的にその催し物、もしくはそのシーズンの夕食に出されていたという理由からなので当人に悪気があるわけではない。


 それは彼の前世の世界にあった催しで――その名を…クリスマスという。


  *


「そういやあ、サンドロックはまるで季節感を感じないが……世の中は、もう冬のかみの月なのか」


 転生者、クラウス(本名コクラヴィウス)。この時、十四歳。

 この異世界ガーヴァキヤリテにおける成人年齢まであと半年と少しばかりであった。


 因みに、この世界の暦は彼の前世の暦とそう変わらないようである。

 春夏秋冬の四季をそれぞれ、かみの月・なかの月、しもの月として十二の月。前世の記憶と村人達からの教えを照らし合わせると、この冬の上の月は十二月に相当するらしい。

 ただ、王国では新年は芽吹きの春。春の上の月(三月)で新しい年を迎えるという取り決めになっていた。


 そんな事をクラウスがボヤっと考えていると突如、腰を後ろから何者かに抱きつかれる。


「えへへっ」


「……リュカ。何してんの? 恥ずぃんだけど…」


「別に良いじゃないか。クラウスと僕の仲だろぉ~?」


「はぁ。どんな仲だってんだよ…」


 クラウスに抱きついてきたのは村の悪童仲間の少女リュカである。

 もう長い付き合いになるが、クラウスは彼女が未だに何処に住んでいるのか教えて貰えないので知らない。いや、彼女だけでなく大人達も教えてくれないので、暗に知らない方が良いのだろうとは当の昔に理解していた。

 そんなクラウスに何故かここ数年べったりな彼女はシンプルに美少女であり、前世からの童貞であるクラウスの琴線にビンビンに触れて、いやズルズルに引っ張り出すくらいの勢いでむしろクラウスの方がリュカを大好きだった。

 が、そんな傍から見ても砂糖をだだ吐きする両想いの二人だが未だに結ばれてはいない。その理由は野郎の方にある。


 ――クラウスには夢がある。

 それは今世の父親であるグラディウスのように名を残すほどの…否!それ以上の冒険者になって名声と富を成す事だ。

 序に、英雄譚だけでなく、自分だけのハーレムを作ったりと不純な夢もあったのだが口に出してはいない。

 この童貞が女子に嫌われたくないからである。当然である。


 従って、現在仲良くしているリュカの扱いにも正直困っていた。


『じゃあ僕もクラウスについてくね!』


 そう言われてしまいそうなのが、リュカという少女だった。

 出来れば、危険な旅路に彼女を連れていきたくはない。なので、これ以上の仲に進めるのはクラウスには咎められた。

 一方で、王都くんだりで女の子に色目を使うのに彼女の存在は、かなりハイリスクであるなぞとは露にも思わない。と、当人は脂汗を流しながら弁解するだろう。


「むぅ…あ! ね、ねっ! クラウス。二十四日の夜にさあ~また僕と一緒に星を見に行かない? ね!お願いっ」


「二十四? あ~その日は親父に畑仕事手伝えって言われてるんだよなあ~(勿論、狩りだ。つってサボるがね?)……その次の日じゃダメなの?」


 上目遣いによる誘惑を何とか耐えたクラウスが交渉のような交渉になってないような言葉で応じる。

 だが、それを聞いたリュカは途端に笑顔を引っ込めてしまった。


「…あ。うん…その日はちょっと。実は僕の誕生日なんだよね~。だからパパとママとシンベ――皆でお祝いするから……本当はクラウスも家に呼べたら、いいんだけど…?(チラッチラッ)」


「へえ~。リュカって今月の二十五日生まれなのか! ……じゃあ、クリスマスだな」


「え? くり、しゅ…?」


 何とも迂闊な異世界転生者である。

 この王国最辺境たるサンドロックにはキリスト教もなければ、連れ込み宿ラブホテルの類もないのである。実に健全だ。


「あっ。…ああっと、悪い何でもないんだ! わかった!二十四だな!」


「ちょっとクラウスってば…! ………また、はぐらかしたぁ~…」


 墓穴を掘った転生者はその場を逃げ出した。


   *


「おいおい…何処に行くかと思えば。ここはプウの爺さんの小屋だろぉ~? 勝手に使ったりしたら怒られっぞ?」


「大丈ぉ~夫! ちゃあーんと今日は空けて貰った・・・・・・からさ」


「…………。一応はよぉ? 下手な男爵カトゥラス様の従者よりも立場が上のあのジジイにそんなお願いできるって、お前……」


「も、もういいじゃないか!? そんな些細な事なんて!」


 あれよあれよと二十四日の夕方を迎え、密かに村から離れた猟師小屋で待ち合わせた二人。正確にはその片方の少女にもう片方のどこか戦々恐々とする少年が半ば強引に小屋の中へと押し込まれる。


