Level 1.83 サーチ・オブ・パピルス その3



「………ムフッ」


 おっと。イカン…つい、また暫く会えていないリュカとイチャイチャする妄想をしてしまった。序に、何故かまだ産まれていない俺達の子供もいたが…。


 ラ・ネストまで片道四時間、ひたすらに馬車に揺られる間は暇で仕方ないんでな。

 

 …………。

 いつまでも話し掛けてこないが、後部座席の方に居る若い奴らだけの冒険者パーティからキモイ奴だと思われてないだろうか? …不安だ。


 何故か知らないが……俺はギルドでは距離を置かれるんだよなあ。

 何でだ? イジメか? 異世界転生者虐待か?


 そりゃあ確かに…ギルド初日にバーバラさんからの調書を終え、身包みを剥ぎ取られてしまった俺があてがわれた宿屋へ向かう為に一階の飲んだくれ共の溜り場お洒落なレストラン(笑)を通り抜ける時にゴロツキ冒険者共(それともピエット嬢のファンか?)に絡まれちまってさ?


 五人ほどボコボコにしてやった。


 流石に素手じゃ殺してないと思うが……翌朝には床に転がってなかったから多分大丈夫だ。誰かに片付け・・・られてしまったわけじゃないはずだ。…だよね?


 そして、あの訓練場爆破事故・・……が、原因なのかなあ~?


 正直言って俺はこれでも寂しがり屋だ。サンドロックを離れて感じるこの孤独感を埋める為に友達・・が欲しいんだよ。

 おっと、リュカが恋しいからって流石に浮気なんて考えちゃあいないぞ?

 あくまでそう…話し相手レベルでいいんだ。出来れば同じ冒険者が望ましい。俺は報酬くんだりや身の上でソロ活だしな。気軽に接することができる者が増えれば、王都でやる単身赴任出稼ぎも少しは気が楽になると思ってな…。


 既に知り合ってるリーのパーティだが、彼らは基本傭兵部門で一旦ギルドを離れるとなかなか王都に帰ってこれないそうだ。それに、欲を言えば俺と同じ年齢くらいが良いんだよ。……まあ、精神年齢的にはリー達もそれに大いに当てはまるか。いや、むしろ年下だったか? ううん、埒が明かない。


 後ろの五人組はその点は丁度良い塩梅だ。恐らく一番上でも十八くらいに見える。剣士一人に楯役が一人。魔法使いが一人に斥候が一人と……弓使いの彼女だが何となく魔法も使いそうだな? ちなみに斥候の方も。まあ、だけどな。

 俺の後から乗ってきてからチラチラと視線を向けてきてるんだがなあ~。

 …いや、視線の先はどっちかつーと俺の腰か?


 ――アイテムボックス。これまた異世界ラノベやゲームじゃテンプレの品だ。作品によっては、大小無数を完全に自身の異空間に収納できちゃう超便利コンテンツ。

 けど、俺の腰のベルトにぶら下げてんのはその劣化版・・・マジックアイテムってとこなんだよなあ~。


『あ。クラウスさんにはコチラをギルドから御貸し致しますので…』


『ほよ?』


 リー達と初ダンジョンから王都に帰還した際にピエット嬢からコレを渡された時はそりゃあテンションが上がったよね。だって、定番の便利グッズが手に入ったんだからな。コレがあれば今後のソロ活も捗るってもんだろう。


『……その、大変喜んで頂いてるところ恐縮なんですが……そのギルドの印章入りのマジックアイテムは、他のダンジョン産のものとは違って特別仕様・・・・でして…?』


 何? 特別仕様とな?

 が、最後まで聞けば微妙にガッカリな代物だったわけですよ。


 先ず、このカードゲームのデッキなぞを入れておくのに丁度良いスケールの箱型ポーチのようなアイテムボックスだが、この王都にある大手マジックアイテムの大店であるジューン家が研究開発したブツであるらしい。

 そして、その硬革製のデッキケースには一部のマジックアイテムを除いて大小関係なく百個までのアイテムが収納可能だ! ここまでは良いんだ!ここまではっ!

 ……が、このアイテムボックス、一度ものを放り込むと自力では取り出せない。

 王都の冒険者ギルドに提出することで中身を取り出して貰える。

 だが、何故だか知らんが収納していたダンジョン産のアイテムはギルド側でほぼ総買い取りとなってしまうという二点の問題があるんだよ。


 諸君、どうだろうか? コレ、使える?

 

 いやいや、使えないことはないんだよなあ…。持って帰る売却用のドロップアイテム分は嵩張らないで済むし…。

 けど、惜しい。どうせならダンジョンに持ち込む備品とか入れて持ち歩けたら超絶便利なのに…! いや、出せないだけで入れる事は可能だ。肝心のダンジョンで使えないけどな!?

