第9話 ルカニエについての情報

 僕達は試験が終わったあと1泊し、次の日の朝には家に帰った。ベルニとまたお別れすることになったけど、一緒に旅が出来てよかった。






 ずっとなにか方法はないかと考えていた僕は、閃いた。

 武器の闇取引ってのが問題になった国もあるみたいだし、武器製作所があやしいんじゃ……?!ちょうどそこで働いている女性と仲良くなっておいたから、久々に会いに行こうかな。







 そして僕は髪をおろし、平民女性の姿に変装した。


「ちょっと遊びに行ってきます!」


 執務室にいるルカニエと父に一声かける。


「おお、久々の格好だね。気をつけて行ってらっしゃい」


 父は見慣れた姿に軽く返事をしたが、ルカニエは目を丸くしている。


「えっと……アシュ様ですか?」


「はい、驚かせてしまってすみません。自分が誰かバレないように、遊びに行く時とかはこんな格好をしてて……変ですよね」


「いやいや!そういう意味じゃ……女性にしか見えなかったので驚いただけです」


「嬉しいです。じゃあ、行ってきます!」




 ふふ、ルカニエに怪しまれずに行けそう。ギルドの人達が紛れてるかもしれないから、慎重に行動しよう。




 馬車で近くまで送ってもらい、武器製作所で働く女性の家の前まできた。コンコンと扉をたたくと、はーいと返事が聞こえ扉が開く。ちょうど今日は休みだということは下調べしていた。




「久しぶり!」


「え! 何ヶ月もどこ行ってたの?! やっと会えた。さあ、中に入って!」


「心配かけてごめんね。最近忙しくてさ」


「家も教えてくれないし、謎が多い女だね〜」


「今家には誰もいないの?」


「いないよ。兄は仕事だし。あ、お茶でも飲む?」


「うん、頂こうかな」




 お茶を入れてくれている隙に、念の為の遮断魔法をかける。僕達は他愛もない話をしたあと、仕事の話を聞き出す。




「最近仕事はどう?」


「それが…うーん。あんたのこと信頼してるから言うけど。誰にも言わないって約束してくれる?」


「もちろん! なになに?」






 僕達は肩を寄せ合い、ひそひそ話を始めた。





「新しい領主の代理で男が来たんだよ。思わず見とれちゃうくらい綺麗な顔をしてた。その人がたんまりお金を渡してくれてさ。

 本当はダメなんだけど、国と武器屋以外のところで取引したいってさ」


「こわ……どこと取引するって?」


「そこは知る必要ないって言われた」


「そっか。なんか怪しいね。材料の鉱石は? どこから手に入れるの?」


「そこまでは知らないけど、新たなルートで手に入れてるみたい」


「すごい話だね。バレたらおしまいだよ……」


「バレても害が及ばないようにするって。私達の信用を得るために魔法契約書で契約までしたんだ」


「わあ…それならこっちとしては、リスクが低いのか……その取引用に作った武器はどこに置いておくの?」


「裏口近くに鏡を置いたんだ。魔法を唱えると、魔力がなくてもその鏡の中に入れる」


「え?! 入ったの?」


「ちょくちょく入ってるよ。魔法道具なんて初めて使った。中はすんごい広い部屋になっててさ。どこに繋がってんだか」


「別世界みたいだね……なんて魔法を唱えるの?」


「アペルタって言うだけ!」




 非常にいい情報が手に入った。詳しく話を聞いてみると、そこの責任者も買収されているらしい。

 生産量を増やすため、違う場所で武器職人を新たに雇ったのだという。魔法で違う場所を繋ぐこともできるからだ。キャッツクロウは魔道士が多いから、こんな事も出来るのだろう。