 そして、夜の帳が下りていつも以上に静かな夜を迎えた…。


「何でだろ? やっぱりこの季節の星は綺麗だよねぇ」


「…………」


 ――お前の方が星空なんかよりもよっぽど綺麗さ。


 などと言う歯が浮きそうなセリフが咄嗟に口から飛び出すのを歯を食いしばって耐えるクラウス。寧ろ、言うと逆に引かれてしまう可能性も大いにあるのだが。


「リュカ、話がある」


 クラウスの目は真剣だった。無論、その真剣さは色恋沙汰とは程遠い。

 クラウスは改めて自身の口で言う。

 自分は十五になったら冒険者になる為にサンドロックを出ること。

 そして、リュカは連れてはいけない…ということ。


 クラウスもクラウスで雰囲気に流されることなく、リュカの気持ちを知りながら言葉にする。叩かれても、殴られても仕方ない。そう、覚悟して。


 その結果――


「うっ…うぅぅうぅ~~…っ」


「…あっ」


 リュカを泣かせてしまった。死刑である。

 村の面々ではなく、リュカの父親に万が一知られようものなら当然の如く…確実に死刑である。


「ま、待てっ!? リュカ泣くなよぉ~……ああ、そうだっ!お前にプレゼント・・・・・があるんだ! だから泣くなってば…頼むよ」


「ぐすっ…ふぇ? 僕に…?」


 童貞ゆえか女の涙には極端に弱いクラウスはちゃんと対策を練っていた。


 それは闇夜に包まれた小屋の中で幻想的に輝く涙型の紫の宝石・・・・・・・だった。


  *


 リュカから何とか無事に逃げおおせたクラウスはふと、“クリスマス以前にリュカの誕生日なのだから、誕生日プレゼントに何か贈ろう”と考えたのだ。

 クラウスとは単純な男なのである。


 だが、現実問題。何を送れば良いのだろうか?

 クラウスは悩んだ。


「うーん…あ。そういえば、前にリュカが俺に魔石について聞いてきたなあ。確か紫色の魔石・・・・・だったか? パープル…ってことは上位の氷属性の魔石だろうなぁ~。それなら貰って嬉しいかもしれないな…」


 クラウスはそう村の石垣の上で独り呟くと、遠くそびえる世界三大難所の一つ。恐るべきモンスターの宝庫たる“ツェ山脈”を睨んでいた。


 それから一週間ほど、クラウスは村から姿を眩ませたので多少の騒ぎになったのだが…この時分にはいつものことであった。


  *


「ほら! 明日、リュカの誕生日だろ? 前にお前、この氷属性の魔石について訊いてきたじゃん? だから欲しいかな~って思ってさ。てか、お前…氷属性の適性あったのか? まあ、それはこの際良いか。だから取って来たんだ(…死に掛けたけどな)」


「…………」


 リュカは信じられないといった様子でその宝石の如き魔石とやや困ったように笑うクラウスの顔を交互に見やる。


 クラウスは気楽に言うが、この魔石を手に入れる為にかなりの無茶をしていた。

 先ず、このサンドロックでは氷属性の魔石は自然的に存在していない。つまり、手に入れる為には高位の氷属性のモンスターを狩るしかないのであるが、この辺境で唯一それに該当するのは――氷の貴婦人。かつて、クラウスを氷漬けにしてお持ち帰りしようとした上級アンデッドのレイス・クィーンの変異種で、ツェの最強種の一角を担う正真正銘、伝説の怪物である。

 無論、そんな別格の存在にクラウスが勝利したわけではない。


 それで、どうしてその怪物相手に無事に帰ってこるだけでなく、その氷の魔石まで手に入れることができたのか?