 だが、問題はどっちかってーと二つ目にある。そう、アイテムの強制買い取りだ。

 未鑑定だが良さげなアイテムなり装備品を入れてしまっていたらどうすればいいんだ? と、俺がピエット嬢に聞くとだ。


『それはぁ……当ギルドで販売する売り値・・・で買って頂くしかないんですよね…』


 つまり、十中八九、買取の額とギルドでの販売価格が釣り合っていないと暗に言っているということだ。じゃないとギルド儲かんないもんね。なんて搾取だ!


 何でこんな仕様にすんだと憤慨したが、聞けば他領への横流し・高額転売を防ぐ為の措置だそうだ。それに貸与される冒険者も二等級以上であれば金銭的な余裕もあるとのことらしいんだが……因みに、手に入った高額なアイテムをギルドに提示しないことは咎められる行為とされる。

 つまり、俺がこっそりひょんなことから覚えた無属性魔法<強さの証明レベルチェッカー>で鑑定して懐に入れてるのがバレると怒られる(だけでは済まんだろうが…)というわけだ。基本的にダンジョンで手に入ったブツはギルドにボッシュートされる仕組みらしい。まあ、金にはなるわけだが。


 だが、その対処法・・・なら既に思いついている。問題無い・・・・


 ……もうそろそろラ・ネスト近くまで続く森を抜ける、か。

 …んん?


「悪い。停めてくれ」


 何か森の中に居た。うーん数は恐らく三か四か…。完全な姿は捉えられなかったが――っぽいな。しかもとか結構派手な色だから嫌でも目に付く。反射的に御者のおっちゃんに声を掛けちまったが、後ろの奴らは気付かなかったのか?


 が、今日も今日とてこの始発馬車に乗る為に朝飯を抜いちまったから俺も腹が減ってたんだ…丁度良い・・・・


 おっちゃんはちゃんと馬車のスピードを緩めてくれたので俺は嬉々として跳び降りた。さて…王都のはどんな味がするのかね?

 

   *


「けぷっ…結構美味かったな。やっぱり、モンスターの肉の方が旨いよなあ。リー達が昨日奢ってくれた飯に出た、初めて食う異世界の牛肉・・も悪くなかったが……やっぱ、薄い・・んだよなぁ。味というか魔力が、か?」


 俺は早速仕留めたデカイ紫色の鳥を捌いてガッツリ試食。

 うん、これは焼いて食べるのが良いだろう。今回ダンジョンで喰う用に調達した肉にはそれに合う味付けと下拵えをしておく。

 なかなかデカイ。喰いでがあるんだが、こういう時にこの腰のアイテムボックスを活用できないのは本当に残念でならない。それと雷魔法ランダムサンダーで四羽中の二羽を消し炭にしてダメにしてしまったのも俺としたことが失敗した。雷属性が弱点だったのかな? 炎属性でグリルチキンにしてやれば無駄にしなかったもしれん。今後は気を付けよう。どうにも王都近辺のモンスターはやわでいけないな。


 腐ってても仕方ないので四本のモモ肉を担いでダンジョンに向うことにした。


 やはり、周囲からは奇異の目で見られてしまった…本当にモンスターの肉を食べないんだなあ。じゃあ、普段は代わりに何を喰ってるんだ?


 だが親切な・・・ダンジョン前の衛兵さんが『毒があるモンスターの肉は出来れば丸一日放って置いた方が良いぞ?』と教えてくれたんで、そのさり気ない気遣いにホッコリした。


 と、同時に俺ももっと気を付けねばと気を引き締める。

 ……やっぱり毒があったか。大抵毒があるものでも、俺にはちょっと舌先がピリッとする程度で済むことが多いから油断してたな。ありがとう!門衛のおじさん!


  *


「良し。いいペースで進んでるぞ? これなら運が良ければ明日、明後日には十一階層に進めるかもしれない…!」


「へへん! このペードエ様がいるんだ当然だろっ!」


「コラ、ペード。調子に乗るんじゃ~ないわよ」


「で、でも一日で一階層進めてるし。順調だよね!」


「ああ。だが、油断は禁物。俺達の目標はあくまで十一階層への到達中等級に昇級することだ。十階層まで無事に辿りつけたんだ。ヤジャ、今日はもう地上へ戻るんだろ?」


 グワンの言う通りだ。僕達はまだ銅等級迷宮探索者。無理は決してできない…。


 僕達“雷撃のジャッカル”は順調にラ・ネストの階層を踏破している。二日目で現在の僕達の最高記録である九階層を遂に踏破していた。

 前回は八階層で物理が効かないモンスターに苦戦して逃げ帰ったが、今回はちゃんと準備をしている。少し値は張ったが、特殊な油を武器に塗布することで一時的にペードやローバーの武器攻撃を有効打にすることができた事は大きい。


 ……いや、実はそれ以外にも明確な理由がある。


「なあ? やっぱさあ、モンスターが少なく・・・ないか~?」


「そーだよねぇ? 昨日もだけど一階層からずっとここまで…うーん前回のダンジョンアタックの時の半分くらいしかいないんじゃない?」


「…………」


「どうした、ヤジャ。何か考え事か?」


「…や、いや。何でもないよ、地上へ戻ろう」


 ここまで順調な理由――それは最深層までほぼ消費せずに僕達がこれること、だと思う。でも何でだろう……の姿が頭に過るのは?