 なにも証拠が得られない僕たちを嘲笑っていたことだろう。今に見てろ。余裕をかましていられるのは今だけだ。



 僕は家に着いたあと、ルカニエに悟られないよう普段通り過ごし、ルカニエが帰った夕食後の時。僕達は部屋に集まった。



「盗聴されてないよね……?」


「それは毎日確認してもらってるし、大丈夫だよ。魔力の痕跡は今の所ない」




 父が遮断魔法をかけてくれた。


「じゃあ早速話してごらん」


「実は……」


 僕は2人に今日あったことを話した。


「あのクソ野郎……」


 母が拳を叩き、怒りを露わにする。





「直ぐに陛下に連絡しよう」





 陛下は急な連絡に応じてくださり、すぐに報告することが出来た。






「なるほど……アシュ、でかした!第1騎士団を動員させても暴けなかったことを暴いた。なかなか驚かせてくれる。それでは向こうにバレないよう、内密に調査しなければならんな。

明日すぐに動くというのは安易すぎる。相手はキャッツクロウだ。調査は第1騎士団が行うとしよう。だから君たちはとにかく、怪しまれないようにこれまで通り気づいていない振りをして過ごしてくれ。証拠が集まり次第すぐに対応できるように、根回しもしておく」



「「仰せのままに」」




 何故ここまで有力な情報が得られなかったかには、理由があった。

 500年前から移民を受け入れるようになったモルガ王国は、徐々に自由を謳うようになり法律ができた。

 例え国王陛下であっても、権力を行使してはならない。そのため、武器製作所の内部を捜索するには正当な理由と、それをきちんと記載された令状も必要になる。






 ついに、大きな一歩を踏み出した。僕が役に立てたという事実が、とても嬉しかった。












 3週間が経ち、陛下から全ての証拠が見つかったと報告があった。

 ルカニエを武器の不正売買の容疑で一時身柄を拘束することになった。僕が今回の件で大きく貢献したとしてルカニエに直接命じる役目を頂いたのだ。



 もう少ししたら第1騎士団が押し寄せてくる予定だ。




 その時を待ち、僕とルカニエは執務室に籠る。

 何も知らないであろうルカニエを見ていると、向こうがこちらに気づき、微笑みかけてきた。


 それに応える僕。楽しみはこれからだよ。悪人はどっちなのかと、我ながら思う。


 まさかこんなに時間がかかるとは思ってもいなかった。無事に解決できそうで本当によかった。後ろ髪を引かれる思いで旅に出る訳には行かなかったし。




 そうこう考えていると、バンッと扉が開き、騎士団の皆さんが続々と中へ入り、列をなす。

 僕は入り口まで歩いていき、その1人から紙をあずかった。一時拘束について書かれた紙だ。


「何故このような状況になっているか、おわかりですよね?」


 そうルカニエに問うと、彼は余裕の笑顔を見せる。


「随分と手こずってらっしゃいましたね」


 なぜ余裕をかましていられる?その挑発するような言葉に怒りを覚える。


「はぁ……とりあえずこちらまで来て貰えますか」


 僕から見て机の向こう側に座っていた彼を、目の前まで呼び寄せる。


 そして僕は騎士団の数名に取り押さえるよう命じた。

 ルカニエは膝をつき、両脇で腕を押さえられる。


「これを見てください。あなたは武器の不正売買の容疑で一時身柄を拘束するよう命じられました」


 そう言って目の前に紙を突きつける。


「これから裁判が開かれます。その結果であなたの命運は左右されます」



「そうですか」


 脅しをかけても微動だにしない。バカにしているのか。


 そして僕は彼の前髪を掴み、顔を近づけ睨みつける。


「あなたは国を脅かした。

 へらへらしていられるのも今のうちですよ」


 彼は僕の顔を見て、法悦の笑みを浮かべた。


「あなたのその目つき……私が探していたもの……」


 目? 僕は今どんな目で彼を見ているんだ?彼は誰かに支配されたいのか?

 いや、今はそんなことどうでもいい。兎に角もう彼とは関わりたくないな。僕の新しい人生に、彼はいらない。


「何の話ですか。気持ち悪い。騎士団の皆さん、連れて行ってください」




 そして彼は連れていかれ、部屋から出る直前に再び僕を見て微笑んだ。彼の不気味なその表情が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

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