 それはまた、別の機会にて物語るとしよう。長くなってしまうので。


 だが、突如として顔を覆って震えてしまうリュカにクラウスは心配になる。


「あ、あれ? 嬉しくなかったか…? (ガバァッ!!)――おわぁ!? りゅ、リュカぁ!?」


「~~~~っ!!」


 だがまるで爆発物の如く爆ぜたリュカがクラウスに襲い掛かる。

 完全に油断していたクラウスは完全に美少女だった・・・ものに組み伏せられてしまう。


 暗闇の中、床に転がった間接照明の如き魔石の輝きに妖艶に照らし出されて、すっかり怯えてしまっている哀れなクラウスを見下ろすのは――爛々と瞳を光らせる一匹のの姿であった。

 普段の可憐な少女とは思えぬ膂力にクラウスはガチで恐怖する。


「…クラウスっ! クラウス!クラウスぅ!! ぼ、僕も…ずっと…昔からずっと、ずぅ~っと大好きだよ! 嬉しいよぉ!最高!! 最高の贈り物だよ、クラウス!」


「よ、よよっ喜んで貰えたようで何よりです!(半泣き)」


「…ありがとう。僕、初めてだから…ママやラム達から聞いたみたいに上手くできないと思うけど……頑張るから…ねっ!」


「頑張るって何を……っ!? あぁ~止めて!許してぇっ!! 何故、俺の服を脱がすんですかっ!? いや、いやいや!先にお前が脱げとは言ってないぞ!? あ゛ぁっ!それ以上はダメだってば!! い、いいか? 落ちつこう? こーいう事は結婚してから――……アーッ!(断末魔)」


 その夜、二人の記憶に一生残る思いでができた。


  *


「リュカ。夜は冷えるわ、もう中に入りなさい」


「あ。ママ…わかったよ。ただ、ちょっと星を見てたんだ…」


 現在のサンドロックの領主館前に愛するクラウスの帰りを待つ、かつての少女であったリュカとその義母であるゾラの姿があった。


「…? アラアラ、妬けちゃうわね。私がカトゥラスから貰ったものより三倍は大きいんだもの」


「えへへ…だって、コレを見てると僕ってクラウスにこんなに愛されてるんだって、嬉しくなって安心するんだもん」


 リュカが大事そうに胸に抱いていたのは、一年前にクラウスから手渡されたあのパープルの魔石が填め込まれたブローチである。因みに冗談抜きで国宝級に等しい価値がある。まあ、この先何があっても彼女はそれを手放しはしないだろう。愛ゆえに。


「全く、昔からあなたは私の膝の上でその話を聞くのが好きだったわよねぇ」


「うん! だってロマンチックでしょ? 僕だってちっちゃい頃から憧れてたんだよ」


「それにしても、あんな不愛想な顔してクラウスもやるわよねぇ。…一体誰からその話を聞いたのかしらね?」


 それは、若きカトゥラスが当時ブーマー領の筆頭従者であるゾラに求婚した時のエピソードであった。当人のゾラは未だに語り草にし、夫であるサンドロック男爵を揶揄うのに用いているほどである。

 そう、リュカにとって、その宝石としての価値だけではなく、希少な氷属性の魔石という存在は父と義母の逸話に倣う――最も憧れ、受けたいプロポーズ・・・・・だったのである。


 そんな事とは露とも知らず、クラウスはもとから既に射止めていた彼女のハートを幾重にも打ち抜いてしまった結果…彼は童貞を失ってハッピー野郎になってしまった。そして、女は怖いという大切な教訓を得ることができたのである。


「……去年はクラウスに祝って貰えたけど、今年は残念だったわね」


「…ううん。クラウスにはずっと昔からいっぱい…僕は、いっぱい色々なものを貰ってるから。クラウスが帰ってきたら、今度は僕が御返しをする番なんだよ」


 リュカは首を振って彼女の部屋にある鉢植えに咲く青く美しい花を想い、胸のブローチを見て、そして自身の腹部を愛おし気に撫でて微笑む。


 それを見て呆れたように微笑むゾラに肩を抱かれながら二人は暖かな領主館へと姿を消した。


 こうして、今年もまた――冬の上の月の二十五日の夜は更けていく。


 とある少女と家族と仲間に愛される男の帰りを待ち侘びながら……。

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