 いや、余計な事を考えるべきじゃないな。


 僕達が地上へ目指し、上層への階段へ向かうと別通路から他の冒険者達が歩いてきた。

 ギルドで見知っている顔だ。普段はソロで活動したりこうしてパーティを組んだりもしているベテランの二等級迷宮探索者だ。


「お。新人共じゃあねえの! 今から地上へ戻るのか?」


「はい! あの先輩方っもスか?」


「…あ、ああ。予定よりちっくと早いが俺達は王都へ引き揚げだな」


 そう言って、一人が腰のギルドの印章入りのマジックボックスをコンと叩いて見せる。

 ……? 変だな。どこか様子が変な気がする。

 …まるで、何かに怯えているみたいな。いや、僕の勘違いだろう。


 貴重な先達の言葉を引き出しながら僕達は一緒に地上まで移動する。そして、丁度古代遺跡エリアを抜けて三階層へと出たタイミングでだった。


「……お前ら、この先の――十一階層に進むつもりか?」


「もちのろんっスよ! 今回は自分ら気合い入ってるんで!」


 開口一番に飛び出るペードの言葉に僕達は苦笑いだが…少なくとも皆の気持ちは一緒だと僕は確信する。


 だが、その瞳を輝かせるペードに対してベテラン達の顔色は優れない。


「そうか…なら忠告しておくがな。あのプルト人の髪色でも赤髪でもない頭の――クラウスって奴には気ぃ付けろよ?」


「「…っ!?」」


 僕達は無言で息を飲む。


「いや、別にアイツがちょっかいを掛けてくることなんてないんだがなあ」


「逆にまるで他の冒険者には興味はなさそうだがな? まあ、セーフエリアのアゲートさん達とは親し気だし。きっと悪い奴でもないだろ」


「いざ、話しかけてみると思ったよりも気さくだったっけか……あの目付きの悪さはどうしようもないが。だがなあ~…」


 どうにもベテラン冒険者達は自ら忠告した割にウンウンと悩んでいるようにも見えるけど?

 僕は意を決してその先を聞いた。


「兎に角! 迂闊に近づかなければ問題ない。寧ろ、直ぐにその場から逃げろ」


「ど、どうして…?」


 遂に一人が地面にしゃがみ込んで重々しく口を開いてローバーの疑問に答えてくれた。


「……アイツは無茶苦茶だ! いや、そもそも本当に俺達と同じ二等級なのか・・・・・? どうにも俺にはもっと…とんでもない化け物に見えて仕方がないんだ」


「「…………」」


「俺達が最初に見たのはアイツが嬉々として隠し部屋の宝箱を真正面から蹴った・・・ところだった」


「…はっ、はあ!?」


 思わずそんな悲鳴にも似た声を上げたのは僕らの斥候役であるグエンだ。

 けど、普段冷静な彼でもそんな風に狼狽えてしまうのも無理はない。


「だって、そんなことしたら…」


「勿論。罠が作動する。俺達は今日だけで二度・・見たよ。毒ガスと爆炎だったなあ……爆炎の罠の方はホント俺達の居る部屋まで吹き込んできやがったから、危うくコッチまで丸焦げになっちまうとこだった。…アレは怖かった」


「え…それじゃあ、そのクラウスさん・・は…?」


 トクインの心配、というか疑問は最もだろう。というか、先ず前者の毒ガスだけでも下手をすれば十分に致命的だと思うのは…僕だけなのか?


『ゲホッゲホッ…何だよ、ただの・・・毒ガスか? ビックリして損した』


『アッチぃ!? クソッ失敗した! ちょっと外套が焦げちまったよ。帰ったらリュカが怒るかも…ああ、そうか。脱いでから・・・・・やればよかったな』

 

「…てな具合で平然としてたな? そんで何でもないかのように宝箱の中身を漁ってた」


「「…………」」


 言葉を失うような出来事だが…魔法を少しは学んでいる僕にはまだ冷静さが残っているようだ。…不可能では、ない。

 無毒化や耐火の効果を持つマジックアイテムを身に着けているか、事前に同じ効果のある魔法を掛けていれば可能だ…例えば、今回ペードやローバーに使った油のような。けど、とてもじゃないが現実的ではない。


「残念だが、まだある」


 えぇ…っ。


「先に言っておく。お前達は絶対に真似するな・・・・・・・・?」


 これ以上何があるっていうんだ?


「アイツは宝箱から嬉しそうに何かを取り出して眺めていたんだが…パピルスだった。知ってるか?」


「知っています。貴重な代表的なダンジョン産のマジックアイテムですよね?」


 その効果がどんな弱い魔法でも、一本売れば暫くは楽に生活できることは僕達でも百は承知していることだ。


「そうだが、あろうことかアイツは未鑑定・・・状態であろうパピルスを迷うことなくその場で使いやがった…」


 …………。


 …ふぁ!?


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