第50話 陛下に会いたい




 どれだけの時間を過ごしただろう。どんどん心はすり減っていたが、僕はただただ現実世界へ戻れることを祈った。



 諦めず、耐えて、耐えて、耐えて、耐えた……。




 耐え抜いた先の、真っ暗な世界。







「よぉ〜! また会ったな小僧」


「……やっと……会えましたね」


「はっはっはっはっ! 随分と憔悴しているみたいだな!」


「お陰様で……」


「試練突破おめでとう!!」


「はぁ……ありがとうございます」


「あれれ〜? もっと喜べよぉぉぉぉ」


「すみません……喜ぶ気力が……」


「まあいい。楽しませてもらった! もう会うことはないと思うが、元気でな!!」


「はい……出来ればもう会いたくないです……」


「つれねぇなぁ〜! まあいいか。じゃあ、現実世界へ、行ってらっしゃ〜い!!」








 う、眩しい……!!
















 再び目を開けると、陛下がいた。ああ、ここは現実なんだと思うほど、陛下はゲッソリとしている。



 死んだ目をしていた陛下は、目を見開いて、涙を浮かべた。



「あぁ、アシュ……アシュ!!!!」


「陛下、ただいまです」


「おかえり……おかえり!!!!」


「アシュ様……よかった!!」


「あ、聖女様……アドバイス助かりました」


「よかったです……本当に……っ」







 それから教皇やルカニエ、サリナとベルニも急いで駆けつけてくれて、僕の生還を喜んでくれた。









「アシュ……本当に……もう大丈夫なのか?」


「疲労困憊こんぱいって感じですけど……」


「ああ……眠ってしまったら、そなたがいなくなるようで怖い」


「もう大丈夫ですよ。貴方のアシュはここにいます。ほら」




 僕は陛下の手を取り、僕の頬に持っていく。




 陛下は見るに堪えないくらい憔悴しきっていて、何日も眠れていないようだ。



「僕はどれくらい眠っていたのですか?」


「1ヶ月だよ……」


「なっ……1ヶ月……そんなに経っていたんですね……」


「聖女が頑張ってくれていた。私は何も出来なかったが」


「聖女様が初めて来た時、僕見てたんです。声を出しても届かなかったけど……」


「そうだな。そなたが居てくれたことを知れた時は、本当に嬉しかった。でも、私が少し離れている間にそなたは消えてしまった」


「聖女様からアドバイスを貰ったんです」


「ほう。それは聞いていないな」


「確証がなさげだったので、仕方ないかと……」


「どういう助言を貰ったのだ?」


「僕の身体に入ってみたら、何かが起こるかも……って」


「実際やってみたら、何かが起きたと……?」


「そうです。真っ暗の世界で、悪魔と会いました」


「何?! あの時の悪魔か?」


「はい。その悪魔に試練を与えられたんです」


「試練……」


「辛い状況を何度も経験させられました」


「それは……辛かったな……」


「でも、今僕はこうやって、大好きな人と一緒にいられてる。嬉しくて……」





 僕は気付けば涙を流していた。安堵と、幸せを噛み締める涙を。




✦︎✧︎✧✦


 今僕は陛下と同じベッドで横になっている。陛下に抱きしめられた状態で……。





「陛下、そろそろ寝ませんか?」


「まだ寝るには早いのではないか?」


「少しでいいから寝てください……どうせ何日も寝ていないでしょう?」


「そうだが……アシュ、私が眠っている間もずっとそばに居てくれるか? 約束してくれないと……」


「わかりました。ずっとそばに居ますから」


「わかった。仕方ない。少し眠るか」







 そう言うと数秒足らずで陛下の寝息が聞こえてきた。ああ、僕が聞きたかった音。



 陛下の寝顔を充分に見たあと、僕もいつの間にか眠ってしまった。













 コンコン




 扉を叩く音で目が覚めた。




「んん……?」




 目を開けると、陛下の服がはだけている!!



「わ、陛下っ……! あの、ちょっと待ってくださいね!」




 僕は大きな声で、扉の向こう側へ話しかけた。返事が聞こえたから、間一髪……セーフ。



「んん……?」



 バサッと陛下の首元まで布団をかけ、中に入ってもらった。




「失礼致します。お食事をお持ちしたのですが、こちらで召し上がられますか?」


「あ、ありがとう。そちらに置いてもらえますか? あとは自分でやるから……」


「承知いたしました。何かあればベルでお呼びくださいませ」


「うん」


「失礼致します」





 ガチャ










「あ、危なかった〜!!」


「執事長だったから、見られても問題なかったぞ」


「え、そうなんですか……?」


「あぁ。それに、発表まで残り2ヶ月を切った。そろそろ使用人たちにも伝えるつもりだ」


「それなら……よかったです。もうそんな時期なんですね」


「ああ、楽しみだな」


「はい!」


「さあ、食事にしようか」


「そうですね」






 僕達はこの陛下の部屋で、僕が体験した話をしながら、ゆっくり食事をとり、デザートを楽しんだ。





「では……共に入浴でもどうかな?」


「……へ?」










 僕が陛下と……お風呂〜〜?!?!?!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る